ソーシャルを駆使し、繋がるマーケティング
ニューヨークに拠点を置くエスティ ローダー カンパニーズは、1946年に創業した世界有数の化粧品メーカーだ。メインブランドの「エスティ ローダー」をはじめ、「アラミス」「ボビイ ブラウン」「M・A・C」など数多くのメジャーな化粧品ブランドを持ち、150を超える国と地域で展開している。
このビッグカンパニーで最大規模を誇るブランドが「クリニーク」である。1968年の誕生以来、皮膚科医のアドバイスをもとに、アレルギーテストの徹底と100%無香料で生み出される製品は、日本でも多くの女性に支持されている。
ジェーン・ローダーは、2014年4月、このクリニークのグローバル ブランド プレジデントに就任した。名前から察せられる通り、彼女は創業者、エスティ・ローダーの孫娘。スタンフォード大学を卒業後、広告代理店を経てエスティ ローダー カンパニーズに入社してからすでに17年のキャリアを重ねている。
ナチュラル化粧品ブランド「オリジンズ」を世界規模で躍進させ、「クリニーク」でもマーケティングにさまざまな施策を導入するなど、その手腕は社内外で高く評価されているのである。社長に就任して1年余。今、どのような手応えを感じているのだろうか。
「私のキャリアの中で、クリニークというブランドに関わるのは、実は今度で3回目。15年前に初めてクリニークを担当したときに比べると、情報の伝わり方に大きな変化を感じます。以前であれば、販売店の美容部員に話を聞いたり、雑誌から情報を得ていたのですが、今はウェブサイトやソーシャルネットワークなどに化粧品に関する膨大な情報が流れています。その中で、クリニークの価値をどのように伝えていけばいいのか。このことに、深く向き合った1年でした」
心の結びつきで共有するもの
こうした時代の変化を受け、現在、ジェーンが力を注いでいるのが、エモーショナル・コネクション――顧客との“心の結びつき”だ。
「たくさんのブランドの中からクリニークを選んでもらうには、商品の良さを伝えるだけでなく、心に響くコミュニケーションが必要になります。グループ全体の経営理念は、“Bringing the best to everyone we touch(ふれあう一人ひとりに最高のものを)”です。たとえお買い求めにならなくても、店に足を運んでくださった方すべてに楽しい気持ちで帰っていただく。まさにこれはエモーショナル・コネクションです。
また、現代の女性が本当に求めているものを探って、それに応えていける製品を開発することも心の結びつきに繋がると考えています。たとえば、仕事や家事・育児などで忙しいと、疲れから肌がくすみやすくなります。鏡に映った自分の顔がどんよりとしていたら、テンションが下がり、仕事や生活にもよい影響は与えないでしょう。そのために、私たちは『ターンアラウンド』という新シリーズを開発しました。このシリーズは疲れによる肌のくすみをカバーすることができます。鏡を見たときに肌が生き生きしていれば、ハッピーになってよい結果を生み出せるのです」
そう話す彼女自身、ハードワークをこなす女性としての実体験が製品開発に生かせるのは、まさに強味といえるだろう。
同時に、ジェーンは社長として、また創業者一族の3代目として、クリニークというグローバルブランドを牽引していく立場にある。リーダーシップは人それぞれに舵の取り方があるが、彼女はどのように考えているのだろう。
「リーダーに必要なのは、全員が理解できるようビジネスのゴールを明確にすること。その上で、一緒に考えたり、鼓舞したり、解決のヒントを与えたり。みんなが1つの方向に向かえるようにと、いつも心を配っています。これもエモーショナル・コネクションのひとつと言えます。
社内では“Leadership from every chair”という考え方が啓発されています。どのような立場の社員であれ、一人ひとりが自分の担当業務に対して主体的に取り組み、経営に対する当事者意識をもって仕事に臨んでほしいと考えているのです」
各人の鍛錬が、組織をより強固なものにしていく。ジェーンのフレッシュでアグレッシブな手腕によって、クリニークはどんな形で “心の繋がり”を見せてくれるのだろうか。今後の展開が楽しみだ。(文中敬称略)
※後編【意外な美の自意識格差。「幸せの真実」8000人のリアル】は6/10の配信予定です。