女性のキャリア、働き続けるということについて綴ってきた本連載。最終回は改めて「キャリアの曲がり角とは?」を考えます。

2015年8月末、都内のとある純喫茶でモーニングセットを食べながら行った打合せから、この連載は始まった。

「結局、キャリアの曲がり角に差し掛かっている私たちは、どうすればいいのですか?」

昨年の夏の終わり、このコラムの執筆を依頼された時に「連載タイトルはどうしましょうか?」と編集担当者からたずねられて、ふと思い出したのが、ある席で女性に質問された、この一言でした。「なるほど、お肌の曲がり角という言葉もあるし、『キャリアの曲がり角』とは言い得て妙だな」と、感心した記憶があったものでしたから。

それ以降、キャリアの曲がり角に差し掛かった、もしくは、本来ならば、曲がってしまわなければならない年齢に達しているはずの皆さんを対象に、キャリアについて考えるべきことを中心に、ああでもないこうでもないと、書き続けてきました。けれども、肝心なことを話すのを忘れていたことに気がついたのです。それは「キャリアの曲がり角とは何か?」という根本的な話。

もちろん、連載開始時にも、ある程度のことは書きました(参考記事:「30歳を過ぎて、ロールモデルを見失った人がするべきこと」)。かつて、ワークスタイルにはそれほど選択肢はありませんでした。男性なら学校を卒業して、企業に入社して、定年まで働いて、という一本道が理想(ほとんどそういう人ばかりだったと思われがちですが、昔から一定数の転職者はいるので、終身雇用はある種の理想像だったと考える方が妥当です)でした。女性は、男性と同じように学校を出たら企業に入るけれども、結婚したら退職、子育てを終えたら非正規雇用者として復職というパターンが一般的でした。そう、「子供の手が離れたら」というセリフとともに、女性は会社を辞め、再び働いていたのです。ついこの間までは。

しかし、そういう時代は終わりつつあります。キャリアが一本道でなくなり、いろいろな選択肢がある時代になった。ということは、道は一本ではなくなり、曲がり角がたくさん現れた、ということなのです。

自分の意思で角を曲がれる時期は、それほど長くない

かつてよりも選択肢がある時代になり、皆さんは自由にワークスタイルが選べるようになりました。それこそ、2世代くらい前の人から見れば、隔世の感があるでしょう。しかし、自由になったはずなのに、それを謳歌(おうか)し、働き方を選べるメリットを享受している、と感じられているでしょうか。改めてそう問われると「微妙だ」と答える人は多いかもしれません。

選択肢が多くなった分、選ばなければならない。この角は曲がってもいいのか、曲がってはいけないのか? それを自分の意思で決めなければならなくなったのです。それって意外に面倒なことだし、責任も負わなくてはならなくなります。

仕事を始めた頃には、青臭いかもしれないけれど「可能性は無限大だ」と思っていたのに、だんだんと自分の限界が分かってきた。周囲を見渡しても、一緒だと思っていたのに、徐々に差が付いている。できることは決まっていて、やりたいことはできそうにない。しかし角が見えてきて、そこを曲がるべきかどうか、自らに決断を迫ってくる。

「誰かが決めてくれればいいのに」……そんな風に思ったとしても、不思議ではありません。ただ、そんなため息交じりの愚痴は、いずれ必要なくなるかもしれません。いまは選択肢が複数あり、自らの意思でその選ぶ作業が必要な部分もたくさんありますが、徐々に曲がり角は少なくなってきます。そして、自分の意思だけでは選べなくなってきます。

例えば、両親の介護が必要になり、やむなく退職する。自分自身が大きな病気になり、結果として違うキャリアを選択せざるをえなくなる。勤めている企業のビジネスモデルに寿命が訪れ、仕事自体がなくなってしまう……。

自分の意思ではどうすることもできない選択肢は、もちろんネガティブなものばかりではないでしょうが、多くの場合、自ら進んで選ぶことはないと思われる「曲がり角」が、これからみなさんの前に現れます。自分の意思で角を曲がれる時期はそう長くはないのです。

曲がり角を上手に曲がる、または失敗しないで曲がるためには

さて、冒頭の質問に戻ります。キャリアの曲がり角に差し掛かっているみなさんは、どうすればいいのか?

まずは、先送りしない習慣を付けること。これが、とても重要なことになってくるはずです。曲がり角は何度もやってくるからと、安易に見過ごしてはダメ。いずれ自分には選択権がない曲がり角がやってくると書きましたが、そうなる前に先手を打つべきです。角が見えてきた、あるいはその気配を感じたら、立ち止まって考えることから始めるべきでしょう。

次に自分の持っている能力を常に把握しておくこと。能力とは、別にスキルに限ったことではありません。資産もそうですし(一念発起して起業したいと考えたなら、素敵なアイデアや画期的なビジネスモデルと同じくらいお金は大切)、人脈だって立派な能力の一つです。いま、この角を曲がって、うまくいくだけの能力を自分は持っているのか、もしくは、真っ直ぐ進んだとして、自分が所有している能力で戦っていくことができるのか。その判断を誤りのないものにするためには、自分のことを自分自身が理解しておくことが何より大切なのです。

最後に、角を曲がるか曲がらないかを決断するための、自分の判断基準を決めておく。これを決めることで、もしも曲がったことで自分のキャリアにマイナスが生じても、自分が決めたことだからと、多少は(微々たるものですが)ショックを和らげることができます。逆に誰かに流されて決めてしまった失敗は……すべてを言わなくても、もうお分かりですよね。

このコラムは今回で終了です。筆者である私にとってもこの機会は、角を1つ曲がるということになるのでしょうか。いつかどこかでバッタリ、皆さんに会えることを楽しみにしています。ご愛読、ありがとうございました。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。