■編集部より指令

自分自身が管理職に就くことには興味がないし、同期の男性が出世しても気にならないのに女性が抜擢されたらなんとなく、胸がざわつく。思ってもいなかった同僚の妊娠の報告にも……。本当は祝福すべき場面でそれを喜べないとき、自分の感情をどうコントロールすればよいでしょうか。

■大宮冬洋さんの回答

同僚の「成功」を喜べないときは? -他人の幸せ・男の言い分
http://president.jp/articles/-/12378

■佐藤留美さんの回答

リベンジで幸せになれるか

辛いですよね。その立場。

同期が思わぬ出世をすると、今までさしたる興味もなかった「課長」とか「マネージャー」といったポジションが突如輝いて見える。

同期が妊娠すると、今まで「子どもなんてうるさくて大して可愛くない」と思っていたのが、突如、「幸福の象徴」のように感じる――。

身近な人がそれらを手に入れると、自分がこれまで意識したこともなかった、「出世したい(一番になりたいなどの上昇志向)」とか、「子どもに囲まれたハッピーファミリーが欲しい」といった “潜在意識”に気付かされてしまうのです。

そして、同僚は既にそれを手にしたのに、今の自分はそれを手に入れていないと劣等感にさいなまれる……。よく分かります、そのお気持ち。

では、その気持ちをどうコントロールするか?

ガッツと野心のある人は、大体、“リベンジ”の道を選びますよね。

「ハッ、実は私は出世したかったのか」「子どもが欲しかったのか」と慌て、「よし、だったら私も手に入れてやる」と奮起するんです。

そして、急にガムシャラに働きだして、マネージャーの第2選抜に合格してホッと肩をなでおろしたり、急にタイミング法による子作りを始めたりする。

エンドレスな戦いの世界

しかし、それで万事解決でしょうか?

出世の場合で言うなら、晴れて自分も同期と同じマネージャーに昇進しても、今度は部長の椅子を巡る争いが、その次は執行役員選抜が待ち受けます。

その前に、同じマネージャーのグレード同士でも、アイツは格上で自分は格下だとか、他社の人からしてみればどうでもいいごく僅かな差を巡って競い合うに違いありません。

子どもの場合だって同じです。まず、どこで産んだ(聖路加や愛育などの一流病院で産んだか、地元の産院で産んだかなど)の争いから始まり、英才教育はどこで受けた/受けない、お受験に成功した/しない、そして、第2子に恵まれた/恵まれないといった争いを延々と繰り広げることになり、キリがありません(その間に、お互い見せかけの「おめでとう!」を言い合いながら)。

つまり、ライバルに何かにつけて張り合い、勝ち続けようとするのは、最初から無理がある話。生きながらにして無限地獄を味わうようなもの、心にも体にもいいはずがありません。

だったら、どうすれば、僻みやそねみから開放されて、心の平安を保てるか?

それは、時間が解決してくれる話だと思うのです。

私は、自慢ではありませんが、30代まではそれはもう、僻み根性のカタマリのような人間で、会う人会う人に焼きもちを焼いては、しょげかえっていました。

40代で諦めの境地へ

ところが、40代にもなると、自然とそうした感情が薄らいでいくのを、知りました。それはきっと、「諦めの境地」なのでしょうね。

なぜって、40歳の私が、今更、どう奮起したって一流の称号を持つ人間になどなれませんし、子どもをバカスカ産むことも出来ません。

それに、40歳にもなると、大体、「上を上を」と、しゃちほこばってはいられないような状況が起きるんですね。

我が家の場合は、家族の病気という事態に遭遇しました。

すると、これまでは当たり前として享受してきた平凡な幸福(家族が毎日家に帰ってきて、食卓を囲むなど)がいかに幸福だったかを思い知らされるのですね。

それで、自然と、ああ私はなんと幸せだったのか。その上、なおも欲張った私はなんとがめつい人間なのかと気付かされるのです。

不幸とは己のエゴをおさえるなんと効く薬なのでしょうか。

結論。同僚の幸せを喜べない感情は――時が解決するはずです。

その日がくるまでは、とりあえず、その場で「よかったね~!」などと満面の笑みでも浮かべてみせて、お茶を濁せばいいのではないでしょうか。

佐藤留美
1973年東京生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒。出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年、企画編集事務所「ブックシェルフ」を設立。20代、30代女性のライフスタイルに詳しく、また、同世代のサラリーマンの生活実感も取材テーマとする。著書に『婚活難民』(小学館101新書)、『なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術』(ソフトバンク新書)、『資格を取ると貧乏になります』(新潮新書)、『人事が拾う履歴書、聞く面接』(扶桑社)、『凄母』(東洋経済新報社)がある。東洋経済オンラインにて「ワーキングマザー・サバイバル」連載中。