ヨーロッパ最大の近現代美術コレクションを誇るパリの「ポンピドゥー・センター」。東京での展覧会開催に際し来日したのは、「人生の目標は文化に関わる仕事に就くことだった」と語る展覧会の監修者、クレール・ガルニエさん。才媛にして一児の母、現在は国立ピカソ美術館の要職を務める、フランス人女性のワークライフバランスを聞いた。

ポンピドゥー・センターでキャリアをスタート

前ポンピドゥー・センター・メス分館館長補佐で、現在はパリ・国立ピカソ美術館のコレクション・企画部門副部長のクレール・ガルニエさん。1歳児の母。

働く女性の30代は、ワーク&ライフバランスの綱渡り。キャリア、結婚、出産など人生の大きな転換に直面し、次々と決断を迫られる。2016年2月には、保活に失敗した母親のブログ「保育園落ちた日本死ね」発言に端を発した、待機児童を巡る母親たちと、政府の意識とのギャップが大きな社会問題に発展した。

国内外を問わず、多くの女性たちがライフイベントを乗り越えて自分らしい働き方を模索する中、1人のフランス人女性もまた、仕事と家庭の自分らしい両立を目指して歩み始めている。

この6月に東京都美術館で開催される話題の大型企画展「ポンピドゥー・センター傑作展」に立ち上げから携わっている監修者の1人、クレール・ガルニエさん。ポンピドゥー・センター・メス分館館長補佐を経て、現在はパリ・国立ピカソ美術館のコレクション・企画部門副部長として活躍する人物だ。今回は、「ポンピドゥー・センター傑作展」の監修者として、東京での展覧会開催に向けた準備のために来日した。

前職で所属していたフランス・パリの中心部に位置するポンピドゥー・センター国立近代美術館は、ヨーロッパ最大のコレクションを有する世界屈指の美術館だ。1900年以降の近代から現代まで、ピカソやマティス、ウォーホールなど膨大で良質な所蔵品12万点を誇る。年間入場者数は300万人に上り、観光客が選ぶ世界の美術館ランキングベスト10の常連館でもある。

作品が一流であれば、当然スタッフのコレクションに関する専門知識なども一流を求められる。ガルニエさんは、世界中から応募者が殺到する狭き門をくぐり抜け、若くしてポストを勝ち取り、この展覧会のような大規模な企画展示に携わり、実績を積んできた。

現在は1歳の子どもを育てながら海外出張をこなし、自分のスタイルで働くことに生きがいを感じている。パリのアートシーンでキャリアを重ねる、しなやかでパワフルな32歳に話を聞いた。

仕事と子育ての両立を視野に、キャリアをイメージ

働き始めた時から、仕事と子育ての両立も視野に実績を重ねたガルニエさん。

「大学では当初、文化・メディアマネージメントを学んでいましたが、もっと美術に直接携わりたい気持ちが強くなり、現代美術と展覧会について学ぶため、在学中に専攻を変えました。卒業後は、仕事もプライベートも両立して自分らしく生きたいと考えて、ポンピドゥー・センターで働き始めました。文化的な仕事に就くことは、私の人生の目標だったのです。新人時代から、仕事上のキャリアと同時に、結婚や出産、子育てなども視野に入れながら働いていたので、子育てと仕事を両立する立場となった今も、迷いなく過ごすことができています」

若い時から明確なビジョンを意識して実行してきたガルニエさん。妥協せず、常に目標に向かって努力を重ね、アシスタント時代から着実に仕事のスキルを身につけた結果、上司からの信頼を得て、大きなプロジェクトに携わるチャンスをつかんできた。今回の「ポンピドゥー・センター傑作展」も、その1つだ。

「今回の展覧会は、4年の準備期間を要しました。美術史上だけでなく、世界の文化や社会全体に大きな影響を与えたフランス20世紀美術を紹介する本展に立ち上げから関わり、その成果を皆さんと分かち合えることはとても幸せです。

生涯にわたってパリの象徴、エッフェル塔を描き続けた、キュビズムの名匠、ロベール・ドローネーの作品「エッフェル塔」/1926/Photo: (c)Bertrand Prevost - Centre Pompidou, MNAM-CCI

ポンピドゥー・センターの収蔵品は、絵画、彫刻、写真、映像、デザイン、建築など多岐にわたります。今回の展覧会では、この膨大なコレクションの中から、フランスに縁のある作家、もしくはフランスで制作された作品を1900年代初頭から70年代まで、1年ごとに1作家の1作品を選びました。

このような展覧会の形式は、とてもユニークです。特に本展では、日本初公開になるピカソの代表作の『ミューズ』や、シャガールが妻との愛を描いた大作『ワイングラスを掲げる二人の肖像』、マティスの代表的な油絵『大きな赤い室内』といった20世紀を代表する巨匠の作品をはじめ、ロベール・ドローネー、カルティエ=ブレッソン、マルセル・デュシャンなど、現代美術を語る上で欠かすことのできない作家の作品も登場します」と、大好きなアートについて語る時のガルニエさんの表情は、ひときわ輝きを増す。

ワークライフバランスの鍵は、パートナーとの協力関係

「ポンピドゥー・センター傑作展」監修に携わりながら、現職である国立ピカソ美術館に移籍し、出産と職場復帰を果たしたガルニエさん。公私ともに順風満帆に見えるが、先進国で出生率が上昇しているフランスでも、子育てをしながら働く女性の環境は厳しいと言う。

大きなプロジェクトはチームワークで乗り切る。「チームの力が遺憾なく発揮されれば、企画に奥行きが出て豊かになります」

「フランスの働く女性の環境は、日本よりはかなり恵まれていると思いますが、やはり男女の間での格差は存在します。フランスの平均的な男女間での賃金格差は約15%、という数字が出ています。フランスといえども、女性は男性ほど積極的に給与の交渉をしない傾向にあります。女性が現状を受け入れてしまっているんです。

そのためカップルに子供ができたら、女性が子育てのために仕事やキャリアを諦める場合が多いのも確かです。年収の高い男性が働き続けるほうが家計にはいいですからね。

私の場合は平等に家事分担をするなど、パートナーの理解と全面的な協力があるので両立できていますが、私もそのための努力は常に欠かしません。双方が中途半端になるのはよくないので、仕事中は極力集中して業務を効率的に進め、家庭では気持ちを切り替えて、子どもやパートナーとの時間に専念するようにしています」

仕事に全力で取り組み、生活を楽しむことも忘れないガルニエさん。常に前向きに、自分のビジョンをしっかりと持ち続けるモチベーションの源はなんだろう?

「この仕事の醍醐味は、美しいものを皆さんと共有できること。大規模な展覧会の場合はたくさんの人が関わるのでチームワークが大切です。それゆえの苦労もありますが、チームで動くと企画そのものに豊かさが生まれてくるのでとてもやりがいを感じます。今後も挑戦したいことがたくさんあります。

一方で家族は私にとってとても大切な存在。母となった今、『文化を共有する』ことの大切さをあらためて実感しています。なぜならそれが子どもたちのよき未来につながりますから」

これからの自身のワークライフバランスに話が及ぶと、ガルニエさんはフランス人女性らしくこう答えてくれた。

「子どもが小さいので、日常の生活はバランスをとるのが大変です。両立に困難を感じたときは哲学的に考えるようにしています。仕事をするということにどういう意味があるのか、子どもを持つことにはどういう意味があるのか――。私は両立を選んだのです。働いて自分を磨き続けた先に、新たな道が開けると信じています」

クレール・ガルニエさんが監修者の1人として携わった「ポンピドゥー・センター傑作展」は2016年6月11日から9月22日まで、東京・上野の東京都美術館で開催される。
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※プレゼント応募期間は終了いたしました。たくさんのご登録ありがとうございました。