企業の活動結果は必ず数字に表れるもの。決算情報を題材に、数字を読み解き、活用する力、“会計リテラシー”を身につけて、仕事力&投資力を 高めよう!

勝ち筋を見極めるには会計リテラシー!

「会社のイメージとその実態にはギャップがある」

公認会計士として数多くの会社の決算書をチェックしていくうちに、私はそのことに気づきました。

上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ執筆した『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』秦 美佐子著 プレジデント社刊

薄利だと思われている会社が実はぼろ儲けであったり、保守的だと思われている会社が実は挑戦的であったりします。素晴らしい業績を上げているのに世間から注目されていない会社があれば、業績がそれほど良くないのに世間から高く評価されている会社もあります。

一般的に、知名度の高い会社はそれだけ株式を買われる機会が増えますので、株価が高くなりがちです。ところが、その経営状況は必ずしもいいとは限りません。会社のイメージに惑わされて投資をして、思わぬ損失を被った投資家は少なくありません。その投資家に足りなかったのは、会社の実態を見抜く力です。

逆に、過小評価されている会社をいち早く見つけて、投資をして利益を上げる投資家もいます。そうした投資家は共通して会社の決算情報を読み解くことができ、それをもとに会社の実力を見極めることができます。総じて会計リテラシーを持っているのです。

決算情報を読み、それを活用できる力を会計リテラシーといいます。会計リテラシーがあれば投資や仕事で望む結果を出すことができます。実際に、株式投資で巨万の富を得たウォーレン・バフェットは投資意思決定をする際には、必ず会社のアニュアル・レポートを熟読するのだそうです。

アニュアル・レポートとは年次事業報告書のことで、会社の決算情報やそれを裏付ける業績背景、事業の内容等が記載されています。

日本でアニュアル・レポートに相当するのが有価証券報告書です。上場企業であれば必ず有価証券報告書を作成し、開示しなければなりません。そして誰でもインターネットで簡単に閲覧することができます。

この連載では、有価証券報告書を中心とする会社の決算情報の読み方をお伝えすることで、皆さんの会計リテラシーを高めることを目標としています。数字に対する苦手意識が薄れ、気軽に決算情報に慣れ親しんでいただけけるようになれば嬉しいです。

日本一の売上高を誇る会社といえば、トヨタ自動車。連載第1回は、その売上について分析していきます。

割り算で世界一企業の売上をつかむ

2015年5月8日に開示された決算短信によれば、トヨタ自動車の2015年3月期におけるグループ全体の連結売上高は27兆円。毎月平均して実に2兆円以上もの売上を計上していることとなります。

これだけ巨額だとイメージが湧きづらいもの。感覚としてとらえるうえで欠かせないのが割り算です。ここで売上を分解します。売上は、客数×客単価によって計算されます。トヨタ自動車の場合、客数を自動車の販売台数、客単価を販売単価と置き換えることができます。

2015年3月期の販売実績によれば、販売台数は897万1864台。大枠が掴めればいいので、ここでは900万台とします。27兆円の売上高には自動車売上の他に金融事業の売上もありますが、自動車売上が全体の9割以上を占めるので、簡便に27兆円を全て自動車の売上とします。売上高27兆円÷販売台数900万台で、平均販売単価が300万円と求まりました。

ざっくりいえば、トヨタ自動車では年間900万台の車を300万円で売って、27兆円の売上を得ていることとなります。

以上のように27兆円という巨額な売上でも、販売台数と販売単価に分解すると理解しやすくなります。細かな数字まで覚えなくても、キリのいい数字で大枠を捉えられれば十分です。

決算短信のセグメント情報でわかる世界進出

売上について、もう少し分解してみましょう。

300万円の車を年間900万台も売ることは並大抵ではありません。実はトヨタ自動車の販売台数は3年連続で世界1位を誇っています。これだけの台数をいかにして売っているのでしょうか。

決算短信のセグメント情報には、会社の所在地別売上が開示されています。それによればトヨタ自動車の海外売上はなんと全体の77.6%。日本での売上は22.4%に過ぎません。ざっくりいえば、トヨタのお客さんは5人中4人が海外にいて、日本にいるのはたった1人なのです。

所在地別売上「その他」は中南米、オセアニア、アフリカ、中近東。(出典「トヨタ自動車株式会社 2015年3月期決算要旨」を元に作図)

所在地別売上の地域とその販売割合を示したのが次のグラフです。

一番の得意先は北米だと読み取れます。経済界が政治家にアメリカとの関係をよくしようと働きかけるのも頷けます。

巨額な売上を達成するうえでは、グローバル展開が欠かせません。日本だけで商売をしても限界があります。トヨタ自動車のケースからもわかるように、会社の将来性を見るうえでも世界進出は1つのキーポイントとなるのです。

以上、今回はトヨタ自動車の売上について分析してきました。

分析のもととなった決算短信は、有価証券報告書に先駆けて開示されるもので、タイムリーな報告が趣旨となっています。有価証券報告書にはより詳細な情報が記載されますので、また今後ご紹介できればと思います。

次回はトヨタ自動車の売上をもとに、為替と株価の関係についてもみていきたいと思います。どうぞ楽しみにしていてください。

秦美佐子(はた・みさこ)
公認会計士
早稲田大学政治経済学部卒業。大学在学中に公認会計士試験に合格し、優成監査法人勤務を経て独立。在職中に製造業、サービス業、小売業、不動産業等、さまざまな業種の会社の監査に従事する。上場準備企業や倒産企業の監査を通して、飛び交う情報に翻弄されずに会社の実力を見極めるためには有価証券報告書の読解が必要不可欠だと感じ、独立後に『「本当にいい会社」が一目でわかる有価証券報告書の読み方』(プレジデント社)を執筆。現在は会計コンサルのかたわら講演や執筆も行っている。他の著書に『ディズニー魔法の会計』(中経出版)などがある。