この連載は、アドラー心理学に基づく、職場の人間関係を円滑にする9回シリーズのシンプルレッスンです。心理学者アルフレッド・アドラーが説いた【自信】【勇気】【リラックス】をベースに、パフォーマンス学の見地から「自分の表現法」を教授くださるのは、自己表現研究の第一人者、パフォーマンス心理学博士の佐藤綾子さんです。
2回目のレッスンは【勇気】。自分らしさを大切に、仕事で関わる人たちを味方にする「自分」の伝え方を身につけ、働き方・生き方をよりよいものにしたいもの。是非トライしてみてくださいね。

レッスンのはじめに――

このレッスンは【自信】【勇気】【リラックス】の各テーマごとに1レッスン、計3レッスンが1クールとなっており、3クール(合計で9レッスン)で構成されています。設問に沿ってセルフチェックした後、あなたの心理傾向を診断し、その対策をコーチしていきます。

仕事でいいパフォーマンスをするために、まず己をよく知って、自己分析から始めましょう。自分をコントロールして、みんなを味方にするほうが、人間関係をこじらせるよりはるかにメリットがあります。

自分の見せ方・伝え方にスタイルがある人は、どんな困難もうまく切り抜けています。読者のみなさんが自分のことを好きになり、自信をもって仕事に打ち込めるヒントを、私、佐藤綾子がお伝えします。

アドラーからの伝言

このレッスンは、あなたのキャリア実現のために、具体的な考え方、言い方、表情、行動など、アドラー心理学を軸に、パフォーマンス心理学を応用した心理テストで、実践的に体で覚えていただくのが目的です。

精神科医で心理学者であるアドラーは、次の言葉を残しました。【自信】【勇気】はもとより、【リラックス】している態度が自分にも人にもよい影響を与えます。

勇気があり、自信があり、リラックスしている人だけが、
人生の有利な面からだけでなく、困難からも益を受けることができる。
――アルフレッド・アドラー

では早速、アドラーの言葉を軸に【勇気】のレッスンスタートです!

Lesson2.“勇気”その1

【自信】【勇気】【リラックス】。これら3つの軸から、2回目となる今回は【勇気】をピックアップ。回答は4パターン【A.いつもそうである】【B.ときどきそうである】【C.たまにそうである】【D.全くそうではない】があります。セルフチェックの後は心理分析と合わせ、その対策もご紹介。自己分析できれば、明日からのあなたが、さらに輝けます。

回答にはそれぞれ点数があります。3回のレッスン(自信・勇気・リラックス各1回が1クール)の終了後総評があるので、各レッスンの点数を控えておくと便利です。

 Q.上司から新しい仕事を任されて気後れする

[A]いつも(1点)
[B]ときどき(2点)
[C]たまに(3点)
[D]全く違う(4点)

 

[A]の人の性格傾向と心理分析
新しいことに踏み切るのに、よく言う“ビビり”タイプです。心理学用語では「予期不安タイプ」または「期待不安タイプ」と言います。なんだか不安になるのを待っているようで変な言い方ですね。何もしないうちから、失敗するだろうという理由を数え上げ、不安が強くなる人たちです。それでは永遠にチャンスが逃げてしまいます。

対策
やってみないと成功か失敗かはわからないのに、やる前から「きっと失敗するだろう」と思う癖をまず直しましょう。考え方を「まず、1つでいいからやってみよう」に変えましょう。正直に「とても緊張していますけど、頑張りますので、宜しくお願いします」と頭を下げられたら一番スマートです。

[B]の人の性格傾向と心理分析
何かやる時に不安になりやすく、ときどき思い切れないことがあるタイプ。心理学用語でいう「予期不安タイプ」の予備軍的存在です。実は人間はもともと不安の種を探して不安になりたがるくらい、不安という感情と仲良しです。時によって不安になるのはあなたが普通の人であり、ちょっと気弱な傾向があるという証しです。

対策
失敗した自分の姿でなく、成功した自分の姿を思い浮かべてください。何か言う時の声をいつもよりワントーン高く大きな声にしてみましょう。さらに、姿勢を正して胸筋を空に向かって引き揚げ、大きな深呼吸を3回してみてください。人のいないところで「できる。できる。できる」と3回言うのもおすすめ。実際に「I can, I can, I can」と3回言わせるアメリカのセミナーを見学したこともあります。

[C]の人の性格傾向と心理分析
例えば、偉い人の前でプレゼンする時など、みんな緊張しますよね。いつもは勇気があっても、場面に応じて時々臆病になる。仕事で一番失敗しないタイプです。

対策
心理学的な視点からみれば環境適応がうまく、現実的で生産的なタイプです。今のままで大丈夫ですが、時間が1時間とれるならば、友達に協力してもらって人前でのパブリックスピーキングの特訓をおすすめします。私は、30年に及ぶ政界、財界の方々へのスピーチ指導の経験から、人がトレーニング次第でいくらでも雄弁になることを知っています。

[D]の人の性格傾向と心理分析
平時はもちろん、何か問題の起きた時のリーダーにピタリのタイプです。

対策
「石橋をたたかないで、エイッと渡る」性格ですが、それだけにイチかバチか賭けになる可能性もあります。ハイリスク・ハイリターンの仕事をする時は、よく人の意見を聞いてください。たまに弱いところを見せたほうが部下や同僚が安心して助力してくれることがありますよ。試してみてください。

いかがでしたか? アドラーは、“勇気”がある人が人生の困難がきても切り抜けられる人だと言います。あなたが、毎日の生活や仕事の中で自分にかける「また失敗した、ダメな私ねえ」という“勇気くじき”の言葉を「今の失敗は、すでに過去。今の瞬間からは全部、現在と未来よ」と、変えてください。言葉の力で気持ちを未来志向に切り替えるのです。パフォーマンス心理学で「インカンテーション効果」と呼びます。あなたが口に出した言葉をあなたの耳がもう一度聞く。それが言葉の呪術性です。

佐藤綾子 パフォーマンス心理学 博士
常に女性の生き方を照らし、希望と悩みを共に分かち合って走る日本カウンセリング学会認定スーパーバイザーカウンセラー。日本大学芸術学部教授。「自分を伝える自己表現」をテーマにした単行本は180冊以上。近著に『非言語表現の威力 パフォーマンス学実践講義』がある。