ハイテクやITが経済を牽引する現代、理数系を学ぶ女子を増やすことは非常に重要なことといえる。本記事では早稲田大学大学院、東北大学、福岡工業大学の現役“リケジョ”にインタビュー。理系女子の生の声や「理系好きな子どもを育てたい」と願う親へのアドバイスを聞いてみた。

筆者は常々、ハイテクやITが経済を牽引するこの時代に理数系を目指す女子、いわゆる“リケジョ”こそ、日本を支えるホープだと思っているのだが、残念ながらこれまでなかなか接点がなかった。ところが先日、中国の大手通信メーカーHuawei Technologies(ファーウェイテクノロジーズ)が、中国本社に世界中から学生を招くプログラムを実施していたので取材したところ、日本からも3人の女子学生が……。実際に、今、理数系でがんばっている現役理系女子たちは何を考えているのか? 彼女たちに迫ってみた。

忙しいけど、理系は楽しい!

左から栗本優美さん、宮本知佳さん、川端萌美さん

今回話をお聞きしたのは、川端萌美さん(早稲田大学大学院基幹理工学研究科情報理工・情報通信専攻)、栗本優美さん(東北大学工学部3年生)、宮本知佳さん(福岡工業大学情報工学部3年生)の3人。彼女たち3人のほか、日本からは17人の男子学生たちがHuaweiのプログラムに参加していた。

筆者は文系出身で、ハイテク分野の記事執筆に苦戦しっぱなしであり、小学生と中学生の女子2人の親でもある。子の親という立場からも、また(働く)女性の先輩という立場からも、日常ではなかなか接点のない理系の女子大学生たちに、聞きたいことはたくさん。まずは理系女子の学生生活とはどのようなものなのか、聞いてみた。

栗本優美さん。Huaweiのプログラムで熱心に学習中

わざわざ“リケジョ”と呼ばれるだけあり、教室では女子はマイノリティー(少数派)のよう。栗本さんの場合、学科にいる約250人の学生中女子はたった13人、宮本さんの学部も約100人中女子は5人とのこと。だが、そのような状況をむしろ活用しようという姿勢がたくましい。「女子が少ないから助けてもらえる」とは3人が3人口にしていた。「女子トイレがガラガラ」と栗本さんが言えば、「そうそう」と川端さん、宮本さんもうなずく。

学生生活は勉強がほとんどで、バイトや飲み会の時間はほとんどないというのが現状のようだ。川端さんは、ネットワークスペシャリストの資格を取りたくて「1日に5~8時間勉強している」とのこと。大学院卒業後の就職先のめどがついているのにこの頑張りには頭が下がる。川端さんはそんな自分を「私、負けず嫌いなんです」と自己分析していた。

文系の友達から飲み会に誘われたり、LINEのメッセージをもらったりすると「楽しそうだな」とは思うものの「それでもやはり理系でよかったし、理系は楽しい」と思っているそう。たとえば「すべてが科学」になる視点。Huaweiの研修宿泊施設にあるビリヤードをやりながら物理が頭をよぎり、仲間と物理についての話に発展するという。プログラミングを学習している栗本さんは、スマホでゲームをしていても、そのゲームのプログラムや構文が見えてくるそうで、うらやましい限りである。

子どもはいつ頃産む?

男性に比べ、働く女性は結婚や出産といったライフイベントをより真剣に考える傾向がある。20歳を迎え、学生時代も後半に差し掛かっている彼女たちはどうなのだろうか。

川端萌美さん

大学院の後の進路が決まっている川端さんは、キャリアとプライベートの両方での将来をきっちり描いている。「30歳までに1人でいいから子供を産みたい。子供はベビーシッターに頼み、私は働きたい」と語る。その理由は、ブランクを空けたくないからだ。「ブランクがあると、職種が変わったり、昇進コースから外れてしまうことがあると聞いたので」と説明してくれた。ベビーシッターについては控除の方向性が固まってきているが、「働く女性が増えてくると、支援も増えてくると思うので」と頼もしい言葉。川端さんの夢は「飛行機のファーストクラスに乗ること」。しっかり働いて、昇進して、子育てして、という彼女の将来図を聞くと、かなり実現可能に見える。

現在学部生の栗本さんと宮本さんは、次のステップとなる大学院進学が当面の目標だ。それだけに、就職、その後の将来についてはまだ明確にイメージしていないようだが、やはりしっかりしている。「その後は就職して、仕事が落ち着いたら結婚したいな。子供が就職する頃までは生きていたいから、逆算すると30~40歳までには子供かな」とは宮本さん。お母さんは専業主婦だったそうで、学校から帰ると家にいてくれた。だから自分も「子供が生まれたら一度仕事をストップして、子供が小さい間は家に居られたらいいな、と考えています」とのことだ。

宮本さんは、子供についてちょっとしたデッドラインを感じているようだ。「大学院の後に就職すると24歳……。授業で、病気のリスクなどの点から30歳までに子供を産んだ方がいいと聞いたから、それまでに子供を産みたいと今は思っています」とのこと。仕事はその後も継続したいと考えている。「両親は共働きで、学童に通っていた。家に帰っても誰もいなくて寂しいこともあったけど、両親は生き生きしていた。だから、私も子供を産んでも働き続けたいな」と現時点での気持ちを話してくれた。

「父の影響」は見逃せない大きさ

取材をしながら、彼女たちが理数系を選んだ背景に家庭環境が大きく関係していることも興味深い発見だった。もちろん、数学や理科が得意だったというのは承知しているが、3人中2人が“お父さんの影響”を挙げている。

「システムエンジニア(SE)の父の影響」と話すのは川端さん。中学生の頃からパソコンに親しんでいたそうで、「父がパソコンのことで人を助けているのをみてかっこいいなと思っていた」と、理系に進んだ理由の1つには“父の背中”があったようだ。栗本さんは、中学校で理科の先生として教壇に立つお父さんの意向もあって理数系を選んだという。子供の頃から家族で出かけるときは科学館や博物館が「お決まりのコース」で、地層をみて解説してくれることもたびたび。「お父さんと早く対等に話ができるようになりたいと思っていた」という。最近では栗本さんの方が知識がある分野もあり、教えてあげることもあると嬉しそうに語る。

宮本知佳さん

育つ環境が大きく影響しているのは、自分の意思で中高一貫の女子校から情報工学部に進んだ宮本さんも同じ。子供の頃に電子ロボットおもちゃの「ファービー」で遊んだり、カレンダーの裏紙をもらっては絵を描いたり切ったりしておもちゃを作って遊んでいたという。そして3人ともNHKのTV番組『つくってあそぼ』を観ていたという共通点もあった。

最後に「子供を理数系好きにしたい親へのアドバイスは?」と聞いてみた。「不思議だなと思う体験をさせること」(宮本さん)など、全員が挙げていたのが「体験」や「機会」を提供する大切さだ。川端さんは「理数ができれば、こういう大学に行けて、こういう職種につけて……と目標になるものを見せてあげるとよいのかも」とアドバイスをくれた。

理系女子は、大学生全体のわずか12%しかいないし、世界的に見ても理系分野では女性より男性の活躍が目立つ(参考「なぜ理系に進学する女子が少ないか」:http://president.jp/articles/-/11293)。しかし文系に進むか理系に進むかは環境や教育といった後天的な要素で決まるのであって、女性に理系の学問が向いていないわけではない。子供、とくに女の子を理数系にと考えているなら、環境づくりが重要といえそうだ。