リーダーに必要なのは自分を知り、会社を知り、世界を知ること――。そのためには、ビジネスの基礎概念を理解することから始めましょう。三菱商事など4社の社外取締役を務める橘・フクシマ・咲江さんに、「マネジメント」が習得できるおすすめ本を初級・中級・上級と分けて教えてもらいました。

マネジメントを習得する
-リーダーに必要なのは自分を知り、会社を知り、世界を知ること

1970年代にハーバード大学の日本語教師時代に読んだ『タテ社会の人間関係』『「甘え」の構造』『日本人の心理』と、執筆を手伝った『ジャパンアズナンバーワン アメリカへの教訓』と2006年の『フラット化する世界』が私の原点です。この読書体験で「自分が誰か」を意識した。世界の中にいる日本人としての自分を概念的に理解することができ、その後の人生やキャリアを築く際の視点をつくってくれました。

ビジネスの世界では、第一に全体を見る俯瞰(ふかん)的視点が大事です。業界の中での自社の立ち位置を知り、自社のビジネスの流れ(バリューチェーン)を理解し、その流れの中で自分の仕事がどこに位置するかを俯瞰的に見て、毎日仕事をしてほしい。それを意識していると、課題に直面しても原因が特定でき、適切に対応ができます。

2つ目に大事なのはリーダーシップの基礎概念。多様な理論やリーダーシップを幅広く理解し、日常の仕事の中で意識する。リーダーシップもベンチマークを持つことが大切です。

3つ目が世界の中での日本の立ち位置を意識すること。常に世界のどこに日本があり、どう見られているのかを考えてほしい。その際には、日本の主要企業を紹介する「業界地図」は参考になります。

マネジメント【初級編】
-ビジネスの基礎概念を理解しよう

【左から】『グロービスMBA マネジメント・ブック 改訂3版』グロービス経営大学院(ダイヤモンド社)/『優秀なプレーヤーは、なぜ優秀なマネージャーになれないのか?』柴田励司(クロスメディア・パブリッシング)/『世界のリーダーに学んだ自分の考えの正しい伝え方』橘・フクシマ・咲江(PHPビジネス新書)

『グロービスMBA マネジメント・ブック 改訂3版』グロービス経営大学院(ダイヤモンド社)
「MBAシリーズ」はマネジメントをはじめ18のラインアップがそろう経営学の教科書。なかでも本書は経営戦略など、企業の仕組みを全体的に理解することができ、最初の一冊に最適。その後、自身で深掘りを。

『優秀なプレーヤーは、なぜ優秀なマネージャーになれないのか?』柴田励司(クロスメディア・パブリッシング)
タイトルはまさに管理職になる女性が直面する課題。プレーヤーとマネージャーの違いを意識してほしい。「宴会の王様ではなく名幹事になれ」など、優秀なマネージャーになる人の40の習慣をわかりやすく紹介。

『世界のリーダーに学んだ自分の考えの正しい伝え方』橘・フクシマ・咲江(PHPビジネス新書)
グローバル人材とはどんな人をいうのか、グローバル化の流れの中で成長するためにはどうすればいいのか。そのためのノウハウを細かく紹介。“人財”の仕事を20年して行き着いた結論が詰まっている。

マネジメント【中級編】
-基礎概念を実践面で使うことを考えよう

【左から】『IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ』冨山和彦、経営共創基盤(PHPビジネス新書)/『リーダーのための「レジリエンス」入門』久世浩司(PHPビジネス新書)/『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』ロッシェル・カップ(クロスメディア・パブリッシング)

『IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ』冨山和彦、経営共創基盤(PHPビジネス新書)
企業の再生ビジネスを手掛けてきた著者による実践的経営分析のノウハウは、日常の仕事の現場でも大いに応用できる。理論と実践の違いなども記され、新書なので手軽に読めるのもうれしい。

『リーダーのための「レジリエンス」入門』久世浩司(PHPビジネス新書)
これからのリーダーはレジリエンス(打たれ強さ)が重要な要件。集団を背後から指揮し、危機には「しんがり」で仲間を守る。著者は日本式リーダーシップと指摘する。新しいリーダー像を志向する人には参考になる。

『日本企業の社員は、なぜこんなにもモチベーションが低いのか?』ロッシェル・カップ(クロスメディア・パブリッシング)
やる気に満ち、仕事に忠誠心をもった社員=エンゲージメントの高い社員が少ない日本。日米で人事コンサルタントとして活躍する著者が、新しい働き方を世界から学ぼうと提案。日本企業が抱える課題解決の参考になる。

マネジメント【上級編】
-自分自身のビジネス戦略を発展させるために

【左から】『戦略の経営学 日本を取り巻く環境変化への解』高橋琢磨(ダイヤモンド社)/『覚悟さえ決めれば、たいていのことはできる』松井忠三(サンマーク出版)/『未完の流通革命 大丸松坂屋、再生の25年』奥田 務(日経BP社)

『戦略の経営学 日本を取り巻く環境変化への解』高橋琢磨(ダイヤモンド社)
マイケル・ポーターの戦略論を起点に、現在の創知、情報化時代にふさわしい戦略論を検討。戦略論の問題点を熟知し、実務と研究に携わってきた著者が経営戦略論の教科書として執筆した。

『覚悟さえ決めれば、たいていのことはできる』松井忠三(サンマーク出版)
赤字に陥った無印良品を生産性の高い働き方でV字回復させた著者が語る経営哲学。独自のシステムを開発し、できるだけ無駄な仕事をしないことを徹底。難しいといわれることを実行し、成功させた経営者の信念を感じる。

『未完の流通革命 大丸松坂屋、再生の25年』奥田 務(日経BP社)
オーストラリアで大丸を立ち上げたときの経験や、アメリカの百貨店のシステム導入の失敗談など、グローバルな視点で日本のビジネスの位置づけを意識させる。実際に経営者が直面した成功談や失敗談から学んでほしい。

橘・フクシマ・咲江
G&S Global Advisors Inc.代表取締役社長。20年以上にわたりグローバル人財のコンサルティングにかかわり現職。現在三菱商事など4社の社外取締役。執筆・講演活動も多数。