子どもを保育園に預けて働くなら、存分に仕事をしたいと思ったものの、だんだん仕事のプレッシャーは強くなっていく。それでも仕事をつづけてこられた理由は、娘が発したあるひと言にあった。

マネジャーの大きな悩み

アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル 岩井かおりさん

マネジャーには徐々になっていった感じです。ある日本企業が中国と台湾に経営管理基盤をつくる仕事をする中で少しずつ責任を手渡されていきました。中国のときはプロジェクトマネジャーの下につき、台湾のときは自分がプロジェクトマネジャーとして動きました。日本本社と現地との利害関係を調整するのが難しい仕事でしたが、苦労とともに楽しさも味わえた思い出深いプロジェクトです。

台湾でのプロジェクトがうまくいったときは、みんなで喜びを分かち合いました。現地を立つ前に「実は妊娠5カ月で、仕事が無事終わったので休職させていただきます」と挨拶したときの、何と清々しかったこと!

マネジャーになると、お客様が私に要求する責任の度合いもメンバーのときとはまったく違いますし、売上の視点からメンバーを動かす必要も出てきます。得る情報量も圧倒的に多くなりますが、責任を果たすためにはその情報を正しく判断しなければなりません。

ところが大きな悩みが、自分が細かいところまで把握できないと気が済まない性格だったということです。メンバーが持ってきたアウトプットだけではなかなか物事を判断できませんでした。マネジャーの経験を積むうちに、すべて確認しなくてもどういうプロセスを経てその結果に至ったかがはっきりすれば、判断できることに気づきました。でも執行役員になったらなったで、マネジャーから出てくる情報だけで判断していいのかと、今も葛藤しています(笑)。

夫に「育休をとりたい」と言われて

仕事をしていると、子どもといる時間はどうしても短くなります。その分、貴重な時間を大事にしようと思い、夜10時までには極力家に帰り、絵本を読んであげて、子どもが寝付いたらパソコンを開き、持ち帰った仕事を片付けるというスタイルをとりました。

手放せない仕事道具:手帳。紙の手帳は専ら記録用。スケジュール管理はオンラインで。

上の子のときは1年間育休をとりました。次に息子が生まれたときも1年間とるつもりだったんです。ところが、夫が「育休をとりたい」と主張したので、1年のうちの3カ月は任せることに。夫の職場には働くお母さんがたくさんいるし、男性が育休を取ることに対してとても協力的だったので、自分も取ってみようと思ったのでしょう。

仕事から帰ってくると、おんぶひもで赤ちゃんを背負い、台所で夕飯の支度をしている。いじらしいなと思いました(笑)。

夫は結婚するまでまったく家事をしない人でした。結婚して必要に迫られ、やるようになったわけですが、今では料理をつくるのがとても手早くなり、私よりも段取りがいいくらい。

マネジャーになると仕事へのプレッシャーも強くなりますし、正直、子育てとの両立は疲れるなと感じたこともあります。それでも仕事をつづけられた理由は、私が2回目の育休に入ったときの娘の一言です。「うちにいてくれるのはうれしいけど、責任を持ってちゃんと仕事をしているお母さんはカッコいいと思う」。そのとき小学4年生だった娘も今では高校3年生、下の子は小学2年生になりました。

子どもを産むのはタイミングではない

今、私が見ているセクターはITの企画から保守までの広い領域にまたがる業務を担当します。ITのガバナンスやセキュリティに対する診断やIT部門の人材育成、IT基盤やアプリケーションの導入、あるいは他のセクターと一緒にITの経営基盤づくりもします。

岩井さんのストレス発散法:娘と一緒に習っているジャズダンス

複数のセクターが統合し、今は570人にまで増えました。そのうち3分の1が女性で、女性マネジャーも20人ほどいます。

ここでいう「マネジャー」は職位としてのマネジャーです。マネジャーは、所属部門のメンバーの「カウンセラー」となって育成プランに関わります。普段仕事をしているプロジェクトのマネジャーの評価を受けた後、改めて所属している部門としてどれだけ会社に貢献しているかを再評価し、その人のスキルを見えるようにするとともに、その後の育成を考えたうえでの仕事のアサインや中長期的な育成を考えるのです。

マネジャー時代にカウンセラーを担当していた女性のメンバーからよく聞かれたのが、「子どもはどういうタイミングで産んだらいいですか」。女性は子どもが生まれると仕事をつづけていくことを躊躇します。とくにコンサルタントは大変そうだからと、定時で帰れるような会社に転職していく人たちも見てきました。

でも産んでしまえば案外やっていけるものです。マネジャーのとき私が「タイミングじゃなくて産めるときに産むのよ」と助言したら、そのときのメンバーのうち3人は今、2サイクル目に入っています(笑)。

●岩井さんのキャリア年表

1992年(22歳) 食品メーカー入社
1998年(28歳) 第1子出産
2000年(30歳) アビームコンサルティング入社
2006年(36歳) マネジャーに昇進
2008年(38歳) 第2子出産
2009年(39歳) シニアマネジャーに昇進
2013年(42歳) 執行役員プリンシパルに就任