キャリア女性向け仕事服ブランド「kay me」は、企業の管理職や、会計士、医師、弁護士といった激務をこなす女性たちの口コミで広がってきた。アパレル業界の経験がまったくない毛見さんはなぜkay meを立ち上げたのか。きっかけは、コンサルタントの激務の中で自分自身が感じていた不自由さにあったという。
華やかでちゃんとしている服でありながら、長時間着ていても体がラク。しかも家の洗濯機で簡単に洗える――働く女性による、働く女性のためのブランド「kay me」(ケイミー)は、どのように生まれたのか? kay meを運営するmaojian worksの代表取締役社長で、同ブランドの全ての商品のデザインを手がける毛見純子さんに話を聞いた。
コンサルの激務の中でニーズを思いついた
毛見さんは大阪生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、ベネッセコーポレーションで営業職として活躍。退社後はコンサルタントとしてボストンコンサルティンググループなどで働く。その後独立して2007年にmaojian works株式会社を設立し、さまざまな企業のコンサルティングを手がけてきた。
コンサルタントの仕事は激務だ。わずかな睡眠時間も惜しんで長時間働き、新幹線や飛行機による移動も多いという生活の中で、スーツの窮屈さに悩んだ毛見さんは「キャリア女性には長時間着ていても疲れない服が必要」という思いを強くする。
長時間着ていても疲れず、しかもちゃんとして見える服とは何か? ……毛見さんがたどり着いた答えは“ジャージー素材のワンピース+ジャケット”という装いだった。毛見さんはコンサルタントらしく、さっそく市場調査を開始する。
調査の結果、ジャージー素材のワンピースは、二極化していることが分かった。1つは通販などで購入できる数千円の格安なもの。もう1つは高価な海外ブランドのものだ。毛見さん自身も海外ブランドのジャージーワンピースのユーザーだったが、欧米系の有名ラグジュアリーブランドだと7~8万円、あるいは30万円といったところが相場で、手軽に買える値段ではない。その他のブランドでたまに手頃な値段のジャージーワンピースが出ることがあっても、商品の入れ替わりが激しく、いつでも買えるわけではない。品質と価格とちょうどいいバランスのもの、働く女性がいつでも購入しやすいものがない。
市場調査の結果を踏まえ、kay meのコンセプトが決まった。働く女性をターゲットに、華やかで着ていてラクな、2~3万円で買えるジャージーワンピースを作る。日本人に似合うデザインや色の、しかも上質な服をmade in Japanでつくる……というコンセプトだ。
2011年、kay me立ち上げ
毛見さんはアパレル業界未経験だったが、説得力のある企画書を持ってアパレルのプロを巻き込み、ブランドコンセプトに共感するたくさんの協力者を得てkay meの立ち上げにこぎ着けた。2011年7月のことだ。
立ち上げ当初は、ベネッセ時代の友人知人を呼んだ試着会からスタートした。これまでにないコンセプトの働く女性のためのブランドは、口コミで広がっていった。現在、kay meの主な顧客は、弁護士、会計士、医者といったいわゆる“士業”の女性や、毛見さんがコンサルとして関わる機会が多い、金融業やIT系企業で管理職として活躍する女性たちが中心だという。また、経営者や政治家にもユーザーが増えている。共通するのは、毛見さんと同じ“ハードワーカーな女性が多い”という点だ。
「年齢としては35~45歳くらいの女性が多いです。人前に出ることが多く、社交性も求められ、しかもキチンとしていなくてはいけないという職業の女性は、そう大勢はいません。しかし、そうした方々のニーズにきちんと応えていきたい。お客さまにアドバイスをいただいたり、逆にお叱りをいただいたりすることもあります。kay meが提供している価値と、お客さまが感じる価値が一致しているからこそ、小さい会社ながら海外に行ったり、賞をいただいたりとブランドが成長してこられたのだと思っています」(毛見さん)
ワンピースブランドとして出発したkay meだが、現在はスーツの人気も高くラインナップの4割を占める。「働く女性のための服」という軸はぶれることなく、ブランドは成長を続けている。プロモーションに力を入れるため、ドラマに出演する女優やニュース番組の女性キャスターへの衣装提供も開始。露出を増やしている。「コミュニティを大切にしつつ、プロモーションにも力を入れています。(これまでのアパレルブランドとは違う)新しい売り方をやっていきたい」と毛見さんは話す。
海外展開に力を入れる
また、現在力を入れているのが海外展開だ。日本人に合うデザイン、輸入したジャージー生地を国内でプリント・縫製するmade in Japanにこだわりながら、2015年は海外進出も果たした。現在はロンドンで2カ所、ノッティングヒルとチェルシーのセレクトショップで取り扱ってもらっているという。
「kay meのmeは『私』という意味。その人の人生や夢をかなえていく服でありたいと思っています。これからはもっと、その服を着ている人の情報を発信していきたい。kay meの服を必要としてくださる方は“少数民族”ですが、そのニーズにきちんと応えるブランドとして、今後も成長していきます」