アドラー心理学に基づく、職場の人間関係を円滑にする9回シリーズのシンプルレッスン。心理学者アルフレッド・アドラーが説いた【自信】【勇気】【リラックス】をベースに、パフォーマンス学の見地から「自分の表現法」を教授くださるのは、自己表現研究の第一人者、パフォーマンス心理学博士の佐藤綾子さんです。今回のレッスン5のテーマは【勇気】です。客観的に「自分」を見つめ直し、職場での最適なコミュニケーションの方法をお伝えします。是非トライしてみてください。

レッスンのヒント

このレッスンは【自信】【勇気】【リラックス】の各テーマごとに1レッスン、計3レッスンが1クールとなっており、3クール(合計で9レッスン)で構成されています。設問に沿ってセルフチェックした後、あなたの心理傾向を診断し、その対策をコーチしていきます。

仕事でいいパフォーマンスをするために、まずは自己分析から始めましょう。自分をコントロールして、周囲を味方につけるほうが、人間関係をこじらせるよりはるかにメリットがあります。

自分の見せ方・伝え方にスタイルがある人は、どんな困難もうまく切り抜けています。読者のみなさんが、自信をもって仕事に打ち込めるヒントを、佐藤綾子がお伝えします。

Lesson5.勇気 その2

回答は4パターン【A.いつもそうである】【B.ときどきそうである】【C.たまにそうである】【D.全く違う】があります。セルフチェックの後は心理分析と合わせ、その対策もご紹介。自己分析して、明日からのあなたを、さらに輝かせましょう。

回答にはそれぞれ点数があります。3回のレッスン(自信・勇気・リラックス各1回が1クール)の終了後に総評があるので、各レッスンの点数を控えておくと便利です。

 Q.上司に言いたいことがあっても、気を悪くされるのが怖くて言えない

[A]いつも(1点)
[B]ときどき(2点)
[C]たまに(3点)
[D]全く違う(4点)

 

[A]の人の性格傾向と心理分析
あなたは怖がり屋さんですね。アサーションテストで採点すると「I am not OK,You are OK. 」タイプ。つまり「非主張型」と分類される人です。両親に厳しすぎるしつけをされた人、以前上司にひどく叱られたのがトラウマになっている人などがこのタイプです。

アサーションテスト:自己主張力を【攻撃的な主張型/I am OK, You are not OK. 】【非主張型/I am not OK, You are OK. 】【アサーティブ/I am Ok, You are OK.】 の3タイプに分ける心理テスト。相手も自分も肯定できるアサーティブタイプが一番望ましい。

対策
誰でも、過去に全くしばられるな、と言われても無理ですね。辛いことや悲しいことほど、心に強く残ってつい思い出してしまいます。一度上司にこっぴどく叱られると、「できれば話したくない」と思うでしょう。でも、上司が部下のあなたを選ぶことはできても、部下のあなたが上司を選ぶことはまず無理です。 一度だけでいいので、1人の時に「どう思うかは相手の課題、言うべきことを言うのは私の課題」と口に出してください。これがアドラーの言う「課題の分離」です。「自分がこう言ったら相手がどう思うか」と、あなたの頭の中は常に発言する自分と悪い反応をするかもしれない相手、という2つの課題がごちゃまぜになっているので、それを分けて考えましょう、というわけです。自分の言いたいことは、しっかり言ってみてください。意外にもすっと通って自分で驚くことでしょう。その一度の経験があなたに勇気をくれます。

[B]の人の性格傾向と心理分析
ほとんど主張しない、言いたいことを言わないで我慢する場合が多いあなたですね。全くの非主張タイプではないけれど、「おとなしい人ね」と言われたり、穏やかだけど自分の主張がない、と言われたりする、大企業の中間管理職に多いタイプです。言いたいことが言えないことで、抑圧された自己表現欲求がマグマのように膨らんで、何かの時にワッと爆発する欲求不満の傾向があります。お酒の席で酔ったふりをして、上司の悪口をコテンパンに言うことも。意外と危険なタイプです。

対策
ため込まないで、こまめに主張をしていきましょう。いきなり大きな主張をするは、あなたには大変でしょうし、否定される確率も高くなります。小分けして言うのがお薦め。自分の心に主張できない思いをためすぎると、マグマのように大きな怒りに変身して、いつかプツンと切れる、あるいはウツ病などの形で噴火することもあり、対処が余計難しくなります。アドラーはこう言うのです。「人生は物理学じゃない、原因や理由を解明するよりも今と未来をどうするかに時間を使おう」と。今日言えなくても、明日上司の機嫌の良さそうな時に、小分けにしてハードルを下げて言ってみてください。

[C]の人の性格傾向と心理分析
日本人には一番多いタイプです。その意味ではご安心を。誰だって自分のストレスマネジメントから言えば、相手構わず主張できたら一番気楽です。でも、今後のことや周りへの影響を考えると、いつでも上司に言いたいことが言えるわけではありません。たまには言葉をぐっと心の中でかみしめて、発言しないこともある。エゴグラム心理テストをやると「大人、アダルト」に分類されるタイプ。あなたは、会社の中で頑張っているし、周りからもかわいがられていますね。

エゴグラム心理テスト:アメリカの精神科医バーンの提唱した交流分析理論に基づき、東京大学医学部心療内科TEG研究会により開発・作成された性格検査。人が持っている“5つの心”の強弱から性格特徴をみることができる。

対策
自分の絶対に譲れない価値観をいつも、しっかり据えておいてください。例えば「来月の新企画コンペでは主張の内容全部が認められなくても構わない、でも最低限、発言権だけはもらおう」という具合に。そうすると、何もかも我慢しているわけではないという自己正当化の理由ができて、まれに主張できなかった自分に対して「まあ、言いたいことが言えない時もあるのが会社勤めというものね」と割り切ることができます。たまに上司に遠慮するくらいのあなたは、どことなく奥ゆかしく見えて素敵ですよ。(でも内心で、絶対に譲れないことは決めておくのですよ)。

[D]の人の性格傾向と心理分析
なんでも言える自己主張の強いあなた。相手が上司だろうがお客様だろうが言うべきことは言います、というタイプ。一見強くて頼もしい存在ですが、集団の中ではあまりに主張が強すぎて知らない間に嫌われたり、不利な仕事に推薦されたりする人です。

対策
「江戸の敵(カタキ)を長崎で討つ」ということわざあります。上司は別のセクションの上司と横につながっていたりします。主張しすぎて思わぬ敵に足をすくわれないように、上司と意見が違う場合は「全体否定文」で言わないで「部分否定文」に変えてください。「おっしゃられたことはよく分かりました。すみませんでした。それでこの1つだけ聞いていただいていいですか」と言ってください。文章の前がイエスで後ろ半分が違う意見だから、それで、でなくてしかしだろうと思いますか? 文法的にはその通り。でも人間の心情において、特に上司は、あなたよりは優位な立場で支配欲求も強いことが多いのです。逆説の接続詞は反抗的に響きます。順接接続詞の「そして」でやんわり主張しましょう。


 まとめ 

【勇気】のレッスンはいかがでしたか?

鎌倉時代、吉田兼好によって書かれた「徒然草」には「物言わぬは、腹ふくるるわざ」という文章がでてきます。現代のパフォーマンス心理学でこれは「アンガーコントロール」の土台となる重要な考え方です。言いたいことがいっぱいあるのに我慢ばかりしていると、満たされなかった欲求がどんどん膨らんで欲求不満となり、いつかプツンと切れたり怒りが爆発するという理論です。

有能なあなたが、常に上司へのお願いごとや注文を控えていたら、会社にとって損失になる場合もあります。常に黙っていると「迎合型性格」と見なされて、周りから都合よく利用されることもあります。

上司も人間だ、話せば分かると、思い切って主張をしましょう。但し、相手の超忙しい時に些末な相談を持ち込んだり、一度説明したことをまた言いに行ったりすると嫌われますから、言い方はこの連載でしっかり学んでくださいね。

あなたもOK、私もOK。ともに貢献し合う言い方ができることが、会社という組織であなたが「共同体感覚」を味わって生き抜くコツだ、とアドラ-も言っていますよ。


佐藤綾子 パフォーマンス心理学 博士
常に女性の生き方を照らし、希望と悩みを共に分かち合って走る日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。日本大学芸術学部教授。「自分を伝える自己表現」をテーマにした単行本は180冊以上。近著に『非言語表現の威力 パフォーマンス学実践講義』がある。