■編集部より指令

東京都議会で女性議員の一般質問中に出た、「早く結婚しろ」などの野次が問題になっています。欧米のメディアからも批判が続出するなか、多くのオジサマ方は「こんなに問題化されるとは……」と回答。職場でもセクハラ発言は聞かれますが、なぜオジサマたちはこんなに無神経なのでしょうか。

■佐藤留美さんの回答

なぜ、オジサンは「セクハラ野次」を飛ばしてしまうのか -男社会のトリセツV・女の言い分
http://president.jp/articles/-/12944

■大宮冬洋さんの回答

「女は別の生き物」とみなしてしまう

誤解がないように申し上げておきますが、僕は今回のセクハラ野次に反対です。答弁と関係のない個人攻撃で、なおかつ差別発言。思慮がなさ過ぎます。野次る相手が女性ではなく、外国人や身体障害者だったりしても同じようなレベルの個人攻撃をするのでしょうか。さすがにやらないですよね。若くて元気な日本人女性が相手だから、「これぐらい許される」と思ったのでしょう。許されるわけないのに……。

セクハラ野次に弁解の余地はまったくありません。でも、解説の余地ならありそうです。なぜオジサマたちはこんなに無神経かつ無芸なのか。どう対処すればいいのか。僕も37歳の「オジサマ」なので、野次をしたバカ議員の心理が悲しいことにわかってしまいます。

僕は女性と接するとき、真っ先に「女性である」ことを意識します。相手の主義や性格、職業、特技、趣味などは二の次以下です。昭和生まれという世代のせいかもしれないし、男兄弟だけで育った生活環境が影響しているのかもしれません。とにかく「女は別の生き物」なのです。

例えが良くないかもしれませんが、肌の色が違う外国の人を紹介されたときと感覚はほぼ同じ。「あ、ガイジンさんだ……。日本語は通じるのかな? 何を話題にすればいいんだろう。とりあえずWhere are you from?と聞いておこう」ですね。たいていは一時的な国際交流で終わってしまい、国籍や民族を超えて仲良くなることはまれです。相手が流暢な日本語を扱い、こちらにも興味があって、なんとなく気が合う、という好条件に恵まれても、本当に人間同士として素直な言葉を交わせるのにはあまり日を置かずに3回ぐらいは会食しなければなりません。

先入観を持たずに接するとはどういうことか

ここまで書いていて気づきました。在日外国人の人に「どこから来たの?」とか「納豆は食べられる?」と質問するのと、女性に「彼氏はいるの?」「結婚してる?」「子どもは?」と聞くのは似たような乏しい発想から出ているんですね。相手を自分と同じ人間だとは見なしていないのです。

先日、ある立食パーティーの場でスリランカ出身の若い学者と話す機会がありました。日本に長く住んでいるとのこと。比較文化論が専門だというので、「日本とスリランカの比較ですか?」と何気なく質問したら、「それだけとは限りません。どんな先入観があるのかはわかりませんが、私はスリランカの専門家ではありません」ときっぱりと返されてしまいました。

先入観があると指摘されて僕はムッとしました。同時に、「ならば思い切り腹を割ってやろう」と決めました。今度は彼が僕の仕事内容を聞いてきたので、「ビジネス系のライターです」と当たり障りのない話をするのではなく、そのときに書いたばかりのコラムのタイトル「かなわぬ恋や苦しい別れでも、人生の宝物には違いない」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/toyoomiya/20131207-00030444/)と趣旨を語って聞かせました。

口にするのは気恥ずかしいタイトルで、その場が凍ってしまう危険性もあります。でも、僕のせいではありません。「先入観を持つな。一人の人間としてオレを見ろ」と先に主張したのは彼のほうなんですからね。

セクハラ上司の対処法

僕が話し終わるまで、彼はじっと聞いていました。そして、何度もうなずきながら「とてもいい話ですね。『人生の宝物には違いない』という表現に惹かれました」と率直に共感を示してくれました。

あの一瞬、僕と彼は人間同士の交流ができたのだと思います。少なくとも「そんな寒いタイトルの文章を書いちゃって」と冷やかしてくるような人よりは、彼のほうが人として近いような気がするのです。

セクハラおじさんにも同じような対処が有効だと思います。仕事上などでどうしても付き合わなくてはいけない上司などの場合は、周りに人がいないときを見計らって、「結婚しているかどうかだけで私を見ないでください。私はこの仕事が本当に好きなんです」とストレートにぶつかってみてはいかがでしょうか。「おお、こわい~」なんてはぐらかすダメ上司ならば見限って、異動のときまで我慢するか、組合や役員に裏で手を回して彼を異動させましょう。でも、仕事人間の上司は意外なほど真顔で受け止めてくれると僕は思います。

排除や差別は男女の間だけではありません。細かく見ていけば、すべての個人間に存在する壁なのだと思います。その壁を乗り越えるためには、より強い危機感と動機を持っているほうがリスクを背負い、先に「腹を割る」ことが不可欠なのです。

大宮冬洋
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)などがある。
実験くんの食生活ブログ http://syokulife.exblog.jp/