霞が関といえば、長時間労働の代表格。しかし、3割に達する20代の女性職員たちが子育て期に入るこれからは、限界が見えている。そこで、霞が関で働く女性有志たちが立ち上がった!
「20代は終電までに帰れたら、調子がいいなという感じでした。入省したときの厚生労働省の同期の女性は4人。しかし優秀な女性たちなのに、仕事と子育ての両立の困難に、泣く泣く辞めていった。今残っているのは私ひとりです」
こう語るのは「霞が関的働き方改革」のための10の提言をした「霞が関で働く女性有志」のひとり、厚生労働省の河村のり子さん(39歳 入省16年目)だ。自身も、同期がみんな辞めていった28歳のときは、「海の底にいるような気分だった。こんなところで本当に自分は子どもを持てるんだろうか?」と、仕事がのりにのってくるはずの時期に辞めようと思ったこともある。
そして今、母親となり、仕事は「6時半に強制終了」をかけている状態だ。
「6時半に帰らないと家庭が回らない。両親は日常的には頼れず、夫がイクメンなのでなんとか回せていますが、夫婦ともに辛い状態です。夫も私も仕事に没頭できる同僚に比べればキャリアを犠牲にしているし、仕事も家庭も中途半端で、不安でいっぱいです」
今回の提言にあたって上級職の女性123人にアンケートをとったところ、「女性官僚の100%が子育てと仕事の両立に不安」「強い困難を感じる」という結果がでた。
「夜出ないと普通に働き続けられない長時間労働」「配慮してくれる周囲に対して心苦しい」「マミートラックに入って目指す仕事を達成できない」
「私だけではない」という思いに突き動かされ、「これから3割を超える後進の女性のためにも、今やらないとダメだ」と河村さんたちはアンケートを基に課題を洗い出し提言をまとめる。見えてきたのは「霞が関的働き方」をそのままに、「子育て期の女性だけに配慮すること」への限界だ。
「子どもがいない女性職員の場合、約半数は月60時間以上の残業で、霞が関の仕事は恒常的な長時間残業が前提なのです。末子が3歳以下の場合は、半数以上が月20時間未満の残業と配慮されています。ところが、末の子が4歳以上になると月40時間以上の残業を行っている女性職員が約7割と元に戻っていきます」
今は女性職員が少ないから何とか回っているが、3割に達する20代の女性職員が子育て期に入ると限界がある。
「人手不足は見えている。持続可能な働き方ではない。でも黙っていても誰も変えてくれないんです。だから今私たちがやるしかない」
河村さんも民間のワーキングマザーのように「業務を圧縮する」効率的な働き方をしているが、それだけで終われない「霞が関特有」の問題がある。
「アンケートでも業務量そのものより、時間外対応の働き方に問題があると答えた人が多かったんです。しかし夜7時から9時までは解放してもらわないと、子どもは待ったなしです」
一番の問題は国会質疑対応業務だ。一般的な大臣答弁を作成・調整する所要時間は8~9時間。前日の18時までに質疑要旨通告がなされると、徹夜の作業は必須となる。「前々日の18時」までに出してもらえば、翌朝から日中で対応できる。小さな子どもがいる、介護をしているなど時間制約がある職員でも、この業務に対応できる。ちなみに海外では「質問通告は3日前(英)、前週の金曜日まで(独)」となっている。海外の省庁に派遣されると「午後7時にはガランとする役所」に、日本の役人は誰もが驚くという。
しかし、国会をも巻き込むこの提言は、かなり勇気のいるものだ。縦社会の強い官僚組織の中で、なぜこのような提言ができたのだろうか?
「まず村木厚子次官に相談に行きました。そうしたら『やってみなさい。応援するから』と。それから小渕優子さんのところに行くときも、母親のようについてきてくださった」
小渕さんもすぐに「やりましょう」と自民党幹部や内閣人事局長に話をしてくれ、今や自民党議員のほとんどが「前々日」の締め切りを守ってくれているという。女性たちの声に国会が耳を傾けたのだ。
「こんなに大ごとになるとは思ってもいなかったのですが、公になると多くの、特に子育て世代の男性が応援してくれた。時代の風が吹いていることを感じます」