月額324円でいつでも医師に相談できる!?
「アスクドクターズ」というQ&Aサイトをご存知でしょうか。病気について、24時間インターネットで無制限に相談することができ、しかも複数の現役医師から短時間で回答が返ってくる、日本最大級の医療系Q&Aサイトです。
月額324円(税込)という手頃な価格で、いつでも医師に相談できるという安心感が求められ、「アスクドクターズ」の有料会員者数は数十万人に上ります。3654名(2015年9月27日現在。以下、同様)もの各分野の専門医からタイムリーに答えが返ってくるだけではなく、匿名で質問ができるため、プライバシーも守られます。また、相談例が1238万件以上も掲載されていることから、検索をすれば自分と同じような悩みを抱えている人に対する医師の答えを参考にできます。不安なときにすぐに専門家の意見が聞ければ、それだけで心強いものです。子供の急病などについても質問できますので、忙しく働く女性にとっては特に使い勝手のよいサービスといえるのではないでしょうか。
ただ、利用者にとっては便利なサービスですがそれを運営する会社にとってはどうでしょうか。1人の会員からの収入は毎月たったの324円。それにも関わらず、相談に乗ってくれるのは現役の医師です。その人件費を考えると、利用料はかなり割安に感じられます。サイトを運営する会社の収益構造は一体どうなっているのでしょうか。今回は、「アスクドクターズ」を手がけているエムスリーについて、その経営成績やビジネスモデルについて見ていきたいと思います。
「アスクドクターズ」の運営母体は超優良企業
2015年3月期(第15期)におけるエムスリーの経営成績は、連結ベースで売上高513億円、経常利益152億円、そして当期純利益88億円。従って経常利益率は29.7%、当期純利益率は17.2%という計算となり、かなり高収益だといえます。2014年に経済産業省が発表した全国における経常利益率と当期純利益率の平均は、それぞれ4.5%と2.9%ですので、それに比べれば6倍も高い収益力を誇っていることが分かります。
過去の有価証券報告書をもとに、創業期から今日に至るまでの売上高及び当期純利益率の推移はグラフの通りとなります。
2000年の創業第1期でこそ売上1億円に対し9千万円の当期純損失を出していましたが、それ以降は常に高い収益力を保持しており、しかもものすごい勢いで成長を遂げていることが分かります。自己資本比率は75%以上とかなり安定しており、実質無借金経営です。エムスリーは超優良企業だったのです。
有価証券報告書で開示されている役員の状況によれば、エムスリーは社長を筆頭に、戦略系コンサルティング会社であるマッキンゼー出身の役員が多く、経営に強い人材がブレインについているといえます。また、従業員の状況を見ると、エムスリーの従業員数は274名で平均年齢34才、平均給与730万円と示されています。こうしたことから、エムスリーには若くて能力の高い人材が集まっていると考えられます。優良企業は優秀な人材によって支えられていたのです。
ただ、会社は「アスクドクターズ」だけで急成長し、高収益を上げるようになったとは考えにくい。エムスリーのビジネスモデルはどうなっているのでしょうか。
医師を集めれば様々なビジネスになる
会社のビジネスモデルは、有価証券報告書の【事業の内容】で確認することができます。それによれば、エムスリーは主に「m3.com」という医療従事者専門のポータルサイトを運営しており、そこでは専門医療情報に特化したニュースや文献検索、会員専用コミュニティサイトといった独自のコンテンツなどを会員である医療従事者に対して無料で提供しています。2015年3月末の段階では約25万人の医師を含む医療従事者がこのサイトに会員登録しており、これは国内最大規模となります。そしてこの医療従事者会員を基盤として、エムスリーではさまざまなサービスを提供しています。
有価証券報告書の【事業の系統図】を見てみると、エムスリーの稼ぎ頭は膨大な会員数を誇る「m3.com」であり、そこで製薬会社による医薬情報や広告などを掲載することで、顧客企業から収益を得ておることが分かります。
そして「アスクドクターズ」では「m3.com」の会員で、そのサービスに賛同した医師が質問に回答しています。会員からの評価に応じてポイントがつき、「m3.com」内でさまざまな商品と交換できる仕組みになっていますが、それよりも「困っている人を助けたい」という気持ちが、医師たちの回答に対するモチベーションになっているようです。ということは、医師の人件費はほとんどかからないことになります。「アスクドクターズ」はエムスリーにとって、本業の資源を有効活用した副業のような位置づけだからこそ、低価格でのサービス提供ができたのです。
なお、エムスリーは医療ポータル事業の他にも、臨床試験をサポートするエビデンスソリューション事業や海外事業などを展開しており、いずれも急成長を遂げています。
以上、今回はエムスリーについて見てきました。エムスリーは3つのM、Medicine(医療)、Media(メディア)、Metamorphosis(変革)から名付けられました。「インターネットを活用して、健康で楽しく長生きする人を1人でも増やし、不必要な医療コストを1円でも減らすこと」というその志は、今後ますます多くの賛同を得て、さらなる社会貢献を果たしていくことでしょう。
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。