就活中の女子学生にとって、出産や子育てに配慮した制度が自分が入りたい企業にあるかどうかはとても気になるところです。制度が整ってきた今、問われるのは実際の運用。実際に女性の働きやすい環境かどうか、それは実は、現在働いている現役のみなさんの肩にかかっているのです。

かつて新卒採用の現場では、会社説明会の最中に「女性の働きやすさについて質問があります」と、挙手をする女子学生が少なくありませんでした。質問の内容としては「仕事や昇進に差別はあるのか」とか「結婚、出産や子育てなどに関して、配慮された制度が用意されているのか」や「産休や育休、復帰後の勤務やキャリアにブランクが生じた際の再教育などはどうなっているのか」などがよく聞かれていました。これら女子学生の疑問に配慮し、リクルーティングサイトで細かく説明をしたり、実際に働いている従業員たちを登場させて話をさせたりと、手厚く説明をする企業も増えているようです。

最近、新卒向け会社説明会で、この手の質問が出ることは以前より少なくなっています。それは、制度が整ってそんなことを聞く必要がなくなったから……というわけではありません。「入社前から、そういう質問をすると、選考上不利になる」という都市伝説のようなものが影響しているからのようで、なんとも悲しい現実です。

そもそも、こういう制度の話になると「制約がいっさいなく、企業の要求をすべて満たすことができる人」のみを「正社員」と呼びがちな現状に、根本的な問題があると個人的には考えています。フリーハンドではない人、時間に制限がある人たちはみな「限定」とか「非正規」なのですから。

「課題解決」の方法を、いつも“誰かが負担する”で済ませてしまう

「女性の社会進出」だとか「多様な働き方ができる社会を」など、勇ましいことを言うのはそれほど難しくありません、そう、言うだけならば。

本当にそれをやろうと思うなら、「限定がない」人たちだけが働くことを前提としている仕組みそのものを大きく変える必要があります。しかしそこに手をつけるのは、なかなか難しいのが実情です。国レベルで目標を定め、ルールを作り、補助金などを付けて変えていこうと取り組んでいますが、事態はあまり変わっていません。仕方がないので部分的に課題を解決しようと試みても、これもなかなかうまくいかない。

例えば、働くお母さんを支援する仕組みを導入した、という企業があったとします。この手の話題でメディアなどに取り上げられる企業は、うまくいっているから紹介されているわけですが、実際にはそう簡単な話ではありません。

誰かを支援するということは、当然のことながら、その支援をする「別の誰か」が必要になります。仕事をしなくてもよくなるわけではないので、働くお母さんができない分は、ほかの誰かがその仕事を引き受けているのです。その部分に費用を割く仕組みを作ることができる企業はいいのですが、その余裕のない企業は「誰かに頑張らせる」ことで、その穴埋めをしようとします。ここまで読んで、目の前でよく見かけるシーンだと思った人も少なくないでしょう。そう、いまだにありがちな、いや、むしろ最近増えている話なのです。

「負担すること」よりも「返ってこない」つらさがキツい

ここでは企業が具体的にこうするべき、という点には言及しません。このコラムのメイン読者である、キャリアの曲がり角あたりにいるみなさんは、制度を活用する、あるいは意見を述べるくらいのポジションにいて、制度を設計し運用するという立場にはないかもしれません。

誰かが負担してでも、現状の課題を解決するというのは、悪い手ではありません。しかし、問題はその公平性です。全員が平等に負担する、もしくは負担した分が別のことで報われるという仕組みになっていればいいのですが、その配慮に欠けている職場は意外と多いもの。

「制度が用意されているのだから、当然活用したい」と考えている人に対して、「制度のために負担が増えているが、自分がその制度を利用することは当面考えられないし、何も返してもらっていない」とつらい思いをする人が増えてしまう。こういう状況に心当たりはありませんか。

こうした話をすると「結局、女性の敵は女性。足を必ず引っ張る人がいるのです」と嘆く人がいるのですが、そういう問題でもないのです。周囲に気を遣わなければ利用できない制度では、本末転倒です。制度は堂々と利用すればいい。しかしそこに非対称性が生まれているとしたら、その歪みが組織をむしばみます。もっと良い制度がないかと、企業は模索中ですが、個人レベルでもできることはあるはずです。

 

「ワリを食っている」と思わせないために、あなたにできること

組織の中で、中堅と言われるポジションにいるみなさんにとっては、全社的な仕組みを変えて、より良い企業を作るとなると荷が重くても、個人レベルと企業全体をつなぐ部分で、尽力する余地はあるはずです。

そのヒントの一つが、非対称な状態から生まれてくる「割を食っている」人たちへのケアです。浮いた仕事は誰かがやらないといけない。これは当たり前ですが、実は現状、誰かの負担で解決されています。その「しわ寄せがいっている」人のケアは、現場の細かなことまで知り尽くし、面倒を見ることができる、みなさんの役割だといえるかもしれません。仕事が増えるよと、怒られてしまいそうですが。

問題が発生して、課題を解決したら、もしくは何かしらの方法でケアしたら、それを「ナレッジ」として蓄積していってほしい。そして、組織にフィードバックする。その仕組み作りにもトライしてほしいと考えています。絵に描いた餅のような仕組みや制度を作って、ワリを食う人と制度のうまみを享受する人を両極端に生み出さないためにも、現場で頑張っているみなさんが「結果的に仕組み作りに参画していた」という将来になることを目指してほしいのです。そうしないといつまでも、「女性の働く環境について質問したい」という、女子就活生はいなくなりません。

そう。未来は、みなさんの手「にも」かかっているのです。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。