【自信】【勇気】【リラックス】、心理学者アルフレッド・アドラーが説いた3つのキーワードを基に、この連載では“見せたい自分”、自己表現のレッスンを重ねてきました。今回は9月(Lesson7~9)の振り返りと、パフォーマンス心理学の第一人者・佐藤綾子さんがお薦めする賢人の言葉をご紹介します。

9月に行った第3クールでは、次の3つの問いに答えてもらいました。性格傾向と心理分析はいかがでしたか? おさらいが必要な人は、下の質問に4択で答えてください。

Lesson7【自信】の問い:「自分がどう思われているか不安だ」
Lesson8【勇気】の問い:「好意を持っている男性に、気持ちを伝えられず、友情以上に踏み出せない」
Lesson9【リラックス】の問い:「一度にたくさんの仕事を抱えると、緊張して何もうまくいかない」

[A]いつも(1点)
[B]ときどき(2点)
[C]たまに(3点)
[D]全く違う(4点)

 

3つの質問の答えが平均3.5以上だったあなたは、仕事で“見せる・見せたい”自分をよく理解している、バランスのとれた人。3.4以下だったあなたは、各レッスンで心理分析とその対策を紹介しているので、“見せたい”自分に近づけるよう、日頃の考え方のヒントにしてみてくださいね。詳しい分析が知りたい方は次ページの文末リンクからトライしてください。

己を知ることで、自分自身も成長します。それらの自己分析を踏まえて、世界の賢人が残してくれた言葉のエッセンスをどうぞ。レッスンの得点が3.5以上だったあなたも、また、そうでなかった方たちはなおさら、心の持ち方のヒントにしてくださいね。

今月も、【自信】【勇気】【リラックス】の心理テストにトライしてもらいました。全体のスコアが悪く、何事にも自信や勇気を持てずに、常時緊張してリラックスできていないあなた――仕事帰りに「あの時の発言で相手を傷つけてしまった」とか「先月の失敗がトラウマになっていて、あの先輩との仕事は乗り気がしない」などと、何につけ意識が過去へと向かっていませんか? 過去に思いを巡らせても、ほとんどの場合、何の解決策も見つかりません。

アルフレッド・アドラーはこう言っています。

人の心理は物理学とは違う。
問題の原因を指摘しても、勇気を奪うだけ。
解決法と可能性に集中すべきなのだ

アドラーは1870年にオーストリアで生まれ、後にアメリカに移住し、1937年に永眠するまでたくさんの言葉を残し、現在では「自己啓発の父」と呼ばれる素晴らしい心理学者の1人です。欲求段階説で有名な心理学者のアブラハム・マズローも彼に影響を受けました。

でも当時、同時代に生きたフロイトなどに比べ、彼の心理学はあまり有名ではありませんでした。その理由の1つは、彼の心理学があまりにもシンプルで実用的だったからでしょう。

例えばフロイトが、「問題の原因は、あなたの幼少期における親の影響にある。あなたが悪いというよりは親が悪いのだ」と原因を過去へとさかのぼって究明するのに対して、アドラーは前向きに問題に向き合おうとしました。過去の事象を探るよりも、“今この瞬間の考え方と行動こそが一番大事な問題解決策だ”と断定したのです。「なぜ起きたのか?」という言葉を「では今、何から解決しようか?」に変えるべきだというわけです。現状の改善に集中すれば、解決法とその実行の可能性が見えてくる、と説いたのです。

私の親しい友人のお嬢さんのエピソードです。彼女は先の春に、大学受験に失敗しました。志望校に落ちてしょんぼりしていたら、担任に「これまでの勉強法が悪かったんだね」と声をかけられ、「先生の発言が後ろ向きで嫌になった」と言うのです。

そして翌日、近所の文具店の若いご主人から「今日は泣いていてもいいけど、来年に向けて明日から頑張ればいいじゃない」と言われたそうです。彼女は、過去の悪いところを指摘する先生より、前向きな文具店の店主の言葉で気持ちの切り替えができ、1年後の再挑戦に向け元気をもらった、と言います。

原因究明よりも解決策に頭を使え、というアドラーの言葉はそういうことです。悪かったことの原因究明は、思い出す度に私たちの心から勇気を奪います。

あれが悪かった、これが悪かったと自分や他人を責めても、事態は何も変わりません。顔つきも暗くなってしまいます。それよりも、次に何をしたら成功するかを考えた方が得策。やる気が出て、表情も前向きに輝きます。

過去に縛られると現在にエネルギーを集中できません。当然未来のことも考えられません。あなたの意識が過去にある限り、エネルギーは現在と未来に向かわないからです。アドラーはこれらを違う言葉でも表しました。

人は過去に縛られているわけではない。
あなたの描く未来があなたを規定しているのだ。
過去の原因は「解説」にはなっても「解決」にはならないだろう。
佐藤綾子 パフォーマンス心理学 博士
常に女性の生き方を照らし、希望と悩みを共に分かち合って走る日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。日本大学芸術学部教授。「自分を伝える自己表現」をテーマにした単行本は180冊以上。新刊『30日間で生まれ変わる! アドラー流心のダイエット』(集英社刊)は9月4日発売。