人事担当の執行役員をやりながら、0歳と2歳の子どもを育てている吉田仁美さん。「難しくなさそう」という安易な理由でヴィックスコミュニケーションズに入社したが、仕事にやりがいを覚え会社が大好きになった。そんな中、キャリアのターニングポイントになった「新卒採用」の仕事を任されることに――。

求人広告誌の文句にくぎ付け

ヴィックスコミュニケーションズはモバイルビジネス事業、人財事業、IT事業、介護事業など多角的に展開しています。代表の福田(浩太郎社長)が創業当時に描いた「プライベートと仕事の垣根がない組織」という想いもあり、仕事では上司部下でも、仕事を離れれば一緒に旅行に行くぐらい仲が良い兄弟姉妹のような関係性が100名以上の組織になった今でもできている、胡散臭い言い方にはなりますが、「家族以上に家族のような会社」です。

私は今、人事担当の執行役員をやりながら、0歳と2歳の子どもを育てています。

ヴィックスコミュニケーションズ 人事担当 執行役員 吉田仁美さん

こう話すとバリバリのキャリアウーマンのように思うかもしれませんが、元々は専業主婦になりたかったんです。短大を卒業し、大手百貨店の受付兼エレベーターガールとして就業はしておりましたが、入社理由も「難しくなさそうだし、そこそこお給料をもらえるから」という安易な理由。

その仕事は、マニュアルがしっかりしていたのでそれに沿った仕事をすれば基本的には怒られることはありませんでした。半面、自由度はあまりなく、上司に「こうしたほうがいいと思います」と進言しても「なに、生意気なこと言ってるの」と返されたり、やっぱり性に合っていないかなと思って1年弱で辞めました。

そして、次の就職先を見つけるまでのつなぎのつもりでアルバイト入社したのが今の会社です。当初は別の会社の面接に向かうはずだったんですが、場所がわからなくなってしまったなどもあり行くのを断り、急きょ別の面接場所を探そうとコンビニに入って求人誌をめくっていたら、「辞めたきゃ辞めればいいじゃん」という言葉が目に入ってきて(笑)、どうせすぐ辞めるんだから、ちょうどいいと思って電話をかけたのが当社との出会いです。

新卒採用の責任者としての大失敗

私が入社した当時はスタートアップ間もない、社員数10名もいないような時代でした。雑居ビルに入っているかなり怪しい会社(笑)。短期のつもりが10年以上も長くこの会社にいるようになったのは、喜怒哀楽を素直にぶつけることができ、生意気な発言もしっかりと受け止めてくれるメンバーがいたからこそ。そして何もないところから自ら考え作りあげていくプロセスの中に、仕事の面白さを感じたからです。

そのうち、専業主婦になりたかった私が仕事のやりがいを覚え、またこの会社が大好きになっていきました。入社から数年後、営業として就業している時に、新卒採用を始めることが決まりプロジェクトチームが組まれたんです。ですが当初、私は選ばれず、上司に「なぜ私を入れないのか! プロジェクトメンバーにして欲しい」と直談判しました。すると「そこまで言うなら、お前がプロジェクトリーダーをやれ」ということに。この新卒採用という仕事が、自分のキャリアにとって大きなターニングポイントになりました。大失敗もあったんですけどね。

その年、10人くらい内定を出したのですが、3分の2の人から辞退されてしまったんです。初めての新卒採用だったこともあり、社内体制も整っていなかったりと、内定者を不安にさせてしまったのが大きな理由。いろんな会社を回ってせっかく当社を選んでくれたのにと思うと、今でも心の中に後悔の気持ちは残っています。この経験から、内定辞退をした学生の為にも採用のミスマッチを無くさないといけない! と決意しました。

でも、うれしかった出来事が去年あり、辞退した中の1人から数年ぶりに連絡があったんです。入社した企業で一番出世し、海外での新規事業の立ち上げメンバーに選ばれたので、出立する前にお世話になった吉田さんに会いたいと言ってきてくれて。今でも、不安にさせて内定辞退という選択をさせてしまったことを申し訳なく思っています。ですがこうして人として付き合える関係が出来ていたことに少し救われました。

ミスマッチ0を目指した採用改革

新卒採用がスタートした最初の年は内定辞退に加え離職率も高かったんです。当時は学生に気に入られないと名もない会社に志望してくれないのではないか、という思いが先行し「ベンチャーってやりたい事ができるよ」「稼げるよ」など良い面ばかりを伝えすぎていました。ただ実際のベンチャー企業は当社に限らず、裁量がある分仕事量は勿論多いですし、社内体制が整っていない面もすごく多い。そういうギャップが不安を煽り離職につながっていったんだと思います。

その年の経験や後悔から、内定辞退は勿論、離職をなくす“ミスマッチ0の採用”をトコトン追及するようになりました。例えば、説明会で仕事のきつさは勿論、恐らく他社では伝えないであろうリアルな面を伝えています。また、職場見学や社内の飲み会などで、通常の当社の姿を感じとってもらえるように、飛び込みでの参加もOKに。隠し立てすることなく当社の全てをありのままに見せています。

更に昨年からは、採用のときに使っていたエントリーシートや面接、グループワークも一切廃止し、一部を除き採用サイトの掲載までもやめてしまいました。というのも、面接の数時間で学生の傾向はわかるとしても本当に全てを判断するのは難しいと思うからです。学生側も取り繕ってきますしね。それなら、一緒にインターンとして働いたり、時には一緒に遊んだり、互いにトコトン向き合う時間に充てる方がよっぽど互いの理解が深まると思うんです。

新卒採用のサイトも、理由は勿論わかるのですが、良い面ばかりしか書かれないサイトも多く、学生をある意味、勘違いさせて興味を持たせてしまうことに。それは、学生を騙しているようにも感じられ、それなら一層のこと掲載をやめてしまおうと。なので、採用サイトを使用していた時には50人の参加だった説明会が、1人しかいない場合もあります(笑)。この採用難の時代に大丈夫? と言われることもありますが、それで良いと思っています。その分、1人に対して向き合う時間がたっぷりとれますから。

そんなエントリーシートも面接もない採用方法なので、学生たちには驚かれることが多いです。また、学生の中には、「こんなに素直に企業の方に話していいんですね」と泣き出す学生もいます。学生有利の就活の時代とはいえ、みんな就職活動するときは少しでも良くみせようと頑張っているんですよね。私たちとしては、人生に1度しかないファーストキャリアの場を選ぶ就活、そして自分を演技しながらでも頑張る学生に対して無責任な対応はできないと思っています。