女性活用に熱心な企業や組織が評価される昨今。しかし「女性が働きやすい」とはどういう意味なのでしょうか。育休がとりやすく時短勤務がしやすいこと? それとも男女格差がなく、女性管理職がたくさんいること? あなたの思う「働きやすさ」を頭に思い浮かべながらぜひ読んでみてください。

「女性が働きやすい職場」という言葉を目にして、皆さんは何を思い浮かべるでしょう。社内の仕組みが整っていて、働きながら仕事をする女性にとっては嬉しい制度が充実している会社をイメージする人もいるでしょう。また、本当はあってはならないことですが、未だに多く見られる「男女の格差」を解消しており、言い方は悪いけれど「女性であっても容赦はしない」フラットな組織が思い当たるという人もいるかもしれません。

……とさりげなく書きましたが、この2つの例には、大きな隔たりがありますよね。実はこの感覚の違いが、「女性の働きやすい職場」に対する誤解を生む原因になっています。

「女性が働きやすい職場」という言葉には、実は2つの意味がある。

男女の格差がなく、個人の能力が発揮できる環境が整備され、等しく評価される。それぞれのライフステージやライフイベントに合わせて、働き方やワークライフバランスを調整できる――そういう仕組みを用意するのが理想なのでしょうが、そこで働く人すべてにこの両方がうまく機能している、という組織は多くありません。例えば、子供を持つ母親が、子育てに配慮した仕組みをフル活用して働いているとしたら、その配慮のしわ寄せがきていると感じてしまう人に、渋い顔をされる。また女性特有の配慮に対して男性が「これって差別?」と声を上げるケースもあるでしょう。“誰もが満足する環境作り”というのは非常に難しく、一筋縄ではいかないものです。

「働く」の意味が多様化して、「働きやすさ」も多様化し始めた

かつては、「働く」という言葉の持つ意味を、人によって捉え方が違うということが起きなかったので、事態はそれほど複雑ではありませんでした。しかし今ほど“人それぞれ”という言葉がこれほどぴったりくる状況はないでしょう。

ある人は、仕事を通じて自ら実現したいことがあって、それこそ「ライフ=ワーク」だと公言している。その隣には「自分の趣味のためのお金を捻出したいだけ、仕事はその手段にすぎない」という人もいる。結婚しても仕事を続けたい、子供を産んでも仕事を続けたい、それも“配慮された結果の役割”ではなく、自分の能力が十全に発揮できる、やりたい仕事をするために働くことを選ぶ人もいる。バラバラです。

人によって働く理由が多様化し、その意味もまちまちになってきた状況が、企業の制度設計を大きく戸惑わせています。もちろん、すべての人に行き届いた仕組みが作れればいいのですが、あちらを立てればこちらが立たず、という状態がよく起きてしまうのです。当たり前のことですが、すべての人が働きやすい環境を作るためには、それ相応の費用がかかります。それを誰が負担するのか、そして費用対効果はどの程度なのか……そうしたことを企業の担当者が算段している間に、世の中の「当たり前」が進化してしまったのが今。「とりあえず対応しなければならない」という状態になり、しわ寄せのように誰かへ負担がかかるのです。

働きやすさを「作る」側にそろそろ回る時期

制度設計などが後手に回ってしまっていること。「『女性にとっての働きやすさ』の当たり前」が、思ったよりも早いスピードで、人それぞれになりつつあること。そのおかげでバランスが悪い職場が増えつつあること――こう書いてしまうと、個人でどうにかなる問題ではないような気がします。

しかし、実際はそうではありません。このコラムの読者である、そろそろキャリアの曲がり角を迎えようとし、その岐路に立っている人には、「自ら行動する」ことによって、制度を“作る”立場になれる、という自覚を持ってほしいのです。

例えば、さまざまな人の多様な価値観を包含する職場作りのためにできることは、たくさんあります。大掛かりな話をすれば、企業の中に「働きやすさを考え、制度を整えていく組織」を作るように働きかけるのも、その一例。すでにそういう組織が用意されている職場なら、積極的にその活動に参加するのも、働きやすさを作るいい機会です。

身近な例でも、誰かの働きやすさのために、別の誰かに負担がかかっていないかを気にかけておいて、間に入って調整することも、皆さんのような職場でのポジションなら、十分に可能なはずです。「誰かが何かをやってくれるもの」というスタンスから一歩踏み出して、当事者として働きやすさを自ら作り出していくという姿勢が「誰かの押し付けではない」働きやすさを生み出していくのです。

働きやすさから「活躍しやすさ」へ価値が変わる時代に

最近では、女性が働きやすい職場には「働きやすい」「昇進しやすい」「活躍しやすい」など、さまざまな意味が含まれるようになってきている、そんな風に感じませんか? 「働きやすい」という言葉でひとくくりにしまっているので気が付きにくいですが、実はこれらの言葉、意味がまったく異なってきます。

これも言葉が古臭いのですが、歴史ある企業の中には「女性活用」に長けているところが多い。ですが、こうしたの企業群の中には、「女性が働きやすい」けれど「活躍はしにくい」という職場も少なくありません。ましてや昇進なんて、という企業も多い。逆に、「そうした垣根はもう、まったくない」という企業も急増中です。

いろいろなことが過渡期である、という今。「女性が働きやすい」という言葉の持つ意味も、すごいスピードで変わりつつあります。何が正解なのか、まだ企業自身も模索している途中で、これだという策は見つかっていません。だからこそ、個人が「自分の意思で」働きやすさを選べるように仕組みを整備していく必要があるはず。そのためには、選択肢が豊富でなければならないのです。

そしてその「選択肢」とは、ビジネス社会である一定の成功を収め、自分なりの働き方をしている皆さんのワークスタイルそのものなのです。もっと声を大にして「女性の働きやすさとはこういうことだと考えている」とひとりひとりが発信してほしいなと、私は願っています。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。