「女性活躍」の時代とはいえ、上司に認められなければ給与は上がらない。結局、どんな女性が評価され、どんな女性が評価されないのか。大手企業の人事部3人が、査定の<裏>を男目線で語りつくす!

【A氏】建設会社・人事部長(50代)。人事歴20年以上のベテラン。かつては男性中心の職場だったが、最近は女性も積極的に採用。管理・設計部門だけでなく、建設現場で働きたい女性が増加していると喜んでいる。
【B氏】外資系製薬会社・人事課長(40代)。人事の仕事を天職と意識し、女性の活躍・登用策にも意欲的に取り組んでいる。外資系だが、「営業現場はまだまだ男社会」。上司を含めた男性の意識改革に積極的に取り組んでいる。
【C氏】IT企業・人事部長(40代)。人事部門の責任者として女性の育児と仕事の両立支援策には積極的に取り組んできた。仕事に前向きで意欲的な女性は高く評価する一方、そうでない女性には厳しい視線を向ける。

“責任の重い仕事”は女性に任せない

――人事評価は、上司の主観で決まってしまう面もあります。男女によって評価が変わることはあるのでしょうか。

【B氏】うちは外資系だけど、仕事の責任の重さや職責で給与が決まる職務給なので、基本的に性別や年齢による給与差はないね。同年齢の男性より100万円以上年収の高い女性だっている。ただし、男性が多い営業部門では男性の給与が高く、女性は低い傾向がある。なぜなら、責任の重い仕事を女性に任せようとしないから。

【C氏】それは日本企業でも同じだよ。人事評価は、業績評価と行動評価に分かれ、業績は目標の達成度が数字で一目瞭然になるけど、行動評価の項目は抽象的なので、どうしても好き嫌いが入り込む。例えば、あるプロジェクトのリーダーを誰かに任せようとなった時、能力の高い女性がいても、男性上司の多くは、男性をリーダーにして女性をアシスタントに任命する。結果、女性は男性より行動評価が低くなり、給与も低くなるわけだ。

【A氏】建設業界にも女性を責任者にしたがらない男性が多いね。管理部門ではそうでもないが、営業部門では、顧客から「なんで女が責任者なんだ。この会社は男がだらしないな」と言われてしまうこともあるからね。

【B氏】女性に責任の重い仕事を振るのは、体力的に無理だという男性上司もいる。うちの場合、医療機器の営業はオペ(手術)に立ち会って機器の効果を見せなければならない。心臓や脳のオペになると、8時間から10時間立ちっぱなしでつきあうことになる。医師も真剣勝負だから、ちょっとでも手順が違うと厳しく叱責(しっせき)される。それに、医師の世界はいまだに男尊女卑の傾向が強い。気力・体力面で問題がなくても、女性をマネジャーに据えるのは難しいと言う人が多い。

【A氏】少し前、上司によって不当に評価を下げられたケースがあった。行動評価は業績評価と違ってそんなに変わるものではない。にもかかわらずS、A、B、C、Dの5段階評価で前期にAだった女性がCを付けられたんだ。2段階も下がるのは明らかに変なので、人事として上司に理由を聞いたら、結局、好き嫌いの問題だとわかった。

結婚や出産で退職や休職するのでは……と不安な面も

――同じ能力を持つ部下が男女ひとりずついた場合、男性上司は、やはり男性を引き上げる傾向がありますか。

【C氏】それは、どの会社でも絶対にそうだと思うよ。だって、男なら仕事に対して無理がきくし、セクハラも心配しなくていい。先進的な企業では「同じ能力なら、女性を引き上げるようにしています」と自慢気に言うけど、それは「方針」であって、実態とは違う。

【A氏】女性の部下を昇格させて自分の下につけると、やはり結婚や出産で退職や休職するのではと不安がる上司も多い。積極的に引き上げたくないというのが本音じゃないかな。

【B氏】女性に対する理解不足もまだまだあるね。先日、ある女性社員が「生理痛が2日ぐらい続くので、今月は2日の特別休暇をください」と上司に頼んだところ、「2日も続くわけがないだろう。うちのカミさんなんか、1日も休まないけど平気だぞ」と言ったそうだ。この上司は、部下に対して「権利だけを主張して仕事に不真面目だ」という印象を抱いて、評価も厳しくしていた。

――それは理不尽な話ですね。ところで、産休・育休や短時間勤務が評価に影響したり、給与に影響を与えることはありますか。

【B氏】ないと言いたいところだが、微妙だね。うちでは産休・育休明けに定時退社する女性も多いが、それを理由に、等級や給与を下げるのは法律的に問題なのでやらない。しかし、「君はマネジャーだけど、残業しないから就業時間内でしか部下を管理できないよね。それってどうなのかな」とやんわり説得する上司はいる。そして本人同意のうえで、部下なしの専門課長に据えて、給与等級を1ランク下げたりしている。表向きは存在しない「裏の運用」があるんだ。

表向きには存在しない「裏の運用」がある

【C氏】うちでは以前、休職期間中の人には、最低評価をつけることになっていた。実際に仕事をしていないし、何も貢献していないからという理由で。しかし、最低評価だと減給になるので、数年前から休職中の人には平均のB評価をつけるように制度を変えた。

【B氏】うちでは休職期間中の評価はしないので、育休で1年休んでも、育休前に高い評価を得て、育休後の1年で同じ評価を出せば昇格候補者になれる。ただし、2期か3期連続で高い評価を得ないと昇格候補者にはなれないけどね。

【A氏】弊社では、1年もブランクが空けば、男女を問わず振り出しに戻す。そうしないと、独身で頑張っている人や、休職社員の分も肩代わりして働いている人に説明がつかない。彼らの評価が思わしくなかった場合、「働いていない人のほうが、なぜ私より評価が高いの?」、「休んでいるのに、あの人はなぜ昇格のチャンスがもらえるの?」という不満が必ず出るからだ。

定時退社や短時間勤務の評価はシビアに

――定時退社や短時間勤務の部下への対応も、同じ問題をはらんでいますね。

【C氏】時短勤務者の場合、その人が会社にいる時間帯にあわせて会議などを設定しなければならないし、本人が働ける時間も限られているので、責任の重い仕事は振れない。結果的に以前より評価を下げることになる。

【B氏】営業職で定時退社する女性への対応は、うちの場合、上司によって変わる。定時退社だと外回りの顧客営業はできないので、内勤に変わることがほとんどだけど、ある上司はそれを理由に部下の評価を下げて、昇給がストップした。その一方、同じ内勤でも、ほかの営業職の事務処理業務や部下の指導も任せることで、以前と変わらない評価をつけている上司もいる。

【A氏】私は定時退社でも時短勤務でも、期待通りの仕事をしてくれれば高く評価するし、逆に大きな仕事を任せたときにパフォーマンスを出せなければ評価を下げる。その点はシビアだ。時短勤務でパフォーマンスが下がれば、結局、周りの男性や女性がカバーすることになるのだから、彼らの手前、甘い評価をするわけにはいかないよ。

※本誌最新号では引き続き、「仕事ぶりを見ていて評価を下げたくなるのはどういう女性?」、「男性上司から高く評価されるのはどんな女性?」と、「評価の基準」について本音を直撃しています。続きは「PRESIDENT WOMAN 2016年7月号」をご覧ください。