子どもを産んで職場復帰した初めての社員だった吉田さん。社内にロールモデルがなく、仕事と育児の両立には苦労したという。そんな自身の経験を元に、彼女が目指す“社員が欲張りな人生を送れる”「会社のあり方」とは?

▼前編はこちら→http://woman.president.jp/articles/-/1261

役員会議では子どもを抱っこして参加

2011年に執行役員になり、13年に1人目を出産しました。社内では、子どもを産んで仕事に復帰するという社員は私が初めてだったので、社内にロールモデルがなく、妊娠中、出産後の仕事との両立方法では苦労した点は多々あります。

ヴィックスコミュニケーションズ 人事担当 執行役員 吉田仁美さん

ただ、ロールモデルがいなかった分、自分が「こうしたい!」「後輩達が今後同じ立場になった時にはどうすれば両立できるか」と考え、わがままにやらせてもらいました。子どもが1歳になって保育園に預けるまでは会社に連れてきて仕事をさせてもらいました。引き続き2人目を産んだ今もそうです。子連れ出勤時は、簡易的なキッズスペースを設けさせてもらい、そこでオムツ替えや授乳をして、ある時は子どもを抱っこしながら役員会議に出ています(笑)。

他社の方からは驚かれることもよくあって、「会議中に泣いたらどうするの?」などと質問もされます。そんな質問にもメンバーは「泣いたら泣き止むまで中断すれば良いだけ」と普通の顔で言ってくれています。また来客の時は「私が見ておきますから対応してください」と言ってくれたりも。

最近では子連れ出勤可能な企業も増えつつありますが、やはり周りの理解がなかなか得られない企業も多いと聞きます。こうして、弊社で子連れ出勤がスムーズにできているのは、メンバーの心の広さがあっての事。本当に当社のメンバーは自慢ですし、有り難い限りです。

「ママ、パソコン止めて」と言われて

15年には2人目が産まれました。2人できたからといって2倍大変になった訳ではありませんが、小さいときは泣けばおっぱいをあげてごまかしながら仕事ができていたところが、上の子が2歳になって色々なことがわかるようになり、私が仕事をしていると「ママ、パソコン止めて」「携帯イヤ」と自己主張するようになったんです。このままだと、仕事をする私を子どもは嫌いになってしまう。仕事とママの顔のオンオフのメリハリをしっかりとつけなければと思いました。

大事なのは24時間をいかに使うか。たまに子どもともっと長くいてあげられたらな……と感じる時はあります。だからその分、短い時間でも子どもと過ごす時間は本気で一緒に遊ぶように心がけています。

仕事も一緒で、稼働量が減った分、いかに1時間で生産性をあげ密に使うか。ただそれはどうしても1人では難しいことが多いと思います。そんな時は思い切って一緒に働く仲間に頼ることが必要だと実感しています。「早く帰らないといけないから後はお願いします」と一方的に依頼してはダメ。しっかりと、「子どもとの生活リズムのこと」「何時まではママモードになっているからその時間はメールにしてくれれば後で対応はする」とか、ちゃんとプライベートな面を伝える事が必要だと思います。

頼られるほうも、ただ依頼されて帰られるより納得感がありますし、反対に働くメンバーのプライベートなことも共有し、お互いに支えあえる関係性を作っていかなければ、良い仕事はできないと思っています。24時間の大半を過ごすメンバーと表面上の関係性だけではなく、何でも言い合える信頼関係を築くことは仕事をする上で大事なことですよね。

社員が欲張りな人生を送れるように

私自身、これからも「個人として働く自分」「育児をするママの自分」「妻として女性でいる自分」をバランスよく手に入れていきたいと思っています。本当にはたから見れば欲張りなのかもしれません。ただ女性って基本的に男性以上に欲張りな生き物だと思いますし、それを実現できる忍耐力とバランス感覚を産まれながらに備えていると思います。

手放せない仕事道具:スマホ。待ち受けは息子たち。

勿論、ただ欲しいだけでは手に入らないとは思いますが、その欲張りさはこれからの社会にどんどん活かされていくと思っています。

その為には個人の努力だけでは難しい面も多々あります。私自身が置かれている役割として、社会全体を変えるような大きいことはできませんが、せめて社内のメンバーの結婚、出産、育児などのライフイベントによるマイナスと捉えがちな影響をプラスに変換できるように社内体制を整えていきたいと思っています。それは女性だけではなく勿論男性メンバーも含めて。最近では社内で男性の産休取得者も出てきたのは大きい変化だと思っています。更に今後は社内託児所や社内でのベビーシッター利用なども取り入れたりしながら、欲張りな人生をメンバーが送れるように取り組んでいきたいと思っています。

●吉田さんのキャリア年表

2003年(22歳) 百貨店に就職
2004年(23歳) ヴィックスコミュニケーションズ入社
2011年(29歳) 執行役員に就任
2013年(31歳) 第1子出産
2015年(33歳) 第2子出産