研修もなく上司からも教えてもらえない、取引先とのメールや手紙の書き方。“一目置かれる”にはどんな書き方をすればいいのか? 「告白」「復縁」「お礼」「謝罪」「遺言書」など、あらゆる分野の相談を受ける代筆屋、中島泰成さんに教わります。
IT系企業で財務・人事を担当。学生宛てメールは社会人からの初めてのメールかもしれないので、襟を正して書く。「『お断り』を受け入れてくれず、理由を何度も聞いてくる方も。断るって難しい……。」
▼指令1
インターンの応募者(学生)に不採用のお知らせメールを書いてください。
○○さん※1
お世話になっております。○○株式会社人事の齋藤です。
先日は暑い中、インターンシップ面談(デザイナーコース)にお越しいただきありがとうございました。
専攻やアルバイトのお話など聞かせていただきありがとうございます。
その後社内で選考させて頂きました。※2
誠に申し訳ございませんが、今回は見合わせて頂きたく存じます。
理由は
・今回の募集枠が1枠という限られた枠であったこと。
・フォトショップの経験が少ないので、○○さんを“業務を体験する”というところまで持って行けないと判断したため。
・こちらの希望期間である2週間来て頂ける方を優先したため。
です。
※3
今回当社のインターンシップには残念ながらご縁がありませんでしたが、○○さんの明るい人柄やコンクールに取り組む姿勢など、とても眩しく感じました。
○○さんの今後のご活躍を祈念しております。
この度はご応募頂き誠にありがとうございました。※4
【疑問】学生に対するメールの宛名は、「○○さん」でいいですか?
▼先生のお手本
○○様※1
お世話になっております。○○株式会社人事の齋藤です。
先日は暑い中、インターンシップ面談(デザイナーコース)にお越しいただきありがとうございました。
その後社内で、悩みに悩んだのですが、※2
今回は不採用という結果になりました。
ご期待に沿えず申し訳ありません。
不採用の理由は以下の通りです。
・今回の募集はお一人のみだった。
・フォトショップの経験が少ない。
・こちらの希望期間は2週間だった。
デザインのお仕事においてフォトショップは必須だと弊社は考えております。
フォトショップの知識や経験を増やすことで、
○○さんの進路は大きく開かれると思います。※3
今回、残念ながらご縁がありませんでしたが、
○○さんの明るい人柄やコンクールに取り組む姿勢に、
初心を思い出し、とてもよい刺激になりました。
○○さんを必要としている場所は必ずあります。
ぜひ、その姿勢を忘れずに、これからも頑張ってください。
○○さんの今後のご活躍を祈念しております。
このたびは、数ある会社の中から弊社を選んでいただけたこと、心より感謝しております。
ご応募いただき誠にありがとうございました。※4
(※1)相手が学生でも、宛名は「○○様」
不採用通知では、面接試験に来てもらったことに感謝し、敬う気持ちを伝えるためにも「様」と丁寧に書きましょう。
(※2)悩んだ末の結果だと伝える
応募した側にとっては、きちんと審査してくれたかどうかが気になるところ。「悩みに悩んだ」と十分に審査したことを表現してみては。
(※3)嫌われても、伝えるべきこと
もし相手の将来を思うなら、たとえ嫌われても、具体的に相手の足りない部分について指摘してあげるのが良いでしょう。
(※4)応募への感謝の言葉で締める
数ある中から自分の会社を選んでもらったことへの感謝をきちんと言葉で伝えることは、応募してくれた方への礼儀です。
▼指令2
自社のコンペに参加した人材研修業者への不採用通知のメールを書いてください。
お世話になっております。○○株式会社人事の齋藤です。
先日はお足元が悪い中お越しいただきありがとうございました。
講師の○○様にもご一緒いただき、実際の資料を拝見しながら講義内容をお聞きできましたので、研修内容を十分に理解することができました。
先日のお打ち合わせでもお話致しましたが、社内ルール上複数社からお見積もりをいただき採用を決めさせていただきました。
今回は残念ながら○○社様の研修では無く他社様の研修を採用することとなりました。※1
○○様の内容は「アイデア研修」という位置づけでは、トップクラスの研修だと思います。※1
ただ、当社は特殊な業種でありこの業界に特化したトレーニングを社員には受けてもらいたいと思っています。※2
アレンジをする場合別途費用と時間を要するという事もマイナス要因となり、今回は見送らせて頂きたいと思います。
社員への教育研修はこれからも試行錯誤をしながら展開して行きたいと思っています。
その際にはまたぜひ○○様のお力添えを頂ければと思っています。※3
今後とも何卒宜しくお願いします。
【疑問】もっとストレートにお断りしたほうがいい?
▼先生のお手本
お世話になっております。○○株式会社人事の齋藤です。
先日は足元が悪い中お越しいただきありがとうございました。
講師の○○様と実際の資料を拝見しながら講義内容をお聞きしましたので、研修内容を十分に理解することができました。
○○社様のご提案内容は「アイデア研修」という位置づけでは、トップクラスだと思います。※1
ただ、当社は特殊な業種であり、この業界に特化した研修をお願いできる企業様を探していました。※2
また、複数社からのお見積もりを審査している中で、
アレンジをする場合、別途費用と時間を要することもマイナス要因となりました。
厳正な審査の結果、残念ながら今回は見送らせていただくことになりました。※1
社員とそのサービスを受けるお客様のことを想った上での判断です。
社員への教育研修はこれからも試行錯誤を重ねていきます。
今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。※3
(※1)褒めてから不採用を伝える
断ったときに、しつこく理由を聞かれるのは通知文の曖昧さが原因。前半で研修内容を褒めて、後半で端的に不採用の旨を伝えましょう。
(※2)「こちらの事情」をもちだす
不採用の理由は、相手の研修内容の問題ではなく、こちらの要求と違っていたことを伝えるべき。プライドを傷つけない別れ方を心がけて。
(※3)期待を抱かせる文章は削除
不採用後にしつこいメールや電話を受ける最大の原因がこの一文。曖昧な表現は避けて。情熱がある会社なら、堂々と再挑戦するはずです。
木刀ではなく、真剣でスパッと切ること!
不採用は誰だってショッキングな出来事です。アメとムチではないですが、その後のフォローは必要です。今回の齋藤さんの文章は、そんなに悪くなかったのですが、改善できるポイントも隠れています。
まず学生への不採用の通知ですが、いまどきの若者は繊細です。SNSに書かれて一気に会社のイメージが失墜する時代でもあるので、敬意を払った表現を用いましょう。一斉送信での表現にならざるをえない場合もありますが、できれば、「あなたにはこんないいところや、特別なものがあって、ここを頑張れば今後の未来が開けるよ」とアドバイスも伝えてあげたいですね。
一方、コンペの不採用文に関しては、しつこく理由を聞かれたということだったので、相手のプライドを傷つけないように注意しながらも、ストレートに断る表現に変えました。曖昧な表現は相手に誤解を与えます。木刀ではなく、真剣でスパッと切るイメージで書いてみてください。
代筆屋、行政書士。小説『代筆屋』(辻仁成著)をきっかけに代筆業をはじめ、テレビ、新聞などで紹介。「告白」「復縁」「お礼」「謝罪」「遺言書」など、あらゆる分野の相談を受ける。著書に『プロの代筆屋による心を動かす魔法の文章術』。