出産・育児や介護など、ライフイベントをきっかけに働き方を考え直す総合職女性がたくさんいます。そんな彼女たちが求めるのは“ゆるキャリ”ではなく、より濃密で自分の力が生かせる仕事。定年以降も見越して、今後長く働き続けるためには、どんな選択肢があるのでしょうか。キャリア女性をサポートする人材紹介会社Warisが実施した調査結果を基に考えます。
総合職女性が転職・独立を考えるときとは
「働く女性に能力を生かせる、フレキシブルな仕事を紹介したい」――そんな想いからWaris(ワリス)という会社を創業して3年になります。こういうお話をすると、「それって“ゆるく”働きたい女性を支援するっていうことだよね?」「子どもが生まれると、“ゆるく”働きたい女性が増えるよね(そんな女性に失望する)……」というご意見をいただくことが少なくありません。
しかし、これまで2500名を超える総合職女性たちの転職・独立相談にのってきた経験から申し上げると、少なくとも私たちのところにご相談にいらっしゃる女性たちの心の奥底にあるものは“ゆるさ”とはかけ離れています。むしろ、育児・介護などの事情で時間制約が生まれたからこそ、これまでの経験を活かして“濃く”“質を高めて”働きたいという切実な想いがあります。
私たちは豊富な知識・経験を持つ総合職女性と、優秀な人材を求める企業とを結び、女性に時間や場所にとらわれにくいフレキシブルなお仕事をご紹介する事業を行っています。
ご登録されている女性の平均年齢は38歳。大学卒業後、総合職としてメーカーや商社、IT企業などに就職し、企画・マーケティングや、人事・経理・財務などの仕事に従事してきた30代~40代前半の女性たちです。中には、公認会計士や税理士、社会保険労務士などの国家資格を有する方もいます。9割が既婚者で、8割が子どもを持つ“ワーキングマザー”。「子どもが生まれたこと」は多くの方にとって、ご自身の働き方を振り返り、今後のキャリアについて考えるきっかけの一つにはなっています。(ちなみに、離職中の方はご登録者の15%ですので、85%の方が何らかの形でお仕事をされている方々です)
私たちが2016年初めに実施した「Warisご登録者アンケート2016」で、女性たちが退職・転職・独立を検討することになったきっかけについて尋ねてみました。
出産・育児より重たい“仕事への不満”
結果(複数回答可)は、「これまでの職場ではキャリアアップできないと思ったため(39%)」と「仕事にやりがいはあったが、家族との時間のバランスが確保できなくなったため(38%)」がほぼ同じ割合でトップとなりました。これに「新しい環境で仕事をしたいと思ったため(36%)」「これまでの職場ではある程度、仕事を“やり切った”感覚があったため(31%)」が続きます。
8割の回答者がワーキングマザーなのですが、必ずしも育児や出産そのものが退職の直接のきっかけになるわけではありません。むしろ仕事への不満が退職を後押しする現状が浮かび上がってきました。
短時間勤務制度の浸透により、“両立支援”の環境は整ってきています。ところが長時間労働やそれに基づく制度・評価が依然としてベースにあるため、育児期人材や短時間勤務人材が能力を発揮するには壁にぶち当たることも多いのです。思うように力を発揮できない不満や、将来のキャリア形成への不安が、彼女たちに退職を検討させる要因となっています。
「育休取得や短時間勤務を選択すると昇進できない社内システムだった。実績を残しても評価してもらえない。待遇も新入社員より下になってしまう」「時短勤務を選択したら、補助的な業務に配置転換されてしまった」「子どものお迎えのため18時には退社するが、プロジェクト推進にあたり重要な決定は自分が退社した後に行われる。進捗に追いつくのが難しい……」――アンケートからはこんな女性たちの声が聞こえてきます。
「育児中や時短勤務だと、それだけで低い評価になってしまう」「育児中や時短勤務ではやりがいのある仕事を任せてもらえない」――「誰もが活躍できる一億総活躍社会の実現」が叫ばれるなか、現実には、豊富な知識・経験を持っているにも関わらず、“週5日・フルタイム・フル常駐+それなりの残業”が“当たり前の働き方”になっており、それに当てはまらない育児期の女性たちは能力を存分に発揮しにくい状況があるのです。
総合職キャリアが30代・40代で求めるもの
こうした総合職として第一線で仕事をしてきたキャリア女性たちは、仕事選択において育児と仕事の両立に加えて、同じくらい自身の「能力発揮」すなわち仕事の質ややりがいを重視します。私たちが実施したアンケート調査によれば、「仕事を選択するうえで重視するもの」(複数回答可)を尋ねると、図のように「ワークライフバランスが実現できるかどうか」が73%でトップですが、それに続くのが「スキル・経験が生かせる仕事内容か」(58%)、「やりがいを感じられる仕事内容か」(51%)となります。
「出産前は、とにかく数をこなして残業ありきだったが、出産後は限られた時間の中で生産性を高めて質の良い仕事をしたいと思うようになった」という発言に象徴されるように「時間が限られているからこそ、自分のスキルや経験を生かせる仕事で質を高めて “濃く”働きたい」という意識が高まる傾向が見られます。「ワークライフバランスを保ちながらも、長く働くには“専門スキル”が必要だと考えるようになった」「全国どこへ行っても“私でなければできない仕事”を開拓する必要があると思った」など、むしろスキルアップ意識が刺激される女性もおり、そんな姿からも“ゆるキャリ志向”とはかけ離れたキャリア継続に対する真剣さ、切実さが伝わってきます。
このような背景があり、所属する組織で自身の能力が発揮できないとなると、豊富な知識・経験を積んだ30代・40代の働く女性の皆さんは退職を考えるようになります。より自身の能力を活かせるような会社へ転職される方もいますし、これを機に独立……つまりフリーランスとして働き始める方もいます。実際、私たちのご登録者アンケートではおよそ3割の方が、現在の働き方を“フリーランス”として回答しています。
フリーランスと聞くと、エンジニアやプログラマーなどのIT系職種の方か、ライターやデザイナーなどのクリエイティブ系職種の方の働き方という印象を抱く方も多いかもしれませんね。ところが、私たちのご登録者はいわゆる“文系総合職”の方が中心。企画・マーケティング・PRや、人事・経理などの管理部門で10年~15年ほど経験を積んでこられた方々です。 “社員”である以上、いつ、どこで、どんな仕事に就くかは会社の指示に従わざるをえないところがあります。本当の意味で自由にフレキシブルに働きたいと願う女性たちの中には、あえて安定した“社員”という立場を捨て、フリーランスという働き方を選ぶ人たちが出てきているのです。
私たちWarisに登録しているフリーランスの方々の平均月収は28万円。月収50万円以上を超える女性も12%に達しています。既婚者が9割を占めるものの、“主婦のお小遣い稼ぎ”ではなく、働き方のフレキシビリティを確保しつつ、これまで培った知識・経験を活かして、生計を立てるのに十分な報酬を得ている自立した総合職フリーランスの姿が見られます。
“働き方改革”、働く女性のとるべき3つのアクション
今、日本では急速なスピードで進む少子高齢化と労働人口の減少を受けて、“働き方改革”の機運が高まってきています。2015年6月に内閣から発表された「日本再興戦略」の総論部分には、長時間労働の是正と働き方改革が重要事項として盛り込まれています。毎日新聞が主要121社を対象に行った働き方改革に関するアンケート調査によれば、柔軟な働き方を実現するための後押しとなる在宅勤務の導入について「導入している・導入を決めている」と回答した企業が48%に達し、「検討中」企業の25%とあわせて7割を超えています。
こうした機運が高まるなか、自身の働き方に苦しさを感じている女性の皆さんにお伝えしたいアクションは3つです。1つ目は、会社の働き方を改革するリーダーになること。先に述べたように、“働き方改革”は社会的な動きになりつつあります。この動きを自社に取り入れるべく、経営陣や人事にかけあったり、社内で働き方を変革するための勉強会や研修を実施したりして少しでも自社で個々が能力発揮できるフレキシブルな働き方が実現できるよう率先して行動を起こすことをおすすめします。
しかし、組織を変革するのには時間がかかります。もし自社の働き方が変わらないと思うのであれば、よりご自身が能力発揮できる場所を求めて“転職する”のも一案です(これが第2のアクションです)。皆さんは現在の求人倍率をご存じでしょうか? 2016年2月の有効求人倍率は1.28倍でバブル期以来24年ぶりの高水準となっています。完全な“売り手市場”です。まして、2016年4月1日に施行された女性活躍推進法の影響もあり、管理職候補になりうる女性の中途採用には企業側も積極的です。
そして第3のアクションは“独立する(=フリーランスになる)”ということです。もちろん、向き不向きはあると思います。ただ、プロとしての十分なスキル・経験があって、どんな仕事をどこで誰とするのか――自分で責任を持って完全に自由に選び取りたいとなったら、私は間違いなくフリーランスの道をおすすめします。
年金の支給開始年齢引き上げの可能性もあり、私たちは70歳近くまで働く可能性があります。大卒で就職した場合、ほぼ50年にわたり働き続けるわけです。“職業人生50年時代”の到来です。50年もの間、“シャチク”である必要はありません。より自分らしく、幸せに、サステナブルに働き続けられるように、組織を改革したり、能力発揮できる場所を求めて行動したり、独立したり……キャリアの主導権を自身が握って切り拓く――そんな強い意識と行動力が一人一人に求められていると感じます。
株式会社Waris共同代表、キャリアカウンセラー。
大学卒業後、出版社にて日本女性のキャリア・ライフスタイルについて幅広く取材。インタビューや、アンケート分析を通じて接してきた働く女性の声はのべ3万人以上。09年にGCDF-Japan キャリアカウンセラーの資格を取得。女性が自分らしく前向きに働き続けるためのサポートを行うべく2012年退職。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て、2013年総合職女性と企業とのフレキシブルなお仕事マッチングを行う株式会社Warisを共同設立。共同代表。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)がある。http://waris.co.jp