イタリアのドレスに魅せられて
ノバレーゼは結婚式の企画・運営、サービス提供を目的に2000年に設立され、いまは国内外でドレスショップやウエディングスペース、さらにはレストランを展開しています。私は設立すぐに入社しました。その前は、当社の代表、浅田(剛治社長)が経営する名古屋の結婚式場でウエディングプランナーをしていました。代表がその結婚式場を離れ、同じ名古屋で新しい会社をつくるというので、私もそちらに移ったのです。
社長も含め、6人でのスタートでした。パンフレットもチラシも全部手づくり。ドレスに付ける商品タグもすべて自前です。それこそ朝から晩まで休みなく働いた気がします。でも、尊敬する代表と一緒に働きたいと思っていたので、苦にはなりませんでした。
代表は、どうすればスタッフが幸せになるのかを一番に考えていましたし、風通しのいい組織を目指していました。みんな「浅田さん」と呼んでいて、私が「社長」と声をかけると、「社長と言うな」と怒られたことがあります。そんな代表をスタッフは大好きでしたから、そういうところで働けるのはうれしかったですね。
私の仕事はドレスコーディネーターです。前職のとき、イタリアにドレスの買い付けに同行させてもらったことがあります。何十ものブランドが集まる会場でドレスを選びます。イタリアブランドの品質の高さに驚きました。高級なシルク素材をつかって繊細なドレスに仕上がっています。縫製もとてもきれいでした。
ノバレーゼに移ってからも毎年、イタリアに行かせてもらいました。自分が選んだドレスが店頭に並び、それをお客さまが手に取って選んでくださるのは、すごくうれしかったですね。
仕事がなくて胃がキリキリする日々も
03年にドレスショップの大阪店の立ち上げにマネジャーとして行くことになります。これが本当に大変で、あの時があったから今があると言えるくらいです。
それまでいた名古屋店は、多くのお客さまが来てくださる人気店でした。同じような考えで大阪に行ったら、まったくお客さまがいらっしゃいません。毎月、本社の会議に出ると「大阪はどうなっているのか?」と言われ、胃がキリキリしました。
スタッフのモチベーションを保ち、楽しく仕事ができるようにするには新規ご来店のお客さまを増やすしかないと思い、いろんな婚礼施設を回ってお客さまをご紹介いただけるよう提携のお願いをして歩きました。しかし、何社回っても断られます。電話のアポイントさえ取れない。大阪では認知度が低く、「ふ~ん、ノバレーゼってなに?」という感じでした。
本当に辛い時期でした。お客さまがいらっしゃらないからスタッフにさせることがありません。掃除ばかりさせるというわけにもいきませんので、今日は何をさせようか、明日は……と考えていたように思います。経費も抑えなければいけないので、事務所の空調や店舗の照明をこまめに調整して、少しでも無駄がないよう徹底的に取り組みました。
オープンして丸1年経ったころ、少し大きな婚礼施設と提携ができた瞬間から一気に新規ご来店のお客さまが増えていきます。忘れたころに、自分が以前資料を送った婚礼施設から「提携したいのですが」という電話がかかってくることもありました。
ところが2年経って、ようやく大阪店が軌道に乗ってきたころ、急に東京行きを言い渡されました。「えっ、今なの?」と思いましたが、代表が「東京だ」と(笑)。今度は、衣裳事業部長と東京のドレスショップの責任者との兼任です。そしてわずか2週間後には引っ越し。今ならあり得ませんね(笑)。
東京と大阪を何度も往復しました。まだ節約第一でしたから、新幹線をつかわずクルマに乗り合わせて移動するのはもちろん、ホテルも最安値をインターネット等で徹底的に探しました。
レンタル料金の割り引きをやめる決断
東京店は東京店で課題がありました。スタッフは、お客さまにご成約いただけるように勝手にレンタル料を安くする弱気な営業を行っていました。そこで「無理にご成約いただかなくてもいいから、お客さまによって安くしたりしなかったりするのはやめよう。ノバレーゼのドレスのよさを伝えれば絶対にお客さまはわかってくださるから」と話しました。
着任した初年度は売上目標が達成できず、スタッフはみんな落ち込んでしまいました。でも翌年は毎月、目標の売上を達成します。最初、スタッフは心の中で「少し安くすればすぐご成約いただけるのに」と思っていたでしょう。ぶれずにお客さまと真摯に向き合っていけば、想いは必ず通じるということがわかるいい経験でした。
ノバレーゼのお客さまは全員大切なお客さまだから、同じ条件で対応しなければいけません。一回安くしてしまうと、その後も割り引きを続けざるを得なくなります。それはノバレーゼの価値を下げることにも繋がります。
実は大阪店でちょっと失敗がありました。当時、大阪のお客さまは見積もりをご提示すると必ず「端数切って」とおっしゃいました。「申し訳ございません、切れません」と攻防がすごかったんです(笑)。でも一度だけ、割り引きしたことがありました。するとドレスの質ではなく安さを求めるお客さましか集まらなくなってしまったんです。ノバレーゼのドレスが着たいという方々ではありません。そのとき、変えちゃいけないことがあるんだと実感しました。