職場の“あるある”な問題について、会社勤め女子代表・働なの代(どう・なのよ)が弁護士と一緒に考えるリーガル相談。連載第6回は“残業”について、法律的な観点から考えます。

[質問]わたしは営業の仕事をしています。最近になり退職者が続出したため、営業しなければいけない取引先が多くなってしまいました。接待なども含めると、仕事を終えるのがいつも終電ギリギリで、先月の残業時間は100時間を超えてしまいました。残業代は支給されてはいるのですが、実のところ業務のどこまでが“残業”とみなされているのでしょうか。

これって仕事なの? 仕事じゃないの? そんな線引きが曖昧な業務がたくさんあります。そんな ときこそ法律の出番です!

営業職は、接待をはじめ、定時内外で“やるべきこと”が多岐にわたり残業も増えがちですが、次のうち、残業時間と認められる可能性のあるものはどれでしょうか?

Q 認められる可能性のあるのは……

1. 会社の新年会や忘年会
2. 昼休み中の来客当番や電話番
3. 勤務時間外での健康診断
4. 出張先への往復

A 2. 昼休み中の来客当番や電話番

【解説】

【岩沙】「職場のあるある! リーガル相談」。アディーレ法律事務所弁護士の岩沙好幸です。今回は私の得意とする残業代についての法律問題ですね!

【なの代(以下、なの)】先生は、事務所で主に未払い残業代や不当解雇などを担当されているんですもんね!

【岩沙】そうなんです。実は残業代は、請求すればもらえるのに諦めてしまう方が多いんですよね。

【なの】今働いている会社に請求すると、その後居づらいですしね。

【岩沙】確かにそれはありますよね。退職するにしても円満に辞めたいという方も多いですから、請求しづらいのは分かります。でも、請求したら意外と簡単に出してくれちゃったというケースもあるんですよ!

【なの】え!? そういうこともあるんですか?

【岩沙】ありますよ! 残業代の請求は2年で時効になってしまうので、辞めてしまった方は急がないと残業代が請求できなくなってしまいます。

【なの】残業代の請求にも時効があるんですね。

【岩沙】そうなんです。辞めてから既に1年経つ人は、辞める直近の1年分しか請求できなくなってしまいます。在職中の方で月給制の方は、今月から遡って2年前の月の残業代までは請求できます。

【なの】早くしなきゃ! って気持ちになりますね。

【岩沙】悔いが残らないようにしたいですよね。

問われるのは業務遂行性

【なの】今回は、そんな残業代についての質問ですが、答えは……「2.昼休み中の来客当番や電話番」ですよね?

【岩沙】あれ? 分かったんですか?

【なの】いつも外れるんですけど、今回のは分かっちゃったんです! 確か連載第1回の『上司の「たばこ休憩」、許されるor許されない?』(http://woman.president.jp/articles/-/346)で先生が説明してくれました!

【岩沙】よく覚えていてくれましたね! 電話待ちのように仕事をしなければならなくなったら、すぐに仕事にとりかかれる状態で休んでいる時間は、法律では「休憩」ではないとされているんですね。

【なの】「手待時間(てまちじかん)」って言うんですよね!

【岩沙】 記憶力良いですね!

【なの】ふふふ。わたしも連載第6回なので法律の知識が少しずつ身についてきましたよ!

【岩沙】さすがです! 手待時間は労働時間とされているので、その分の時間のお給料は請求可能です。

【なの】「1.会社の新年会や忘年会」が残業代にならないというのは、まぁ分かるんですけど、会社によっては強制参加させるところもありますよね? これって残業代として認めてもらいたいんですけど~。

【岩沙】お、不満そうですね。

【なの】不満ですよ~。ひどい時は余興とかさせられるじゃないですか……。あれってもはや義務ですもん。

【岩沙】なんか過去にさせられたことがありそうですね? 何をしたんですか?

【なの】……それは置いておいて、そんな強制的な会でも残業代はもらえないんですか?

【岩沙】確かに全社員が参加するのであれば、忘年会には参加して当然という空気があるでしょうね。その会に参加しないと欠勤扱いにされる、給料を下げられるなどの業務遂行性があれば、残業時間として認めてもらえる可能性もあります。

【なの】結構特別な場合なんですね。

会社は健康診断を行なわなければならないが……

【なの】「3.勤務時間外での健康診断」が労働時間に当てはまらないとのことですが、勤務時間内の健康診断なら労働時間として見てもらえるんですか?

【岩沙】はい。労働時間として認められます。そうそう、健康診断には2種類あるって知ってました?

【なの】2種類……?

【岩沙】健康診断には「一般健康診断」と「特殊健康診断」があるんです。

【なの】どう違うんですか?

【岩沙】「一般健康診断」は、法律で事業者に実施を義務付けてはいますが、業務としては定められていないものです。なので、労働時間外に受診したのであれば、基本的にはその時間については、残業代を支払う必要はありません。多くの企業はこの一般健康診断だと思います。

【なの】じゃあ、きっと私が受診しているのも一般健康診断ですね。もう1つの特殊健康診断ってどういうものなんですか?

【岩沙】「特殊健康診断」は、事業を進める上で当然実施されなければならないものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とするものです。

【なの】例えば、どんな職種に多いんですか?

【岩沙】そうですねぇ、法律で定められた有機溶剤や鉛など特定の化学物質を作成したり、取り扱ったりする業務に従事している方などですね。

【なの】なるほど。体に害を及ぼす危険性のある業務に携わっている人ってことですね。

【岩沙】そうです。仕事によって健康を損なわせないよう、会社が配慮すべきですからね。特殊健康診断にかかる時間は労働時間とされるので、当然健康診断が時間外に行われた場合には、残業代として割増賃金を支払わなければならないんです。

【なの】確かに必要不可欠ですもんね。納得です。

勤め先の就業規則をチェック!

【なの】意外だったのが「4.出張先への往復」なんですけど、出張って交通の時間も含めて労働時間だと思っていました。

【岩沙】そうなんですよね。仕事で家から遠いところにわざわざ行かされているのに、交通の時間は労働時間ではないんですよ。

【なの】 でも、先生! 新幹線とか乗っている間にパソコンで仕事したりするじゃないですか。仕事してるんですから労働時間にならないんですか?

【岩沙】移動中に、上司から「これとこれをしておけ!」など指示されていれば、それは会社から指示された業務ということで労働時間として認めてもらえる場合もあります。

【なの】自発的に仕事するのは、「勝手にやったんでしょ」ってなるわけですね……。

【岩沙】残念ながら、そんな感じですねぇ。でも時間の有効活用ではありますね! あとは、車などで何かを運んで戻らなければいけない場合は、その「運ぶ」という行為が業務とみなされて、残業代が支払ってもらえることもあります。

【なの】うーん。出張でいつもより遠くに行ってるんだから払ってくれてもいいのに……。

【岩沙】会社の就業規則等で往復時間も労働時間としてみなしてくれる会社もあるようなので、是非ご自身の会社の就業規則をチェックしてみてください。

【なの】先生もよく出張があるみたいですね。弁護士が出張ってなんだか意外。

【岩沙】うちの事務所は全国に現在62拠点展開しているんですが、支店が無い場所ももちろんまだまだあって、そういったところに毎月弁護士が出張相談として行かせてもらっているんですよ!

【なの】え! 支店いっぱいあるのに、出張相談まであるんですか!?

【岩沙】もっと気軽に相談に来ていただいて、弁護士を身近に感じてもらいたいですからね!

【なの】先生、ちゃんと弁護士業務もしてたんですね。

【岩沙】どういう意味ですか!

【なの】いやぁ、なんか先生と話しているとあまり弁護士っていう感じがしなくて……。

【岩沙】なんか失礼な言い方ですけど、「身近」ということですかね?

【なの】きっとそうですよ(苦笑)。 先生、また次回もよろしくお願いします!

【回答者】岩沙好幸(いわさ・よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払い などのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』(http://ameblo.jp/yoshiyuki-iwasa/)も更新中。
【文・監修】アディーレ法律事務所(http://www.adire-roudou.jp/