「女性だから」「女性なのに」――職場でそんな言葉をかけられたことはありませんか。辞書的な意味とは異なる文脈で使われる「だから」に隠された真の意味とは? 今回は「女性だから」「女性なのに」について考えます。

女性「だから」とは?

「だから」。この言葉に皆さんはどのような印象を持つでしょうか。辞書的な解説だと「前に述べた事柄を受けて、それを理由として順当に起こる内容を導く語」となるようです。しかし、女性のキャリアについて考える本コラムとしては、もっと別の使われ方での「だから」について、少し考えてみたいと思っています。そう、「女性だから」というフレーズについてです。

そう聞いただけで、勘の良い人ならピンときたはず。ビジネス社会における何気ない会話の中で、幾度となく繰り返される「女性だから」という言葉。辞書的な意味、すなわち「前に述べた事柄を受けて、それを理由として順当に起こる内容を導くための語」としては、あまり使われません。

「ああ、あの人は女性だから」とか「女性だからしょうがないよね」というセリフが飛び交うシーンは、ある女性が仕事において上手く立ち回れなかった瞬間です。先述した辞書的な使い方だと「失敗してしまったじゃないか。だから女性はダメなんだ」という感じでしょうか。とても当たりがキツい文章で、書いている私も冷や汗が出てきます。「女性だから」と言い放ってそのまま文章をつなげなければ、その意を含みながら、少し柔らかい、でも肝心な部分の判断を相手に委ねることができる。ただ、いずれにしてもあまり愉快ではない言葉であることは事実です。言われた方にしてみれば「女性だから何?」という気持ちになるのではないでしょうか。

その前に「女性なのに」という言葉についても考えてみる

女性だから、というセリフと似たようなフレーズに「女性なのに」があります。これは逆接の意を持つ言葉なので、「だから」と比較すれば、ポジティブな印象を与える使われ方が多いです。「あの人は女性なのに頑張っている」とか「女性なのにあれだけのポジションの仕事をこなしていて凄い」という使われ方ですね。

この言葉も何気なく使われていて、女性がビジネスで活躍しているシーンには、よく登場します。しかしこれ、実は違和感を持っているという人も少なくないようです。そういう人に話を聞くと「だって『あの人は男性なのに頑張っている』という使い方はしないですよ」と言うのです。

確かに、「なのに」という言葉は、それができないことが一般的であるにもかかわらずできている、という場面で使われます。例えば「若いのに、管理職としてバリバリやっている」とか「外国からやってきたのに、日本で経営者として成功している」とか。そう考えると、女性がビジネス社会で活躍することは、どこか一般的ではないという前提があって、結果として「フツーじゃないってすごいね」という意味が「女性なのに」という言葉には入っているということ。逆に、育児をする男性に「男性なのに大したものです」と称賛するシーンもまだまだ多いようですが、これも同じこと。女性が育児をしても「凄いですね」とは、まず言われない。

そもそも「女性だから」とか「女性なのに」という言葉は的を射ているのか

もう一つ。「女性だから」とか「女性なのに」というセリフに違和感を持ってしまう原因として、「そもそもその言葉は的を射たものなのか?」という疑問があります。世の中には、性差があるためにできないこと、理解しにくいことがあるのは事実です。が、ビジネスにおける失敗の中で「女性だから」と理由をつけてバッサリと切り捨ててしまえることが、それほど多いとは思えません。

同じ失敗をしたとしても「男性だからね」というセリフを耳にすることがそれほど多くないことを考えると、そのことがよく分かるはずです。少なくとも、ビジネスシーンにおいて女性がフツーに活躍している現在の日本で、「女性だから」という言葉は、もう似合いません。

ある種のカテゴリーでくくる、また、レッテルを貼ることで話を分かりやすくするのは、多くの人が一般的に取る手段。それこそビジネス誌などでも「活躍する女性」にフォーカスする時には、どうしても「それが一般的ではない」という状態を前提に書かれるケースが多い。そう考えると「女性だから」とか「女性なのに」というセリフがビジネス社会で使われない状態になるには、まだしばらく時間がかかるのかもしれません。しかし、キャリアの曲がり角に差し掛かっている皆さんには、この言葉の使われ方が、もっと別の意味を持ってくることを、少し気にかけておいてほしいのです。

「なのに」よりも「だから」と言われる量が増える時

若い時は一生懸命仕事に取り組んでいるだけで「若いのに頑張っている」と褒められました。以前ならば女性が就かなかったポジションで働いているだけで「女性なのに素晴らしい」と称賛されたでしょう。

しかし、だんだんと年を重ねるにつれ、そのアドバンテージは失われます。経験があるのだから、仕事はできて当然。逆に失敗すると「女性だから」といわれのない切り捨てられ方になり、さらに「なのに」という語も、「ベテランなのに」というネガティブな使われ方になっていく。そう、キャリアの曲がり角に差し掛かると、褒められる言葉も機会も減ってしまうのです。できて当たり前、という感じですね。

年を重ねるにつれ、仕事ができる人ほど「女性なのに」とは言われなくなっていきます。

そもそも「女性」であるとか「若手」だとか、そういうレッテルに意味はない、個を見るべきだという前提はさておくとして。今後、皆さんの多くは緩やかに認められなくなります。誰も凄いと言ってくれないし、頑張っているだけでは褒めてくれないし……という状態になるのです。

ある日突然、今までと同じように仕事をしていて「あれ、どうしてこんなにも(気持ちの面で)しんどいのかな」と感じるようになったら、あなたのポジションが「なのに」から「だから」に移行してしまったのかもしれません。ただ、それは逆にいうといいことなのです。なぜならそれは、「あなたならできて当たり前」だと思われている、ということなのですから。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。