■編集部より指令

男社会の暗黙のルール。誰かに教えてもらえるものじゃないだけに、知らずに地雷を踏んだり、仕事が空回りしたり、主張が通らなかったりと悩んでいる女性も多いと思います。女性が知っておいた方が良いルールにはどんなものがあるのでしょうか。

■大宮冬洋さんの回答

女が知らない「会社のルール」 -男社会のトリセツIV・男の言い分
http://president.jp/articles/-/12779

■佐藤留美さんの回答

「現象」で語る女性

いや~、昨日の大宮さんの回答には戦慄が走りましたね。

タテ社会が基本の男性文化では、「○○さん」ではなく、「○○課長」とか役職付きで呼ばないとダメだとは。

私は、今回は、ある大手企業で事業部長にまで出世した女性から聞いた「男社会のルール」を紹介したいと思います。

彼女は私に、男と女の“共通言語”が違うこと、そして女が男社会でキャリアアップしていくためには、「男語」をマスターしなければいけないと、教えてくれました。

これはあくまで一般論ですが、彼女によると、女性は往々にして「現象」で物事を語る、と言います。

たとえば、ダイバーシティ推進室長が女性だった場合の喋り方は、こんな感じの場合が多いそうです。

「わが社には、育休を取った女性社員が、最近では結構多く戻ってくるようになりました」

ここで聴衆が、「へぇ」とか「そうだよね」などと反応すると、「ええ、復職者が凄く、増えてるんですよー。最近では年間100人はいますねー」と続ける。

そして、「たとえば、経理部の○○さんっていう子は去年、3人目を産んで、この間、3回目の復帰をしたんですよー。両立支援制度を充実させた成果だと思います」と具体例を提示する。

課題の提示も、このような喋り口調になりがちです。

「しかし、我が社の両立支援対策にも改善すべきところがあります。それは、復帰した女性たちが必ずしも、今の仕事に満足していないということです」

こうした、現象を描写して繋ぐ話し方を、彼女は「女語」と呼んでいるそうです。

女語では、「そうなんだ」で終わってしまう

一方、男性の共通言語である「男語」はどうでしょうか? 上記と同じ内容を、男性はこんな風に説明する場合が多いと言います。

「我が社では、ついに女性従業員の育休取得率が97%となり、うち87%が復帰し、昨年の復帰者は103名となりました。

そして、この103名に復帰半年後に聞き取り調査を敢行したところ、83%が『わが社の両立支援制度に満足』と回答しました。制度を拡充した効果は出ています。しかし、今後の課題は育休明けの女性従業員の“戦力化”です。復帰者の67%が時短勤務を取得し、64%が中間部門に所属しています。年内には、この中間部門にいる女性従業員をフロント部門に20%増やすことを目標にすべきです」

といった具合です。

果たして、どちらが、聞き手にとって「課題」を見付けやすく、その解決のための「打ち手」が考えやすいでしょうか?

結果は、悔しいかな、「男語」だと、彼女は言います(私も同感です)。

片や「女語」の説明では、聞き手は「へえ、そうなんだ」としか反応できません。

彼女は、現象面だけを語る「女語」を羅列するだけでは、男性陣から「こいつら商売できねえなあ」と思われても仕方がないと言います。

もうお気づきだと思いますが、「男語」の特徴は、ファクト(事実)と数字を私見を交えずに話すこと――に尽きます。

彼女は、男性の「ファクト好き」について、こう教えてくれました。

「アナタの周りに、小説は『作り話』だから興味がなく、ノンフィクションしか読まないという男性はいない? 一方で、女性は小説を好むでしょ。

男性はスポーツという『今そこにある事実』で泣けるけど、女性は同じスポーツでもたとえば浅田真央選手がどんな苦難を乗り越えて記録を出したなど、その背景にある『物語』に泣く。

男性は『事実』に基づいた『大河ドラマ』は好きだけど、『作り話』が多い『朝の連続テレビドラマ小説』はさほど好まない。

これぞ、まさに男性と女性の違い。男性はトコトン、ファクトが好きでファクトしか信じない。 よく、ビジネス書で語られる『論理的な話し方』とはつまり、ファクトと数字をベースにした『男語』のことなのよ」

そして、彼女は、女性陣もこの「男語」をマスターしない限り、予算を付けて貰うこと、決済を貰うことは不可能だというのです。

「~くらい」「約」は禁止!

たとえば、「男語」を駆使した、予算を決済して貰う話し方とはこうです。

「現状、私が担当する○○部門の売上は前年同期比12%増しですが、利益率は8%の上昇に留まっています。

その理由として考えられるのが競合のB社の追い上げです。B社は、前年同期比24%の売り上げ増を記録しており、来期にはさらに12%の増加が見込まれます。

仮にB社がこのまま好調を続ければ2015年3月期には、我が社とシェアが逆転する懸念がございます。

そこで私は、本日、△のテコ入れを提案します。予め、C社とD社とE社に提案と見積もりを提出してもらったところ、D社の提案が集客率37%を見込め、1人当たりの経費は17円という概算でした。

従って、私はD社案がいいと思います。皆さん、いかがでしょうか?」

どうでしょうか? こうした話し方をすれば、聞き手は思わず「その案でいいんじゃない」と肯定してくれる可能性は格段に上がると言います。

ちなみに、例文では12%とか37%とか、かなり細かい数字を出していますが、それもまた重要なポイントだそうです。

「私の経験で言うと、男性は『だいたい30%くらい』とか『約2割』といったあいまいな数字を嫌う傾向がある。だから、たとえ間違っていても『37%』と言い切るべき。そうでないと、話の信頼感がなくなるからね。後で見直したら、本当は34%だったとしても誤差の範囲。気にしないほうがいい」

悔しいですが、現状の日本の会社でビジネスを仕切っているのは男性です。

特に、予算や決済がからむ重要な話の場合は、数字と事実を、私見を交えずに話すことに留意したほうがいいかもしれません。

佐藤留美
1973年東京生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒。出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年、企画編集事務所「ブックシェルフ」を設立。20代、30代女性のライフスタイルに詳しく、また、同世代のサラリーマンの生活実感も取材テーマとする。著書に『婚活難民』(小学館101新書)、『なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術』(ソフトバンク新書)、『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)、『人事が拾う履歴書、聞く面接』(扶桑社)、『凄母』(東洋経済新報社)がある。東洋経済オンラインにて「ワーキングマザー・サバイバル」連載中。