■編集部より指令

経済広報センターが今年始めに行った調査(「女性の活躍推進に関する意識調査」)によると、男性の育児休暇取得について、92%が賛成と回答。

一方、実際に育児休暇を取得した男性はたったの1.89%(2012年)で、この5年間ほぼ横ばい。そのうえ取得期間が短く、「1カ月未満」が8割を占めています。

政府は「2020年までに13%」の目標を掲げていますが、なぜ、男性の育休取得は進みにくいのでしょうか。

■佐藤留美さんの回答

男の育休「賛成9割、取得2%」の理由
http://president.jp/articles/-/13130

■大宮冬洋さんの回答

キャリアにとってブランク

お言葉を返すようですけれど、男性が育休を取得する必要はないと僕は思います。20代はがむしゃらに働くべきだし、30代は腰を据えて専門分野に取り組む時期だし、40代は後進の育成にも力を尽くすことが求められますよね。週休2日と盆暮れで休めば十分です。

育児は骨休みではなく立派な仕事だという意見もあるでしょうが、社会で取り組んでいる仕事とは別物ですよね。育児中の会社員は時間管理に長けて集中力があるとは思いますが、「子育てで得た柔軟な考え方が商品開発に役立った」などというエピソードは寝言に過ぎません。育休はキャリアとしては明らかなブランクです。

男性と同じようにバリバリ働く女性にも育休取得を推奨すべきではないと思います。育休から職場復帰したけれど仕事への意欲が減ってしまった女性を何人か知っていますが、話を聞くと「復帰後の冷遇」などが主因ではありません。むしろ、本人が「仕事はほどほどでいい」という気が抜けた状態になっているのです。

仕事の勘や技能は1日でも休むと鈍ってしまいますよね。1週間も働かないと取り戻すのが大変です。育休で数週間、数カ月も仕事から離れたら、職場復帰がおっくうを通り越して怖くなるのは当たり前でしょう。で、いつまで経ってもエンジンがかからない人もいます。

幸せ日本一!福井県にヒントがある

では、共働きの子持ち夫婦はどうすればいいのか。親だけで子育てすることをあきらめればいいだけです。具体的には自分たちの親世代の手を借りること。

先日、プレジデント誌8月18日号で「福井県サラリーマンは幸せ日本一か?」と題して3組の家庭の様子を福井県で取材しました。「幸せ日本一」の主要素は三世代同居にあるようです。働き盛りの若夫婦に代わって祖父母が子育ての主体になっており、三世代が支え合って暮らしている姿に懐かしさと正しさを覚えました。

たまに会う孫を猫かわいがりする人たちと違って、同居している祖父母は責任感を持って自然と孫に接しているのが印象的でした。このような家庭で育った「おじいちゃん子」たちは、大人との接し方をきちんと身に着けており、情緒が安定しているように感じます。専業主婦や育休中の親がベッタリと密着する育児よりも、複数の大人が関わるほうが子どものために良いのだと確信しました。

以上、自称・仕事人間の37歳男性の意見です。会社などで口にしたら総スカンを受けそうですが、「そりゃそうだよね。男が育休なんて取るべきじゃないよ」と共感する中年男性は多いのではないでしょうか。

仕事中心の価値観で言えば、僕の意見はごく普通なのだと思います。育休でたっぷりと子どもに向き合う時間は、キャリアにとってはマイナスでしかない。

政府が推奨すべきことではない

しかし、仕事だけが人生ではありません。

一度きりの人生を自分なりに味わい尽くすためには、育休に限らず無職の時期を経験することは無駄ではないとも思います。組織や肩書を離れた自分がいかに小さくて、心もとない存在であるかを痛感する人もいるでしょう。我が子のかわいさと成長に強く感動し、価値観が変わってしまう人もいますよね。それはそれでとってもユニークな体験です。

ただし、政府が一般の男性に広く推奨すべき選択肢ではありません。転職や起業を勧める必要はないのと同じです。

男性の育休取得率が1.89%であるからこそ、「あいつは変わっている」という存在感を出すことができるのです。1年ぐらいのブランクはすぐに挽回できる自信がある男性もいれば、仕事より育児のほうが面白いし大事だと感じる男性もいるでしょう。いずれにせよ育休男性たちは少数派であるのが健全だし、彼らは職場で浮くぐらいの覚悟はしていますよ。むしろ望むところなのです。「2020年までに13%」なんて大きなお世話だと思います。

大宮冬洋
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)などがある。
実験くんの食生活ブログ http://syokulife.exblog.jp/