■編集部より指令

愛煙家はますます肩身の狭い世の中です。だからか、タバコ部屋での結束がより固くなっているというようなことも聞きます。

たまにそこで人事が決まったりするようなのですが、本当にそうなんでしょうか。

■佐藤留美さんの回答

解明!なぜ「タバコ部屋」の住人は結束が固いのか -男社会のトリセツII・女の言い分
http://president.jp/articles/-/12582

■大宮冬洋さんの回答

一体感を生む順は「ゴルフ>酒>タバコ」

嗜む者たちだけが特別な関係を作り上げている(ように見える)ことってありますよね。タバコ以上に強力なのは酒やゴルフです。

腹を割った話をするために酒の力を借りることはよくあります。僕は飲食が大好きなので、気のきいた店に連れて行ってくれる仕事仲間は「嬉しいな。できる人だな」と感じます。そして、普段はキリッとしているその人が酔ってフラフラしたりすると、人間的な部分を見せてもらった気がするのです。「次は僕のとっておきの店にご案内します」と誘ってみたり。酒を飲みながら仕事の話が進んだりすることももちろんあります。

ゴルフは酒席どころではない一体感があるそうですね。4人だけで半日以上過ごして、腕を競い合うのだから当たり前でしょう。ある程度お金がないと始めにくいスポーツであることもゴルフのつながりを特殊かつ強固なものにしている気がします。40歳を迎えたあたりで僕も始めようかな……。

骨董に凝っている知人に言わせると、茶道具の世界はゴルフと比較にならないほど上流階級との接触が多いそうです。何百万円もする歴史的な名品を売り買いするときは、「預かる」「預ける」といった表現をして、「私たちはこの品を私有するのではなく、一時的に保管させていただくのだ」という態度で臨むとのこと。素性のわからない人に「預ける」ことなどあり得ません。この密接な人間関係だけで商売をしている自営業者もいるそうです。

ゴルフなどのお金のかかる趣味や学校縁(慶応幼稚舎つながりなど)、血縁(叔父さんが役員とか)、地縁(出身地が僻地であるほど強くなる)などに比べると、タバコには「階級」を問わずに嗜めるオープンさがあります。はっきり言ってかわいいものですよ。会社のタバコ部屋でエース級の部長とやる気のない若手社員が鉢合わせをしたところで、たわいもない話に終始するはずです。人事話が出たとしても噂話の域を出ることは少ないでしょう。

趣味を介して役員とつながってみる

さて、12年以上も出版社などに「営業」をしてきたフリーライターとして、今回のテーマに反論というか意見を述べさせてもらいます。趣味つながりなどの人脈は、営業の「とっかかり」や「メンテナンス」としては確かに有効です。タバコや酒だけでなく、犬や猫などのペットを使ってもいいから顧客に近づき、「気軽に連絡しやすい間柄」を維持するべきだと思います。

しかし、仕事の本質はあくまで仕事です。どんなに親しくても能力不足の人に大きな仕事を任せようとは思いませんよね。失敗したときに巻き込まれるのは自分なのですから。だから、タバコ部屋「だけ」で人事が決まっていると思うのは被害妄想に過ぎません。

ほとんど同じ能力と実績を持つ2人がいたとしたら、人事権を持つ上司は自分と同じく愛煙家の部下を抜擢するかもしれません。「実力は拮抗していたけれど、上司にかわいがられるという重要な能力で自分は劣っていた」と敗れたほうは反省すべきだと思います。「気軽に連絡しやすい間柄」を構築して維持することは社内だけでなく、顧客に対しても発揮できる力だからです。

ただし、反省し過ぎることはありません。無理にタバコを吸い始める必要もありません。あなたは小学校のときから将棋にのめり込んでいますよね。プロの棋士を目指して地元の大会で優勝したこともあります。役員の一人に将棋好きがいることをご存知でしょうか。あなたの実力を知ったら「一局、どうかね?」と声をかけられることもあるでしょう。大きな「とっかかり」を作るチャンスです!

大宮冬洋
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)などがある。
実験くんの食生活ブログ http://syokulife.exblog.jp/