一族に学ぶリーダー学

ジェーンが創業者、エスティ・ローダーを祖母に持つことは【前編】で述べたとおりだが、その生い立ちはリーダーシップにも深く関わりを持っている。彼女がリーダーの鑑とするのは、祖母をはじめとするローダー一族。祖父や父など親族が同カンパニーの経営に携わっていたため、物心ついた頃からおのずと帝王学を学んできたのである。

親族から経営の帝王学を学んできたジェーン・ローダー。顧客や社員の声を傾聴する柔らかな印象の一方で、アグレッシブな一面も。

「経営者に囲まれた環境で育ったのは、私にとって幸運といえるでしょう。もちろん、社会人となってから出会った人たちにも、リーダーとしての理想像はたくさんあります。なかでも、尊敬してやまないのが、私の上司であるカンパニープレジデントのリン・グリーンです。彼女は私に“Cherish the past and invent the future”という言葉を教えてくれました。過去の礎を大切にしながら、未来を創造する。ビジネスのさまざまな場面で、この言葉を思い起こしています」

さらにもう1つ、ジェーンが仕事上の信念としているのが、祖母であるエスティ・ローダーの言葉だ。

“Never take no for an answer”
NOと断わられることを恐れてはいけない。

幼い頃から、そう教えられてきたのだという。

「どんなに頑張っても成功しないことはありますが、努力をしないで諦めたり逃げたりしていては進歩がありません。また、立ち向かった結果、解決法が見つけられたなら、それは成功体験となって、次の困難にも立ち向かうエネルギーになる。思い悩むこともありますが、そのときは人の話に耳を傾けるようにしています。立場も世代も異なる社員に会議に出てもらい、それぞれの意見を聞いていくと解決の糸口が見つかるということもあるのです」

「幸せの真実」8000人の女性のリアル

人の話に耳を傾ける、その姿勢の表れともいえるのが、ジェーンがプレジデント就任後に行なった「幸せの真実―The Truth About Happiness」という意識調査だ。対象は、日本を含めた世界15カ国の18歳以上の女性8000人。仕事・私生活・身体的審美意識の側面から、女性が見出す価値観と幸福感に関する多岐にわたる項目に迫ったもので、エモーショナル・コネクションのベースとなるユニークな調査である。

この調査で、日本が他国と比べて、ポイントに大きく差が出た2つの結果を紹介しよう

Q1.“あらゆる望みを叶えようとする”ことは、多くのプレッシャーを伴う――

この問いに賛同した女性は世界平均で63%にのぼった。アメリカやイギリスでは77%と高く、中国、韓国も約70%と、米英に次いで高い数値となっている。これに対し日本は25%。プレッシャーを厭わず、思うままに望みを手に入れることが幸せだ、と柔軟に生きる日本女性の横顔が見える結果だ。

Q2.“私は美しい”と思うか――

この問いで「YES」と答えた女性は、世界平均68%。もっとも自己肯定感が高かったのはアラブ首長国連邦の91%、次いで中国73%、韓国58%と続く。そして日本はなんと、18%で最下位。謙遜が美徳の国とはいえ、自身の美に対して否定的な結果となった。

「私たちの役割は、女性に内在する美しさを引き出すこと。その美しさが自信や自己尊厳に繋がると考えています。日本の女性は、私の目から見てとても美しい。もっと自信を持っていいと思います。もしかすると、日本女性の自己評価が低かったのは、美に対して貪欲で上昇志向が強いからかもしれません。クリニーク製品に対するフィードバックでも、日本女性からは厳しい意見が挙がりますから」

アクティブな毎日が美しさを磨く

前述のとおり、多忙な毎日を送る現代女性の美しさ、幸せに関する価値観は、同じアジア圏でも差異がみられ興味深い結果となった。ジェーン自身は美しさをどうとらえているのだろう。

「たとえ年齢を重ねても、美しくありたいと思う気持ち。その気持ちの持ちようがとても大切だと思います。また心身ともに健康であることも、美の追求には欠かせません。私自身、世界各国を飛び回る生活ですが、ヨガやランで体を動かすことを日課にしています。

内面からの美しさを引き出すには、打ち込める何かを持つことも必要でしょう。自分にとって興味のあることならどんなことでもいいのです。アクティブに生活している人は、いつまでも気持ちが若く、元気ですから。

私の場合、それに当たるのが仕事。どんなに忙しくても、仕事をしていると、逆にエネルギーが充電されていくから不思議です(笑)」

このインタビューが行なわれたのは朝8時。前夜遅い時間に中国・上海から着き、わずか半日の滞在で日本を発つというハードスケジュールながら、ジェーンに疲れの色はまるでなかった。

打ち込めるものを見つけることで、女性はさらに美しく輝ける――。彼女の生き生きとした表情がなによりの証拠だろう。(文中敬称略)


ジェーン・ローダーさんのお気に入り

 ■感銘を受けた本  『Etched in Sand』Regina Calcaterra著(William Morrow Paperbacks)
……N.Y.では読書会に行くことも。そこで出会った本です。

 ■モチベーションをあげるもの 甘いもの(笑)
……疲れているときに元気がでます!

 ■癒すもの マッサージ

 ■お気に入りのおやつ KIND
……ナッツ入りのバー。ミネラルも含まれているので、いつもバッグに入れています。飛行機移動は時差があるし、食事ができなかった場合や空腹時もKINDを食べているんですよ。