サイトはスポンサーを見極めること

まず「妊活」を思い立った人が何をするか? それは情報収集です。

多分今の時代でしたら、「ネット」を情報源とする人が多いでしょう。しかしネットの情報はあまりにピンからキリ。個人の体験ブログ(『赤ちゃん待ち』などで検索すると山ほど出てきて、読みふけると切りがありません)から、日本産科婦人科学会、日本生殖医学会などのHPなどの固いところまで。学術論文検索もできますし、英語ができれば、海外のサイトを見ることもできます。また、雑誌(一般女性誌から、妊活専門誌まで)、書籍、マンガなどの紙媒体。テレビ番組や映画などの映像媒体。

このように望めば情報は無限に手に入るので、情報を取捨選択する目が必要となります。

その際重要なのは、「この情報は誰がどんな目的で出しているのか?」ということです。そして「情報を出している人が信頼できるかどうか」です。いくつかの情報を整理してみました。

1)個人ブログ、個人が自分のために出しているもの

個人ブログは、あくまでその人個人の体験です。不妊治療などを考えている人にとって、「へー、不妊治療ってこういうことなんだ」という第一歩としては入りやすいし、すでに治療段階の人にとっては「同じ体験を共有している人がいる」という励みや癒しにもなります。ただ、妊娠はとても個人差が大きいので、その人固有の体験がそのままぴったりと自分に当てはまるということはありません。これは芸能人の体験談も同じです。

2)わかりにくいスポンサーがいるサイト

個人ブログにも「広告」がついていますが、一番わかりにくいのがネットに氾濫する誰が作ったのかよくわからない妊活情報サイト。よく見ると「サプリメント」などの広告媒体となっています。誰が書いているか、専門家なのか、どこかの記事のコピペなのかもわかりません。誰が書いているのか、そして誰がスポンサーなのか、よく見極めてください。

医学的根拠のない情報も

3)不妊治療クリニック、製薬会社の情報サイト

製薬会社やプライベートの不妊治療クリニックのサイトも多くの情報を出しています。医師や研究者など専門家の情報なので信頼はできますが、クリニックの情報は最終的には自分のクリニックへの誘導となります。クリニックのサイトでは「情報開示」の仕方が信頼につながります。お金のかかる自由診療(保険外)なので、どのような治療にどれぐらいお金がかかるのか、受診前の安心につながるよう、きちんと開示があるクリニックが良いと思います。

妊娠についての本も、プライベートクリニックの医師が書いたものは、最終的には自分のやっている治療への誘導が含まれます。不妊治療は、クリニックによってかなり違い、どの医師も「自分の治療が一番患者のためになる」という強い信念を持っています。中立的なものではありませんが、本を読んでこれはと思った医師のクリニックを受診するという選び方もあります。

4)中立的な情報

私が「妊活」の本を書こうと思った時、パートナーに誰か専門家をと思っていたのですが、たまたま出版社から共著者として紹介していただいたのが、齊藤英和先生でした。彼は国立成育医療研究センターの医師であり、最先端の情報に接する中立的な立場です。国立、県立、私立などの病院、大学病院、研究機関などの医師が発信する情報は中立的なものと考えてもよいでしょう。

そのほか学会、保健所、厚生労働省などのサイト、地方自治体の発行する情報ブックなどがあります。大分県など独自のガイドブックを作成している自治体もあるので、保健所などに問い合わせてみてください。

5)雑誌およびそのサイト

女性誌などは、一見中立的な情報にも見えますが、医学的な情報とそのサイドにある情報が入り混じっています。例えば、後ろのほうの記事ページに医師へのシリアスなインタビューがあり、「高齢出産がいかに難しいか」という情報がある。しかしファッショングラビアでは40代で産んだ女優さんなどの幸せな笑顔が踊ります。広告媒体でもある商業誌としては読者に希望を与えるポジティブなものと、シリアスなものの両方の記事が必要です。またサプリメント、ヨガ、鍼灸や栄養指導など、サイドの情報も豊富ですが、医学的な根拠がないものも多数含まれています。

書籍のおすすめはコレ!

6)書籍

書籍はジャーナリストが丁寧な取材をしたものを一冊ぜひ読んでください。渦中にいるとわからないことも、外からの冷静な目線の助けを借りて見ることができます。おススメは『産みたいのに産めない 卵子老化の衝撃』(NHK取材班)、『卵子老化の真実』(河合蘭)。そのほか、柘植あゆみさん、小林美希さんなどの著書は読み応えがあります。またちょっと古いのですが『エンブリオロジスト』(須藤みか)も体外受精のイメージや実態が非常によくつかめる本です。

専門家が書いたものでは、『男性不妊症』(石川智基)、『生殖医療と家族の形 先進国スウェーデンの実践』(石原理)などがおすすめできます。

7)テレビ・新聞

やはりテレビの威力は非常に大きく、「妊活」という言葉や「卵子の老化」について、広く知られるようになったのは2012年のNHKの番組「産みたいのに産めない 卵子老化の衝撃」の功績が大きいでしょう。やはり丁寧に取材されたドキュメンタリーとその情報量においてはNHKが圧倒的。必見です。

新聞ではこの分野をリードしているのは、唯一医療専門の取材班がある読売新聞です。国内外での卵子提供や代理出産などの最先端情報について、取材に基づいた情報が充実しています。

8)役立つ携帯アプリ

女性の体調管理に役立つ「ルナルナ」は400万人の利用者がいるアプリ。生理予定日や妊娠しやすい時期、しにくい時期などもわかります。「カラダのキモチ」はスマホをかざすだけでオムロンの基礎体温計の測定データを取り込みグラフ化できます。

9)口コミ

公的な情報には正確さがありますが、一般化されています。実際に治療が始まると、ピンポイントな情報、つまり「どこのクリニックが良いのか?」という情報が一番必要となるでしょう。やはり友人からの口コミや、実際に受診して、医師やクリニックの方針と相性が合うかどうかが重要です。地方では難しいのですが、東京ならいくらでもクリニックはあります。高いお金を払うのですから、高い買い物をするのと同じぐらい、しっかり吟味してください。

ウェブでも口コミの評判をチェックすることができます。見るべきところは「良い評判」と「悪い評判」の両方です。ウェブ対策の専門家がいれば、グルメ情報と同じく良い情報をたくさん出すことは簡単。バランスのとれた情報収集をしたいところです。

現代の妊活は情報戦

まずは行ってみることが一番ですが、妊娠は時間との闘いでもあります。治療は最初の6回で妊娠する確率が高いので、同じ治療を同じクリニックでずっと続けても効果がない場合、今のままでいいのか、医師と相談する必要があります。または転院してもいいでしょう。医師は患者が「卒業」と言わない限り、医師の方から「やめましょう」とは、なかなか言い出せません。治療の終わりは患者の決断にゆだねられます。最近は「治療をあきらめるためのカウンセリング」や「治療を終了した体験者の話を聞く会」なども用意されている病院もあります。良心的なメニューです。また心理カウンセラーなどが医療スタッフとは別にいる場合もあります。利用できるものはどんどん利用してください。

現代の妊活は情報戦でもあります。まずは悩むよりも産婦人科に行ってみてください。専門家からの助言が一番の情報です。35歳を過ぎていたら、すぐに不妊専門クリニックに夫婦で受診するのもいいでしょう。

また、齊藤英和先生と私の学生向けのボランティア授業「産むと働くの授業」をYoutubeで公開しています。(https://www.youtube.com/playlist?list=UUlYVEwTUg6lwJfrsQ2S-8vw

遠方の方のために誰でもこのウェブで授業を受けられるようにしました。学生向けですが、齊藤先生の「妊娠と卵子」についての講座はとてもわかりやすいので、ぜひ興味のある方は一度見てくださいね。

教科書は『「産む」と「働く」の教科書』(白河桃子・齋藤英和)。講座のフェイスブックページ(https://www.facebook.com/goninkatsu)では、受講後の理解度チェックテストもあります。

海外では中立的な情報が充実

今、政府の少子化危機突破タスクフォース(第2期)では「情報提供チーム」で「どうやって正しい妊娠、出産などの知識を届けるか?」が議論されています。

今も思いだされる「女性手帳」騒動の二の舞とならないよう、タスクフォースでは「押し付けにならない妊娠・出産への情報提供」について、慎重な討議が進んでいます。

海外では「インフォームドチョイス」(正確で信頼できる情報を得た上での選択)のためのウェブサイトが充実しています。タスクフォースでは英国、デンマークなど6カ国の情報発信が報告されましたが、いずれも信頼できる中立的な専門家らが解説したもので、政府が公的な助成を行っているものもあります。あくまで個人の選択を支援するためのサイトで「一方的なおしつけにならないように」、細心の注意がはらわれています。医学的なものだけではなく、中には「パートナーに子どもがほしいと告げる時に怖がられない方法は?」などという疑問に応えるものもあり、心理学などの専門家が解説しています。

英国の「Fertistat.com」(http://www.fertistat.com/)は生殖能力自己チェックツールです。生活習慣などの設問に答えると個別アドバイスが受けられます。サイトに入ると、個人用とカップル用があり、広告もなく、日本の情報サイトに比べるとシンプルでわかりやすい作りです。

デンマークのサイトを運営するグループでは、誤解や偏見のある妊活情報が報道された場合、すぐに訂正するように連絡をとるそうです。

日本にもこうした中立的でわかりやすい情報サイトがほしいですね。

どこの広告でもない中立的な専門家による情報を得て、正しい選択をする権利は自分自身のためのものです。タスクフォースのチームメンバーは「選択の応援」をするための専門家がそろっています。「女性手帳」的なものを批判するばかりでなく、後から「知っておけばよかった」と後悔しないように、情報は、ぜひ自分から取りに行きましょう。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、昭和女子大女性文化研究所特別研究員、大学講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)