結成20年になるダンスカンパニー「DAZZLE」は、創作欲が尽きることがないという。リーダーの牽引力とチームの結束力には、どう関係があるのだろうか? 【前編】に続き、主宰の長谷川達也さんに話を聞いた。

「DAZZLE」主宰の長谷川達也さん。電気工学を学んでいた大学で、DAZZLEの立ち上げメンバーとの出会いがあった。「20年同じ仲間と踊り続けているのは奇跡」と語る。衣装協力/MUBAC (ムバク)

学生時代にストリートダンスチーム「DAZZLE」を結成して20年。リーダーの長谷川達也は、今年39歳を迎えた。全身全霊で独自の世界観を表現するダンサーという仕事に、年齢的な不安はないのだろうか。

「実は4年前、踊っていて苦しくなって……歳かな、とその時初めて思いました。でもどうやら、太っていたらしいんです(笑)。慌てて食事制限をして、1カ月で5キロ落としました。医者には危険だと叱られましたが。体が軽くなって、また踊れるようになりました」

お酒は「飲めるけど、飲まない」。オフは「明るいひきこもり」を自称する。

「オフは映画を見たりしています。作品のためのインプットを意識しているのかどうかは分かりませんが。最近すごいと思ったのは『雪の轍』という映画でした。登場人物たちが結構長い時間言い合いをするんですけど、その会話の脚本がすごいなと思って」

長くしなやかな四肢で表現する、DAZZLEスタイルとも呼ばれる繊細な動き。坂東玉三郎演出の「バラーレ」公演以降、踊りに変化があったという。

嬉々として話す普段の彼の表情は明るい。でも彼は作品で、人間の心の闇を描く。

「僕の作品に通じるものは『何かを失っている』ということ。記憶、信念、個性、愛、絆。人として大切な何かを失ったり、手放したりしているところから始まる。それを物語で獲得していくことで、未来を示していくというパターンが多いですね」。確かに物語の終わりには、闇から光へ転換する瞬間がある。

「みんな幸せになりたいと思っても、喜びだけを求めても幸せにはなれないじゃないですか。負の感情や喪失感があって、日常の景色が美しく見える。作品ではメッセージを伝えるというよりも、観てくれた方が自分自身のいろんな感情に気付いたり、何かしらの思いを抱いてもらえるとうれしいです」

妥協せず、アイデアを出し続けるのが僕の役目

2009年に日本で賞をとってからは、海外の演劇祭に呼ばれることも増えている。

「韓国、ルーマニア、イラン。特に世界三大演劇祭のひとつ、ルーマニアのシビウ演劇祭に呼んでもらえたのはうれしかったですね。ダンスをしていなかったら会えないような人たちにも出会えましたし、ダンスを続けてきてよかったなって」

イランのファジル演劇祭には今年2度目の参加となった。

「イランの観客は熱狂的なんです。すごく歓迎してもらいました。政情と関係なく、僕たちのダンスとそれを見てくださる人たち、というシンプルな交流ができるのは素晴らしいことだと思います」

東京・代官山で行われたイラン公演報告会は、ダンスあり、メンバーの軽妙なトークありで満席! ギャラリーはファンの熱気に包まれた。

DAZZLEのメンバー8人が、1人1人さまざまな役割を分担して、舞台を作り上げていることも海外公演での安定感につながっている。

「舞台のセットも自分たちで組み立ててきましたから、海外で本番中に壊れたりしても、すぐに直せる(笑)。海外では不都合があっても自分たちでなんとかしなくてはならないので、それぞれに得意なことがあるというのは、僕たちの強みです」

5月に行われたファンへのイラン公演報告会でも、メンバーの息の合った掛け合いが見られた。チームをまとめるために、長谷川が意識しているのはどんなことなのだろう。

「僕自身が意識しているのは、妥協しないこと。メンバーが面白いと思えるようなアイデアを常に出していきたい」

どうしたら人の心を動かせるのか?

大きな決裂がなくここまで来たのは、長谷川のカリスマ性ということか。

「いや、みんなありき、ですよ。僕たちが分裂しないのは、学生のときに始まっている、という点が大きいかもしれませんね。こっちの方がいいとか悪いとか、小さなトラブルはあるけど、大きなトラブルはない。DAZZLEにはお互いをフォローする自浄性があるんです。20年、仲間と一緒にやってこれたのは奇跡に近い。恵まれています」

その根源には、エンターテインメントとは何か、というところの一致した思いがあるのかもしれない。

「エンターテインメントには人をもてなすという意味合いがあると思うんです。もてなし方はいろいろで、提供するものが喜びだったり悲しみだったり。どうしたら人の心を動かせるのか。僕らはDAZZLEの同調性をもって情景を表現したい。誰も観たことのない、DAZZLEにしかできないことを届けたいと思っています」

この秋には20周年記念公演が決まっている。「創作には苦しみも伴うけど、作品を創りたいという気持ちがなくならない」と、長谷川は目を輝かせる。DAZZLEはますますその存在を、熱く確かなものにしていくことだろう。

森 綾(もり・あや)
大阪府大阪市生まれ。スポーツニッポン新聞大阪本社の新聞記者を経てFM802開局時の編成・広報・宣伝のプロデュースを手がける。92年に上京して独立、女性誌を中心にルポ、エッセイ、コラムなどを多数連載。俳優、タレント、作家、アスリート、経営者など様々な分野で活躍する著名人、のべ2000人以上のインタビュー経験をもつ。著書には女性の生き方に関するものが多い。近著は『一流の女(ひと)が私だけに教えてくれたこと』(マガジンハウス)など。http://moriaya.jimdo.com/

ヒダキトモコ
写真家、日本舞台写真家協会会員。幼少期を米国ボストンで過ごす。会社員を経て写真家に転身。現在各種雑誌で表紙・グラビアを撮影中。各種舞台・音楽祭のオフィシャルカメラマン、CD/DVDジャケット写真、アーティスト写真等を担当。また企業広告、ビジネスパーソンの撮影も多数。好きなたべものはお寿司。http://hidaki.weebly.com/