目まぐるしいスピードで正解が変わっていく現在のビジネスシーン。このような変化の時代に求められるのは、「正解を知っていること」ではなく「考える力」。その力を起動させるのが「質問」です。「効果的な質問ができること」が、今、ビジネスパーソンに求められているのです。
私たちは常日頃、いろいろな人と共に仕事をしています。それゆえに「人が動いてくれない」というのは大問題となります。この連載では、人に動いてもらうための関わり方について、「質問」を切り口にご紹介していきます。

人が動いてくれない!

「あの人、ほんと言ったことしかやってくれないんだよね……」

「やってくれるだけマシなんじゃない? 言われていることすらやらない人もいるし」

皆さんの職場では、こんなため息が聞かれませんか? 仕事をしていく上で人と関わることは避けられません。私たちはいつも、上司や同僚、チームといった社内にいる人々だけでなく、時には顧客やビジネスパートナーなど社外の人たちとも関わりながら働いています。1人だけで完結するような単純作業は少なくなり、周囲の人々と話し合ったり連携したりしながら進める仕事が増えてきています。

「自分でもうちょっと考えて動いてよ……」、一緒に働く人の仕事ぶりを見て、そんな気持ちになったことはありませんか? そこには「動いてくれない」理由があるんです!

人と一緒に仕事をするときに最も困ること、それは人が動いてくれないということではないでしょうか。ここでいう「動く」というのは必ずしも指示命令の通りに行動するという意味ではありません。当人が積極的に、そして自分で考えながら問題や作業に取り組んでいる状態を指しています。

人が動かないと結局自分の作業量が増えて、ひたすら多忙な日々が続いてしまいます。たとえば、当人に割り振られた作業は終わっているけれども、全体感を持ってくれていないので食い違いが生じ、結局自分自身がフォローしなければならなくなる。もしくは、指示を出して業務を任せたにもかかわらず、当人のやる気がないためにいつまでたっても作業が進まない。そんな状況が繰り返されていませんか?

なぜこんな簡単なことがやってもらえないのか?

このように仕事が進まないだけならまだしも、逆に問題が発生して余計な手間がかかったり、仕事の進め方によってはチームや部署の雰囲気までも悪くしてしまったり。人が動かないという状況は単に仕事が進まないだけではなく、連鎖的にさまざまな問題を発生させてしまいます。こうした状況、皆さんはどうやって切り抜けていますか?

人が動かないという問題がとても難しいのは、解決のためにどのような策を取るべきかが見えにくいからです。指示命令をより明確に、厳密にしたら作業の手戻りはなくなるのでしょうか? インセンティブや叱咤激励でやる気を生み出すことができるのでしょうか? 北風と太陽の寓話のように接し方を変えてみたり、自分以外の人からそれとなく不満を伝えてもらったり。アプローチはいろいろありますが、人が動かない2つの理由を理解していないと、努力は徒労に終わるかもしれません。

たとえば、こんなやり取りに覚えはありませんか?

A「明日の打ち合わせで使う資料をお願いしてたけど、あれどうなった?」
B「はい、終わってます。こちらです。」
A「え、終わってるなら早く教えてよ。どれどれ……(あれ、なんか違う。このまんまじゃ先方には分かりにくいかも。結構細かい作業だし、いまからもう一度頼むのも時間が……)」
B「もういいですか?」
A「う、うん。もういいよ、ありがとう。あとはこっちでやっておくよ」
B「はい(あれ、なんかダメだったのかな。でもまぁいいか)
A「(これどれくらいかかるかな、30分くらいかな。次回頼むときはもっと細かく言わないとなぁ)」

いかがでしょう。ここでは何が問題なのでしょうか? 上司部下にしても同僚にしても、このようなすれ違いは何に起因しているのでしょうか?

大切なのは全体像の共有

人が動いてくれない理由は、「本当の問題の共有」と「動機づけ」、この2つができていないところにあります。今回は前者について注目したいと思います。本当の問題が共有できていないというのは、つまり相手と自分が本当に取り組むべき問題は何であるかについての理解が共有されていないということです。まったく違うものを見て作業を進めようとしている状態とも言い換えられます。

大事なのはメンバー間で自分たちがどんな問題に対してアプローチしようとしているのかが共有されていることです。各人が実際に行う業務は別々のものだとしても、その業務が何のために行われていて、どういう意味を持っているのかについて共有されていなければ、全体感の無い単なる「作業」になってしまいます。

共有するといっても、単に同じ情報を知っているというだけでは意味がありません。人は自分にとって意味がないと思う情報についてはすぐに忘れてしまいます。また、情報の前提となる諸条件などが共有されていないと意味を成さないので、情報だけを伝えてもあまり意味がありません。必要なのは、単なる情報の共有ではなく、その背景を含めた全体像を共有することです。

それでは、前述の例を使って「本当の問題を共有する」ことに挑戦してみましょう。先ほどは頼んでいた業務に若干の違和感を覚えて後処理を引き取ったAさんですが、自分で処理するのではなくBさんに戻そうと思い直しました。

「質問」とは人々を動きやすくするツール

(別室にて)

A「Bさん、さっきもらった資料なんだけど、実はちょっと思っていたものと違うんだ。だから、少し話をしてから手直しをしてもらいたいんだ」
B「分かりました。どこを直せばいいですか?」
A「その前に聞きたいことがるんだけど、いいかな? この資料、どういう想定で作ってた?」
B「明日の打ち合わせで使うからデータをまとめておいてって聞いていたので、まとめてみました」
A「まとめるってのは、データを一覧で見えるようにしたってこと?」
B「はい。そうすると見やすいかと思って」
A「なるほど。ところで、明日の打ち合わせ、誰が来るか知ってる? その人たちに、この資料で何を分かってもらえればいいと思う?」

今回のやり取りはいかがでしょうか? AさんはBさんに対して修正点を指摘するのではなく、Bさんがどういう認識で作業していたのかを聞いています。おそらく最後の質問の後、BさんはAさんが何を問題視しているかを把握することができたのではないでしょうか。

本当の問題を共有し、人々が動けるようになるためのツールとしておすすめしたいのが「質問」です。質問にはさまざまな力がありますが、今回注目したいのは、ロジカルシンキングラテラルシンキングという2つの視点から問題状況についての理解を整理し、互いの認識をすり合わせるように問いかけていくという方法です。次回はこのロジカルシンキングについて、第3回ではラテラルシンキングについて具体例を交えながらお伝えしたいと思います。

清宮 普美代(せいみや・ふみよ)

株式会社ラーニングデザインセンター代表取締役、日本アクションラーニング協会代表、OD Network Japan 理事、WIAL公認マスターALコーチ、青山学院大学経営学部 客員教授。
東京女子大学文理学部心理学科卒。毎日コミュニケーションズ(現:マイナビ)にて事業企画や人事調査などに責任者として携わった後、渡米。ジョージワシントン大学大学院人材開発学修士取得。マーコード教授の指導のもと、アクションラーニングの調査・研究を重ねる。帰国後、2003年株式会社ラーニングデザインセンターを設立。著書に、『質問会議』(PHP研究所)、『「チーム脳」のつくり方』(WAVE出版)、『対話流』(三省堂)、『20代で身につけたい質問力』(中経出版)。