トステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が統合し、LIXILが誕生したのは2011年。かじ取りを任されたのは、米GEで日本人初のバイスプレジデントにまで上り詰めた藤森義明氏だった。
若手もベテランも女性も関係ない
商品開発を担当している酒本久美子氏(36)は統合直後、「うちの部署は大丈夫なんだろうか」と一抹の不安を覚えた。
「他部署は次々と英語で話し始めるし、周りを見れば同じ会社の出身者ばかり。このまま取り残されてしまうんじゃないか、とよく冗談で話していました」
そんな不安も間もなくかき消されていった。子会社化によってグループ入りした川島織物セルコンと、これまでにない新商品の開発に取り組むことになったからだ。
「川島織物セルコンはもともとオーダーカーテン市場でトップシェアを持つ会社です。それをLIXILの販路で販売することを目的に開発したのが、カーテンレール付き窓枠でした」
カーテンはエンドユーザーのこだわりが強い商品だが、オーダーの場合、内装後に寸法を測るなどしなくてはならないため、すぐに取り付けられない不便さもある。
「現場によっては、カーテンの『たたみしろ』を十分に確保できず、窓から出入りする際に邪魔になるなどの不満も出ていました」
これらを解消しようと考案したのが、カーテンレールと一体化した窓枠だ。あらかじめカーテンのサイズが固定されるので、柄をゆっくり選ぶ時間がとれる。そのうえ、工事の手間も省ける。
これまでにない商品のため、工務店などの取引先にそのメリットを理解してもらうのには苦労したが、発売から1年が経ち、ようやく少しずつ浸透してきている状態だという。
「部門長同士の交流も盛んになり、研修に関しても参加したい人はいないか、とまず聞かれるようになりました。若手も女性もベテランも関係なく、機会が平等に与えられるようになったのが一番大きな変化じゃないかと思います」
子育てしながらでもリーダーはできる
LIXILでは営業や取引先から舞い込むオーダーはいったん、地域ごとの受注センターへと集められる。2013年、遠藤美菜子氏(38)は東日本住設・タイル受注センターでSV(スーパーバイザー)をしていた。
受け付けた注文を確認して工場へデータを送り、商品が出荷されたら、物流へ連絡をとってお客の元へ届ける支援をするのが仕事だ。シンク一式欲しいということもあれば、ネジ1本、パッキン1つの細かな注文もある。リーダー役のSVは年ごとに変わる商品知識を頭にたたき込み、新人が入ったら、彼らが戸惑わないように気を配り、周囲の質問に答えることもしなくてはならない。統合直後は各社ごとに仕事のやり方や使う用語が違っていたりと、混乱も激しかった。
妊娠が判明し、産休に入ることになった13年12月、彼女は「このままリーダー職を続けられるのだろうか」と不安だった。それ以前はよく残業もし、時間をかけて後輩たちの悩みを聞き、食事に行くことも多かった。「復帰後に同じように働くのは難しいんじゃない?」と心配されることもあったため、SVのポジションにとどまるべきかどうかで悩んでいた。
センター長との面談では、「復帰後もフルタイムで働きたい」「今までと同じように頑張りたい」とだけ伝えた。
「じゃあ、今まで通り働いてもらうよ」と言われたときは、ほっとした。もしもこのとき、上司から「リーダーは無理だ」と言われていたらどうだったかという質問に、彼女はしばらく考えてこう答えた。
「その場合はもしかすると、今のような頑張り方はできなかったかもしれません」
15年2月に職場復帰してからは、受注センターのキッチンチームで、産休前と同じSVとして働いている。起床は午前5時。始業30分前の午前8時には出社し、メールをチェックしたり、その日の仕事を頭の中でシミュレーションしている。
保育園に子どもを迎えに行くため、午後5時半には会社を出る。後輩とコミュニケーションする時間は減ってしまったが、その分、こまめに声をかけるようになった。「直属の上司に助けてもらいながら、少しずつ両立の方法を模索しています」。
グループ内では女性有志による自主的交流活動も展開されている。遠藤氏は復帰後、この交流活動にも参加し、ランチミーティングなどを通じて同じ出産経験者と悩みを共有したり、効果的な時間の使い方について学び合ったりしている。
「激変」してからは実力主義に
「激変」は、男性社員もひしひしと感じていた。LIXILは今年4月から新事業モデルへと移行。浴室の販売戦略を担当する田尾田洋氏(40)の所属するLIXIL Water TechnologyのCEOは、ドイツの水栓金具大手・グローエ社長であるデイビッド・J・ヘインズ氏になった。以前から会社のグローバル化は感じていたが、実際に組織のトップが外国人となった今、自分の業務にもいずれは英語が必要になるのかと、より意識が高まった。
「藤森社長が来てからの変化は、ひとことで言えば実力主義。男女がどうとか国籍がどうではなく、本当に実力のある人は尊重され、認められるべきだと思っています」
かつて藤森氏がGE日本法人から米本社の部門長に抜てきされたとき、GE幹部に日本人はおろか、アジア人さえいなかった。ほとんどが白人のネーティブという環境のなかで「わずか30秒のボイスメールを返すのに20回でも30回でも聴き直し、自分の英語が相手に伝わるかどうかを確認した」という。
それから25年後の今日、ビジネスの世界では、ダイバーシティが合言葉となった。自分を的確な言葉で表現しながら同時に相手を深く理解し、社会に横たわるさまざまな境界線を越えていける人材が、ますます必要になってきている。LIXILの試みは、その表れだ。
取材して実感したのは女性たちがみな前向きで明るく、率直な言葉で自分自身の体験を語ったことだった。
「私に起きたことは、みなさんにもいつ起こるかわかりませんよ」
そう言った成田氏の笑顔がとても印象的だった。