リラックスした心持ちで、時間や仕事をコントロールできたら、毎日のパフォーマンスが上がり効率的に動けるのでは……。心理学者アルフレッド・アドラーは【自信】【勇気】【リラックス】が自分を体現するうえで大切だと説きました。その3テーマを軸に「自分の表現法」を考えるシリーズ。今回のテーマは【リラックス】です。指南役は自己表現研究の第一人者、パフォーマンス心理学博士の佐藤綾子さん。あなたの心理傾向を診断し、その対策をコーチしていきます。

■リラックスのレッスン

リラックスとは過度の緊張がなく、心身にゆとりがある状態です。緊張ばかりしてリラックスできていないと、「ああ大変だ。私だけ仕事が多くて、やっていられない」などと前向きに考えられなくなったり、追い立てられて焦ってしまったり。そんな場合は往々にして、仕事の結果が出せておらず、どの仕事も中途半端で、ひどい場合は何から手をつけてよいか分からず混乱している状況です。

さてあなた自身の心境はどうでしょう? 私たちの心は「リラックス」しているかどうか、という心理尺度で測ることができます。

Lesson9.リラックス その3

早速セルフチェックをしてみましょう。回答は4パターン【A.いつもそうである】【B.ときどきそうである】【C.たまにそうである】【D.全く違う】があります。セルフチェックの後は心理分析と合わせ、その対策もご紹介。自己分析して、明日からのあなたがさらに一歩前進できるように心掛けてください。

回答にはそれぞれ点数があります。3回のレッスン(自信・勇気・リラックス各1回が1クール)の終了後に総評があるので、各レッスンの点数を控えておくと便利です。

 Q.一度にたくさんの仕事を抱えると、緊張して何もうまくいかない

[A]いつも(1点)
[B]ときどき(2点)
[C]たまに(3点)
[D]全く違う(4点)

 

[A]の人の性格傾向と心理分析
過緊張タイプです。悲観主義と完璧主義の傾向が大きく、あなた自身が何かやる時に必要以上に身構えてしまうことがあります。うまくいかないと困ると感じて、実際「できないかもしれない」と口に出すことがあるかもしれません。顔つきは暗く、疲れた表情で、人から何か言われると、自分の人格まで否定されたような気がして涙ぐむ時もあります。それは決断力や行動力の不足に起因しているのですが、そのことに自分で気が付いていません。

対策
まず、自分の能力を冷静に分析してみてください。何が弱く、何が強いか考えてみましょう。指示待ちで同じ作業を繰り返すだけならばうまくできますが、自分で考えて行動しなければならないと、そこで立ち止まってしまいますね。小さな仕事でいいので、「もっと効率よく、楽にやるにはどうしたよいか」と自分で考えて、思いついた方法を1つでよいので実行してみてください。それがうまくいったら、しっかりと記憶しておきます。この繰り返しで自分に自信がつき、必要以上におびえたり緊張することがなくなって、結果、リラックスした状態で仕事に向き合えるようになります。

[B]の人の性格傾向と心理分析
慎重派の緊張タイプです。プライドが高く、自己防衛の傾向が高い人です。何かやる時にじっくり考え過ぎて、理想の方法が見つからないと行動を開始できないこともあります。1つの仕事に対して理想のやり方を考えるだけならばなんとかなりますが、複数の仕事を一度に抱えると、それぞれに理想の方法を考えてしまい、結局どれもスタートすることができません。結果、同僚の仕事のスピードに追いつけず、ますます焦り、仕事の成果が出せなくなります。慎重で誠実な人ですが損をしています。

対策
まず、A4用紙1枚にタスクシートを作ります。何を(what)、いつまでに(when)、何の目的で(why)、どのように……誰かの助けを借りるのかなどの方法(how)を書き込んでみましょう。全ての仕事を理想の方法でやろうと考えず、うまくできそうな仕事をまず片付けてみましょう。1つの仕事が終わることで気持ちがほぐれます。そこでティーブレイクでもして仕切り直し、次の課題である、やや難しい仕事に入ってみてください。私のセミナーでもよくこの方法をとりますが、一覧で見ることで頭が整理され、気が楽になります。

[C]の人の性格傾向と心理分析
あなたは「平均的な日本人」です。ソーシャルスキルズ(社会の人との関係性の中で仕事や生活をしていく能力と技法)も普通に備わっています。でも体調が悪かったり、仕事が多すぎたり、上司の評価が芳しくなかったりすると、どっと疲れが出て、次の仕事へのファイトが減ってしまうことがあります。その結果「発揮能力(または顕在能力)」が落ち、緊張が高まることによって失敗が続いてしまう場合もあります。でも「潜在能力」は落ちていませんから、安心して仕事に取り組んでください。

対策
“自分の人生の主人公は自分だ”というアルフレッド・アドラーの言葉を思い出しましょう。過緊張による被害妄想で、私だけ損をしていると思わないこと。自分が多くの人に期待されていることを思い出すこと。“自分の人生を暗くするのも明るくするのも自分次第だ”――アドラーのこの言葉を目につくところに貼って、常に思い返してください。寝る前には、特に悪いことを「棚上げ」にしましょう。難しいことや嫌なことは、消しゴムで消せるものではありません。バスタイムとストレッチで気分を変えて、寝てしまってください。“今日の苦しみは今日で足れり。明日のことは明日に考えさせよ”とは聖書の言葉です。

[D]の人の性格傾向と心理分析
疲れを知らず、気丈で能力が高い人です。アメリカの神経科医、フリードマンとローゼンマンが提唱した心理学では「Aタイプ」と呼ばれます。会社の創業者や、社内のリーダー、政治家の派閥のドンなどに多いタイプです。本人は気が強く、ストレスをあまり感じませんが、フリードマン達の臨床経験によると、突然大病をすることもあるので、精神と体の関係には注意を払う必要があります。

対策
優秀なので、どんどん仕事が集まってきます。やればやったで、人から高く評価されて収入も名声も高まります。部下もついてくるし、仲間からも尊敬されて頼りにされます。でも、そのハードな調子で仕事を続け、自分を見つめる時間を忘れてしまうと危険です。体と精神のストレスを意識せずに働き続けた結果、逃避反応の1つとしてうつ病になる可能性もあります。時には、人からの新しい頼みを断ることも覚えましょう。


 まとめ 

リラックスできないほど目の前の仕事のことを心配している[A]や[B]タイプの人なんて、とても誠実に思えます。しかしその成果は、頑張りに反してスピードが上がらず、仕事にも仲間にもプラスになっていません。周囲が「もっと肩の力を抜いてね」と声をかけてくれるでしょうが、その実、誰も大事な仕事を一緒に組もうとは思いません。こういう人と仕事をすると周りが大変な思いをするからです。

どんなタイプであれ、やはりアドラーの言葉、“自分の人生を暗くするのも明るくするのも自分次第だ”という通り、自分で状況をコントロールするしかないのです。私がお薦めするのは、できる仕事から手をつけること。そしてその仕事を自分でチェックして、ミスを自分で修正すること。自分の仕事を見つめ直し、自分で正しい方向を見出すことで、経験値が上がり、余裕をもって仕事に向き合えるようになります。その成功体験がゆとりを生み、さらにリラックスした状態を保てるようになり、仕事のよりよい成果に結びつくことになるのです。

佐藤綾子 パフォーマンス心理学 博士
常に女性の生き方を照らし、希望と悩みを共に分かち合って走る日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。日本大学芸術学部教授。「自分を伝える自己表現」をテーマにした単行本は180冊以上。新刊『30日間で生まれ変わる! アドラー流心のダイエット』(集英社刊)は9月4日発売。