壱番屋創業者秘書をはじめ、30年以上に渡りその道を究め、日本秘書協会の「ベストセクレタリー」にも選ばれた“プロ秘書”中村由美さんから、すべてのビジネスパーソンに通じる“秘書の素養”を教わります。

「お断り」は対外的にも対内的にも腕の見せ所

仕事をしていると、何かしら「お断り」しなければならない場面があります。「できません」「必要ありません」というひと言ですむ話ではありますが、プロの秘書はそんなときこそ誠意を尽くします。なぜなら、その企業や商品とは「いま」ご縁がないだけ。5年後、10年後のことまではわからないからです。未来にあるかもしれないご縁のために、今できる精一杯の誠意で応えるのがプロの秘書です。

断れる方もいい気がしない、断る方も気を遣う……、「断り方」って難しい。だからこそ、ちょっとした言い方の工夫で、あなたやあなたの属する組織の好感度を上げるチャンスなんです!

特に飛び込みの営業の方に関しては、せっかく来ていただいても、上司との時間がとれないことも多いでしょう。そもそものご提案が企業にとって今は必要のない商品やサービスであった場合は、ある程度取捨選択するのも秘書の仕事です。

「金融商品の営業で証券会社の方がいらしていますが、どうしますか」「絵画のカタログが届いていますが、いかがいたしましょうか」など、一度は上司に確認しますが、「今は投資の必要はないよ」「絵には興味がないんだよね」などということで断ってほしいという場合には、しばらくはそうした営業はお断りします。いちいちお伺いを立てて、上司の手を煩わせる必要はありません。

理由を伝えて「誰が来てもダメ」ときっぱり断る!

「断る」ときに大切なのは、「本当に今回はごめんなさい」という気持ちで「申し訳ありませんが……」と謝ること。そして、相手の提案が必要ないのであれば、「今日は時間がとれません」「外出しています」などと一時しのぎでごまかすのではなく、「本人が投資には興味がないと申しておりまして、どの営業の方もお断りさせていただいているんです」と、きっぱりお断りすることです。相手は営業するのが仕事なので、「今日はタイミングが悪かっただけで、可能性があるかもしれない」と感じてしまったら、何度でも足を運んでくださるでしょう。それはお互いの時間をムダにするだけで、どちらにとってもメリットがありません。

また、「あなただけを断っているのではありませんよ」と伝えることも重要です。自分の力不足で営業に失敗したと感じれば、少なからずショックを受けるでしょうが、「どんな人が来てもダメなんです」と言われれば、心も軽くなるというものです。

さらに、ご提案をお聞きする段階までは進んだものの、検討の結果「お断り」することもあります。そういう場合に大切なのは、できるだけ回答をお待たせしないこと。長々と待たせれば、相手も「これだけ時間をかけたのだから」と期待してしまいます。理由をきちんと説明して、納得していただく必要があります。理由が分かれば次なる提案の足がかりになるので、「無駄な労力だった」とは思われないはずです。

お互いに仕事とはいえ、相手も人間です。せっかくの提案を断られれば、マイナスの感情を抱くことがあって当然でしょう。しかし、そんな場面でこそ自分の時間を割き、相手に礼を尽くすことで、会社の良い印象を守ることができるのです。

 プロ秘書からのメッセージ 
ごまかさないではっきり断ったほうがいい

中村由美(なかむら・ゆみ)
コンサルタント会社の社長秘書を経た後、株式会社壱番屋に入社。創業者・宗次徳二氏をはじめ、3代の社長に仕える。日本秘書協会(元)理事、ベスト・セクレタリー、秘書技能指導者認定、サービス接遇指導者認定。カレーハウスCoCo壱番屋創業者(宗次夫妻)秘書。著書に『日本一のプロ秘書はなぜ「この気遣い」を大事にするのか』(プレジデント社刊)(http://presidentstore.jp/books/products/detail.php?product_id=1730)などがある。