ブランドの洋服をネットで買うことを当たり前にした、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」。ファッション市場が右肩下がりの中、2004年のオープン以来成長を続け、13期連続増収増益を記録しています。顧客から選ばれ続ける理由とは?

テクノロジーの進化により、今までになかった「新しい仕事」が生まれています。この連載では、リクルートライフスタイルのアナリストであり、データサイエンティストとして活躍する原田博植さんを聞き手に迎え、新しい仕事の領域を切り開くフロントランナーにインタビューを行います。

今回、お話を聞くのは、ZOZOTOWNの運営会社であるスタートトゥデイ取締役で、ホスピタリティ・マーケティング本部本部長の清水俊明さんです。無機質になりがちで、他社との差を生み出すのが難しいネット通販において、顧客から選ばれ続ける理由は「友達のような関係性の追求」にありました。

日本最大級のファッション通販サイト、ZOZOTOWN。ショップ数830以上、ブランド数3400以上を取り扱い、常時30万点以上の商品アイテム数と毎日平均1600点前後の新着商品を掲載(2015年12月末時点)。

洋服好きが集まる職場、友達みたいな社員

【リクルートライフスタイル 原田博植さん(以下、原田)】今日はZOZOTOWNで買ったダウンジャケットを着てきました(笑)。はじめに、スタートトゥデイはどんな会社ですか?

【スタートトゥデイ 取締役 兼 ホスピタリティ・マーケティング本部 本部長 清水俊明さん(以下、清水)】会社ができたのは1998年で、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を立ち上げたのは2004年ですから、ネットの会社としては比較的社歴が長い方です。でも、若い会社ですね。社員数は2016年2月末現在で448人ですが、平均年齢は29.3歳と30歳を切っています。学校みたいな雰囲気です。

【原田】「学校みたい」というと?

【清水】私は46歳になりますが、新卒で入社した別の会社は上下関係も厳しく、時代としてもまだ滅私奉公というか、自分よりも会社のために働くという風潮がありました。社員間の競争も激しかった。そういった、従来の会社とはまったく違いますね。みんな、会社に友達に会いに来ているような感じで、楽しそうに仕事をしています。もともと洋服が好きで、ZOZOTOWNのヘビーユーザーだった社員も多く、価値観が似ていることも一因かもしれません。表情も明るく、仲がよくて、仕事の後や週末も、自然に遊んだりしています。

【原田】週末も仕事の仲間で集まっちゃうんですね。

【清水】みんな会社がある幕張の近くに住んでいるんですよ。「幕張手当」というのがあって、会社周辺の指定されたエリアに住むと地域還元の目的で月額5万円が出ます。今、社員の8割以上が幕張に住んでいます。

お客様とも社員とも、友達のような関係性を追求

【原田】8割はすごいですね。こうした福利厚生などの制度は、どういった考え方で作られているんでしょうか?

【清水】後でお話しすることになると思いますが、お客様との関係は、CRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)ではなく、CFM(Customer Friendship Management)といって、友達のような関係性を目指しています。それと同じで、会社とスタッフの関係も、“労働者と雇用者”や“労使”のような緊張関係ではなく、友達のような関係がよいと考えています。社員同士の絆を深める制度やイベントを行うEFM部という部がありますが、これはCFMの、“C=Customer(顧客)”をそのまま“E=Employee(従業員)”に置き換えてEFMです。

清水俊明(しみず・としあき)さん。株式会社スタートトゥデイ取締役 兼 ホスピタリティ・マーケティング本部 本部長。過去20年間以上に渡り、複数の事業会社でマーケティング全般に幅広く従事。2010年に株式会社スタートトゥデイ入社後は、従来のCRM戦略を超えるコンセプトとして独自のCFM戦略(Customer Friendship Management=顧客と友達のような関係になること)を牽引(けんいん)し、実務、学術双方から新しい顧客との関係性、サービスデザインのあり方に取り組んでいる。早稲田大学大学院商学研究科修了。早稲田大学データサイエンス研究所招聘研究員。

ちなみに一般の企業でいう「人事部」は、弊社では「人自部」で“じんじぶ”です。人事(ひとごと)ではなく、他人のことも自分のこととして考える、ここで働くことが生活の一部として自分らしく自然である、そういった社風を創ることを目的にしています。「仕事」も、ここでは「自事(じごと)」と呼んでいて、会社に仕えることではなく、「自分にとって自然なこと」と表現します。

【原田】会社の「人格」を、制度にまで落とし込んでいるんですね。さきほどCFM(Customer Friendship Management)というキーワードが出てきましたが、スタートトゥデイの社風や、ビジネスの考え方を表現するときのカギになりそうです。

【清水】スタートトゥデイでは、私が入社する前の2009年末に初めてZOZOTOWNのテレビCMを実施しました。それまでは一部のトレンドに敏感な層だけが知るサービスだったのが、一気に認知度が上がり、新規顧客が大幅に増えたのです。このころに「スタートトゥデイらしいCRMを立ち上げてほしい」と、声を掛けられました。ビジネスが急速に伸びる中でも慢心せず、お客様と真摯に正直に向き合いたい、コミュニケーションをとりたいという思いの強さに驚きました。

ZOZOTOWNのCFM(友達関係管理)は、CRM(顧客関係管理)とどう違う?

【清水】ネット通販におけるCRMは通常、顧客の年齢や性別、属性、購入履歴などを分析し、メールマガジンの送付などのプロモーションによって、さらにそのサービスの利用を促すものです。特に、それまで私が親しんできた従来型のCRMというのは、何度もそのサイトで買い物をしている優良顧客に焦点を当て、さらに囲い込もうとするもの。しかし、これは「スタートトゥデイらしいCRM」にはまったくなじみません。

原田博植(はらだ・ひろうえ)さん。株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 アナリスト。人材事業、販促事業、EC事業にてデータベース改良とアルゴリズム開発を歴任。2015年データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー受賞。

そこで考えたミッションが、「一人一人の日々の行動や心の変化を見逃さず、その変化の裏側にある心のあり様を想像し、一人一人に合ったZOZOTOWNならではの気配り、思いやりを創造すること」というもの。これを代表の前澤に提案したところ、顧客と友達のような関係になることを目指すCFMという、スタートトゥデイらしいCRMのコンセプトをネーミングしてくれました。何度もZOZOTOWNで買い物をしているお客様も、初めてZOZOTOWNを利用するお客様も、どちらも友達のように思いやりを持って接し、喜んでいただけるような行動、ふるまいを実践するためのマーケティングを目指したのです。

具体的な施策としては、顧客ごとに合わせた約230種類のメッセージを、メール、LINE、サイトお知らせ、プッシュ通知などさまざまなチャネルから届けています。こうした施策経由の売り上げは、CFMの戦略を実施する前と比較すると、実施後は20倍近く増えています。

【原田】ビジネスの中で、「友達」という言葉が使われているのは珍しいですね。ネット通販もITも、テクノロジーを使った無機質なものという印象がありますが、対顧客関係も対スタッフ関係も、「情緒」を非常に重視されているという印象です。CFMも、情緒ありきでデータを分析し、顧客との「友達のような」関係づくりに生かしている。

サイトデザインから配送まで、外注せずすべて自社で

【清水】ZOZOTOWNができる前は、洋服のネット通販には「ダサい、格好悪い」と、あまりいいイメージがありませんでした。そこで、ファッションブランドの持つ世界観や、洋服を通して表現しようとしているものをくみ取ったサービス作りをしました。そのために、ネット通販としては珍しいと思いますが、サイトのデザインやシステムの開発、配送などを、外注ではなくすべて自社で行っています。

【原田】今では「外注ではなくすべて自社で」が強みになっていますね。

【清水】理想とする形を追求した結果です。代表の前澤も言っていますが、人と同じことをやると競争が生まれてしまいます。ネット通販は成熟市場で、仕組み面での差がだんだんとなくなりコモディティ化しています。私たちはそこに陥らず、差別化ができていると思います。

【原田】従来、洋服は試着してから買うものだったのが、ネット通販の場合は買ってから試着ということになります。企業との間に、相当の信頼関係がないとうまくいきません。そう考えると、他の商品とは違った形のCRMが求められるのかもしれませんね。

【清水】だからこそのCFMです。私たちはZOZOTOWNの購入体験で、お客様に悲しい思いをしてほしくないと強く思っています。すべての商品を自分たちで検品、採寸し、サイトに表示しているのもそのためです。撮影スタジオやカメラマンも多数抱えていて、1アイテムにつき相当数の写真を掲載します。洋服を着る人の気持ちになって、お客様が見たいと思うカットの写真を撮っています。

人から助けを求められる分野を仕事に

【原田】清水さんはずっとマーケティングやCRMをご専門に仕事をされているんですか?

【清水】そうですね。マーケティングを中心にキャリアを積んできましたが、途中兼任で経営企画やコンサル、営業系の仕事もしています。

35歳くらいで気付いたんですが、どんな仕事も、本当に好きでやっている人にはかなわないんです。根性だけ、体力だけで頑張っても追いつかない。だったら、自分が本当に好きな仕事、興味・関心があること、得意なことをやった方がいい。好きなことだからこそ突き詰められる、頑張れる。そこまでやるかというレベルまでやって初めて人とは違うレベルにいけるような気がしますし、バリューになるんじゃないでしょうか。

ただ、自分が得意だと思っているだけでは意味がありません。人から評価される分野、助けを求められる分野は何か、を考える必要がある。私の場合はそれがCRMでした。最初はそれに抵抗感がありました。でも、人から求められるのがこの分野なので、それに素直になろうと思ったんです。

自分が好きなことと得意なことが組み合わさると、自然に縁や出会い、ツキが回ってくるように思います。生き生きしながら仕事をしていると、何か出るんでしょうね。「なんかあいつ、楽しそうだな」「会ってみたいな」と思ってもらえるんじゃないでしょうか。

現実に向き合い、責任を持つ

【原田】清水さんは今、取締役、本部長として、人を育てる立場でもあります。育成観点で意識されていることはありますか。

【清水】マネージャーとしては、本人が得意なこと、やりたいこと、会社の方針の3つの輪が重なる部分に、その人の役割がくるのが理想だと思います。そうすると、最も成長します。

【原田】好きなこと・得意なことを仕事にするのには、どうしたらいいでしょうか?

【清水】まずは、自分の目の前にある現実に向き合い、100%責任を持つことでしょうね。今、自由に自分の好きな分野の仕事をやっているように見える人も、かつてはそうではなかったはずです。たとえ自分がやりたいことに合致しなくしても、目の前の仕事に対して100%ベストを尽くすことを積み重ねていれば、5年、10年経ったときに、自分の好きな領域で、輝いて仕事ができると思います。一足飛びには行けません。諦めないことが大事です。

【原田】何を諦めないために踏ん張るのか、というのは、難しいですね。時に、楽だから動かないでいることを「諦めないで続けている」と正当化してしまうこともあります。諦めたくないもののために、厳しく動く、厳しく決断するということを繰り返していると、いつか形になってくる気がしています。

【清水】人生の岐路となる重大な決断は、「なぜ、今?」というような、非常に難しいタイミングで迫られるものです。それは神様から、「人生を賭けて大切にしたいことは何か」と聞かれているということ。逆に、そういう時でないと判断できないんだと思います。苦しいからこそ、そこで決断したことに対して責任を持てるんです。

■インタビューを終えて
清水さん、ありがとうございました。新しい仕事は、新しい世の中に伴ってどんどん必要とされてきます。ネットを通した感情の動きがより多く、細かくなってきた現代において、スタートトゥデイがCRM(Customer Relationship Management)をCFM(Customer Friendship Management)へと発展させることは、組織として新しい仕事を作る意思決定そのものです。企業と顧客のネットを通じたコミュニケーションに細やかな感情が必要になればなるほど、繊細で情緒的な関係性を生むことが得意な女性の活躍の場が増えていくのではないでしょうか。おしゃれな清水さん、また服の話を聞かせてくださいね。(原田博植)
原田博植(はらだ・ひろうえ)
株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 アナリスト。2012年に株式会社リクルートへ入社。人材事業(リクナビNEXT・リクルートエージェント)、販促事業(じゃらん・ホットペッパー グルメ・ホットペッパービューティー)、EC事業(ポンパレモール)にてデータベース改良とアルゴリズム開発を歴任。2013年日本のデータサイエンス技術書 の草分け「データサイエンティスト養成読本」執筆。2014年業界団体「丸の内アナリティクス」を立ち上げ主宰。2015年データサイエン ティスト・オブ・ザ・イヤー受賞。早稲田大学創造理工学部招聘教授。