『私がオバさんになっても』というヒット曲がありますが、その後に続くのは「会社で働き続けられますか?」という不安――子供を育てながら定年まで職務をまっとうするというロールモデルが不足する中、会社には、激増する“子持ちのオバさん社員”の居場所があるのでしょうか。

働き続ける女性にかかるクリエイティブな負荷に耐えられるか?

久しぶりに、読後に「そういうことだったのか……」と真理発見の余韻に浸った記事があった。巷では「顔採用」と噂され、仕事もルックスも輝く“キラキラ女子”社員を前面に押し出した広報・人材採用活動のイメージが定着している、サイバーエージェント。その藤田晋・代表取締役に日経DUAL・羽生祥子編集長がインタビュアーとして斬り込んだ、前後編記事だ。

日経DUALに掲載されたサイバーエージェント 代表取締役 藤田晋さんへのインタビュー記事。同社の出世ママ代表、独身若手女性社員代表も登場し、華やかなものとなった。

女性活躍推進の大号令のもと、女性従業員が育休制度や時短制度を利用できる企業が増えた。そういった、いわゆる「育休世代の台頭」で、女性の就労率が結婚出産年齢で著しく落ち込む日本社会の特徴を表す、いわゆるM字カーブの谷が上がり始めている。それはつまり、これまでは結婚出産を機に、“いつのまにか女性未婚社員や男性社員の視界からいなくなっていた”子持ちのオバさんたちが、職場にたくさん存在する世の中になるということだ。

でも、まさにそんな子持ちのオバさんたる40代の私も、同世代や前後の世代の働く女性たちを見て思う。「私たち、いったいいつまで働けるのかな?」。自分の体力も知力も、どこまでもつのかな。今後の人生で、自分や家族の病気や介護など、働き続けられなくなる事態が起こったら、どう対処すればいいんだろう。今は女性活躍推進で追い風が吹いているけれど、いつかその風向きが逆転する日だって来るかもしれない……。

いつか自分自身が、あるいは自分のやり方が通用しなくなるのではないか。そんなふうに、働く女性が将来を案じる時、お手本となる人生の先輩たちという意味で“ロールモデル”という言葉が出てくる。だが、日本では戦後長らくの専業主婦志向で、結婚出産後も働き続けている上の世代の層は薄い。ましてトップキャリアにおいてはごく少数の特殊例に過ぎないことから、働き続ける現代女性の不安材料が払拭されない、と指摘されてきた。

先例が少ないということは、誰かのまねをするだけでは生きられないということだ。これはつまり、働き続ける女性には予想以上にクリエイティブな負荷がかかっているということでもある。手いっぱいの毎日を実践するだけでなく、状況に応じて自分の頭でプランを立てて実行しなければならない。私、やり遂げられるのかな? 自分が働き続けることに、どこか確信が持てない……。オバさんじゃなくても、そんな漠然とした不安を持つ、働く女性は少なくないのではなかろうか。

激増するオバさん社員に、会社の中での居場所はあるか?

ところが日経DUALの記事は、先述したとおりルックスの整った“キラキラ女子社員”を始め、ある意味最もとがった女性観を持っているように世間では思われているであろうサイバーエージェントから、「今後、日本社会に激増するおばさん社員の望ましいあり方」を引き出している。なんという慧眼(けいがん)か。

記事では、「サイバーエージェントでは、“キラキラ女子”が年齢を重ね、結婚・出産をした“コブ付きおばさん社員”となっても、会社に居場所はあるのでしょうか!?」との羽生編集長の問いに、藤田社長が「もちろん、キラキラ女子じゃなくなっても働き続けてもらえますよ(笑)」と爽やかに答える。

記憶を何十年さかのぼっても一向にキラキラ女子だった瞬間が思いあたらない私は、「あのキラキラサイバーでも、非キラおばさんに居場所がある」ということがにわかには信じられない。記事を読み進める。藤田社長の発言を引いてみよう(以下、太字)。

「“顔採用”なんてことはありませんが、サイバーっぽいかどうかを基準に採用すると、男女ともに性格が良かったり、見栄えもぱりっとしていたり(略)似たような雰囲気や外見と素直さで、結局なんだかんだ同じような子になる」

ふむふむ、サイバーエージェントでは“素直=潜在能力が高い”と捉え、素直な子を採ったら、結果的に外見の整った子がそろっちゃったんですね、分かります(屈折)。

「女性は働く際にロールモデルを気にするので、家庭持ちで仕事もプライベートも充実している人が出世するという空気は流すように気をつけている」

なるほど。では、藤田社長が女性社員をケアするときに心がけているのは何か。

「上の立場にいる女性が怖くならないように、チェックしている」

……怖い、とは?

「仕事ができる女性、特にプライベートをかなぐり捨てて仕事をしてきた人は“どんどん怖くなっていく”傾向がある」

「上の人がキラキラしているというか、憧れる対象にならないと、下に続く社員は出世意欲を失っていく。だから女性管理職に対して『怖くなるなよ』とたまにメッセージを発するようにしている」

ぐはぁっ。グッサーーーーと、どこからか極太の槍が勢いよく飛んできて心臓に刺さった。怖い、かぁ……。私の人生、結構若い時から言われ慣れた言葉だなぁ……。怖い、キツい、捕って食われそう……暗黒の記憶がよみがえって、もう椅子の上で息絶えそうだ。

キラキラ女子でなくなっても会社にいていいよ、でも仕事に邁進し過ぎて“怖いオバさん”になっちゃだめだよ――道理で、記事の発言には最初から最後まで“優秀”、“有能”、“デキる”、“リーダーシップ”のような、男社会で伍して頑張る女性を評するときの頻出語が出てこなかったわけである。それらは、怖いからだ。“サイバーっぽく”ないからだ。

素直でかわいいオバさんになるのは、他人の視線のためじゃない

男女雇用機会均等法世代(あるいは雇均法以前)や、団塊ジュニア世代、就職超氷河期世代、そして育休世代。いま働く女性たる当事者にも、いろいろな人がいる。ただ、どの世代の女性たちにも言えるのは、自分の人生と仕事のバランスの渦中で、ひたすら将来の方を向いて手探りを続けているということだ。

手探りだから、障害物にもぶつかる。いいときも悪いときもあり、いい思いもすれば、嫌な思いもする。だが、そんな私たちがどこか無意識下で目指しているのは、「社会から継続的な需要がある女性人材=可愛くて嫌われない(そして周囲からの尊重も失わない)オバさん」というロールモデルなのかもしれない。よく高齢者が「愛される年寄りにならなきゃね」と言うのを聞くが、社会で生きる、年齢を重ねるとは、究極的にはそういうこと。年齢を経るにつれて身に付く経験と知識は、時として自分の考え方や態度を硬化させ、自らを生きづらくするときがある。

これは、女だけの話ではないし、女だけであってたまるものかとも思う。コワくない、可愛げがある、素直な年長者。もはや企業社会は単一性文化ではないが故に一層、男性であっても、可愛げという魅力は組織の中で最後まで泳ぎきる技術の一つなのだろう。

そう、「泳ぎきる技術の一つ」ではあるけれども、もちろんそれだけで組織の中を垂直方向に上がっていけるわけではない。それでも近年、組織の中に生きる女性の姿として、男性と伍して働くゴリゴリキャリア女性像だけではない、可愛くて嫌われない女性というカテゴリーが新たに出現し、語られるようになってきたように思う。それは女性の組織人の絶対数が増え、組織の中で働き続けながら歳をとっていく女性が増えたことの反映だ。数が増えた分、働く女性のニーズや方向性もまちまちとなり、新しい処世術として「可愛くて嫌われないおばさん」という暫定解が出たのではないだろうか。

ただし、時間は万人に平等に進む。かの“キラキラ女子社員”だって、藤田社長だって、みんな平等に現在進行形で加齢していく。つまりこの「年取ってからの居場所問題」は、いまキラキラしていようがくすんでいようが、万人に共通の課題なのだ!(ふっふっふっ)

他の誰かの視線のためではなく、自分が心地よく社会に居場所を持ち続けるための態度を、男性も女性も、みなが模索せねばならない時代だ。世間で、組織で、上の世代にも下の世代にも、男にも女にも、適度に可愛がられ嫌われず、最後まで泳ぎ切れる人材。泳ぎ切った先、向こう岸に立って見える景色とは、どのようなものなのだろう?

河崎環(かわさき・たまき)
フリーライター/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。執筆歴15年。分野は教育・子育て、グローバル政治経済、デザインその他の雑食性。 Webメディア、新聞雑誌、テレビ・ラジオなどにて執筆・出演多数、政府広報誌や行政白書にも参加する。好物は美味いものと美しいもの、刺さる言葉の数々。悩みは加齢に伴うオッサン化問題。