アドラー心理学に基づく、職場の人間関係を円滑にする9回シリーズのシンプルレッスン。心理学者アルフレッド・アドラーが説いた【自信】【勇気】【リラックス】をベースに、パフォーマンス学の見地から「自分の表現法」を教授くださるのは、自己表現研究の第一人者、パフォーマンス心理学博士の佐藤綾子さんです。今回のレッスン6のテーマは【リラックス】。客観的に「自分」を見つめ直し、職場での最適なコミュニケーションの方法をお伝えします。是非トライしてみてください。

レッスンのヒント

このレッスンは【自信】【勇気】【リラックス】の各テーマごとに1レッスン、計3レッスンが1クールとなっており、3クール(合計で9レッスン)で構成されています。設問に沿ってセルフチェックした後、あなたの心理傾向を診断し、その対策をコーチしていきます。

仕事でいいパフォーマンスを発揮するために、まずは自己分析から始めましょう。その上で自分の個性を把握して、伝えたいことを効果的に表現できる術を身につけましょう。読者のみなさんが、自信をもって仕事に打ち込めるヒントを、佐藤綾子がお伝えします。

Lesson6.リラックス その2

回答は4パターン【A.いつもそうである】【B.ときどきそうである】【C.たまにそうである】【D.全く違う】があります。セルフチェックの後は心理分析と合わせ、その対策もご紹介。自己分析して、明日からのあなたを、さらに輝かせましょう。

回答にはそれぞれ点数があります。3回のレッスン(自信・勇気・リラックス各1回が1クール)の終了後に総評があるので、各レッスンの点数を控えておくと便利です。

 Q.相手との距離の取り方が分からなくて不安で緊張する

[A]いつも(1点)
[B]ときどき(2点)
[C]たまに(3点)
[D]全く違う(4点)

 

[A]の人の性格傾向と心理分析
あなたは「孤独タイプ」ですね。職場では上司や部下、同僚と距離を取りすぎたり、逆に近寄り過ぎて失敗したり、相手との心理的距離をどう取ってよいかが分からなくなり、結果、人間関係づくりや集団生活が苦手な人です。人付き合いをする上での失敗の多さが、あなたを緊張させています。

対策
職場の信頼できる人に、「ここだけの話だけど」と人間関係の悩みを相談して、相手も親身になって聞いて助言をしてくれた。それなのに、数日後にあなたの悩みは会社中に知れ渡っていた……。こんなことが1度でもあると、人間不信になり、相手との距離を取ろうとします。用心深いというより、相手が誰であれ信じられないという、一種の人間嫌いになることもあります。そうならないためには、心理療法のうちの論理療法が一番効果的です。

※論理療法(ABC理論)
1950年代半ば、アメリカの心理学者 アルバート・エリスが提唱した、論理的な思考パターンに着目した心理療法です。

 A(activating event=起きた出来事)
B(belief=判断基準)
C(consequence=結果)

 非論理的思考パターンの例 
A「私が打ち明けた悩みを、田中さんがバラした」
B「田中さんはひどい人だ、世の中の人はみんな田中さんと同じだろう」
C「だから私は人を信じない」

 論理的思考パターンへの転換 
A「私が打ち明けた悩みを、田中さんがバラした」
B「たまたま田中さんは口が軽い人だった、でも世の中の人がみんな田中さんと同じとは限らない」
C「田中さんとは付き合わないけれど、他の人を選んで付き合おう」

B(belief=判断基準)を明るいものに変えてみました。
こう解釈を変えると、結果は好転しますね。

1人の人との失敗があっても、他の全ての人に対しても失敗するとは限りません。これが「合理的考え方」です。相手との距離の取り方で失敗しても落ち込まないでくださいね。緊張し過ぎないで「次はどうやって人と向き合ったらいいかな?」と前向きに考えましょう。

[B]の人の性格傾向と心理分析
少々用心深過ぎるあなたです。そのために対人場面ではリラックスできず、顔がこわばってしまいます。知らない人に会う機会のほとんどで「相手は自分をどう思うかしら、近づき過ぎたら嫌われるかしら、距離を取り過ぎたらお高くとまっていると思われるかしら」と不安になりますね。その結果緊張して、かえって人間関係で傷つきやすいタイプです。

対策
「自意識過剰」という言葉をご存知ですか? 相手が会話にのってこなかったのは、自分の挨拶の仕方が悪かったのかしら、自分の返事の仕方が悪かったのかしら、と自分のことだけが気になるから、人との接し方がますますぎこちなくなります。相手はあなたのことを気にしていたのではなくて、忙しかったか、他の問題があったかのもしれません。そうやって自分の側に、非を持ち込む癖をやめましょう。
人と会うときにまずは明るい笑顔であいさつをしましょう。次の会話は、思想や経済などの込み入った話でなくて「暑いですね」でもいいのです。さりげない会話(スモールトーク)からどうぞ。名刺を交換した時に、ある地域に特別多い名前だったら出身地の話なども盛り上がります。相手と自分の間に共通の話題を見つけ橋をかける、「ブリッジング技法」という話し方です。話が少し転がりだすとリラックスできますよ。

[C]の人の性格傾向と心理分析
対人心理のバランスがよいタイプです。ほとんどの人と上手に距離を取れているあなたでも、「気難しい人だ」と前もってうわさを聞いている人と初めて会う場合は、距離の取りかたが不安になりますね。そして緊張します。既に顔見知りの相手でも、会った瞬間に不愉快そうな顔をされると、どう距離を取ればいいか分からなくなり、急に不安にもなりますが、それはごく一般的な受け取り方です。

対策
「失敗したらあなたのせいよ、成功したら私の功績」と言わんばかりの自己中心的な人が最近増えているようです。そんな人と話をしていると「私の人脈づくりのコツなどを話したら、この人はきっとすぐにマネるだろうな」と思い緊張しますね。こういう相手には遠慮は無用。さっと距離を置いてください。あなたは自分の知的財産や大切なものをちゃんと守る権利があります。自己防衛も必要です。
相手をよく見て、信頼性の薄い相手にはちゃんと距離を置く。そういうことを習慣にしてしまえば、特に緊張しないで、相手との距離調節ができます。「同じ職場だから全員仲良くしなくてはいけない」などと思うことをやめると、リラックスして過ごせます。

[D]の人の性格傾向と心理分析
お気楽さんタイプです。相手との距離をどう取るか、なんて全く気にならない。常に超リラックスで上機嫌な人。最近体調を崩したと聞いていたのに、その人に会ったら「あら、痩せたじゃない?」などと言ってしまいがちな人でもあります。自分の精神状態はタフで何ものにも傷つかない一方で、周りの人は頻繁にあなたの無神経な言動にチクチクと刺されている状態にあります。

対策
ストレスという言葉をご存知ですか? 一般的に心身に何らかのプレッシャーを与える刺激の一切を指します。このストレスには、心理学では有益な「ユーストレス」と、有害な「ディストレス」の2種類があります。言ってみれば善玉ストレスと悪玉ストレスです。程よく相手に気を遣い、人と会うのに、適度に緊張感を持っている方が相手との関係は失敗なく長続きします。親しき仲にも礼儀あり、などもそんな状態を示しています。
人には気を遣わな過ぎるのもダメなのだ、とちょっとだけ心に留めておいてください。知らぬうちに、周りをブスブスと刺さないために、です。


 まとめ 

いかがですか? 対人関係の中でのリラックスは、自分1人でいるときに素敵なアロマをたいてお気に入りのソファで寝そべるのと違って、心理的対人距離を程よく保っているという条件付きであることをお忘れなく。

「ヤマアラシ症候群」という人間関係の心理的距離がよく分かるルールがあります。寒いと言って近寄りすぎると、ヤマアラシはお互いの針で相手を傷つけます。でも、離れ過ぎたら寒い。集団生活は程よい心の距離を取ることでリラックスできるのですね。


佐藤綾子 パフォーマンス心理学 博士
常に女性の生き方を照らし、希望と悩みを共に分かち合って走る日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。日本大学芸術学部教授。「自分を伝える自己表現」をテーマにした単行本は180冊以上。近著に『非言語表現の威力 パフォーマンス学実践講義』がある。