【相談内容】

「婚活でやっと出逢えたカレに、『キミは一人で生きていけるよね』って、フラれました。どこが悪いんでしょう?」(37歳・アユミさん 化粧品メーカー)

【牛窪恵さんの回答】

毎月お見合いしているのに……

アユミさんはグレーのタイトスカートやパンツルックを好み、ふだんはセミロングの髪をきゅっとゴムで縛った、スリムなアラフォー女性。私・牛窪が、拙著『アラフォー独女あるある!図鑑』でも何度か図解した、“バリキャリの働きマン”の印象です。

職場では“デキる女”と見られて、仕事もしやすい彼女。半面、婚活の場では、なかなか男性に「カワイイ」「守ってあげたい」とは思われにくいのが悩みです。

そもそも彼女は、この半年、「婚活疲れ」を口にしていました。

以前、「実は狙い目! 婚活における3つの『ブルーオーシャン市場』」(http://president.jp/articles/-/11943)で、やはり婚活疲れに陥ったマナさん(1年間で5回お見合い)を紹介しましたが、アユミさんのペースはそれ以上。

半年間で、なんとお見合い7回という超ハイペース。出張も多いなか、月1回以上の頻度で、「頑張らなきゃ」と疲れを隠して婚活を続けた。

それなのに、せっかく気に入った男性に「一人で生きていけるよね」と、“甘えベタ”を指摘されてしまったわけです。

「こんなに必死でお見合いしてるのに。本当は私だって、甘えたいですよ~!」と怒りを露わにします。

ただ、彼女の“半年間で7回”のお見合い頻度は、実は1年以内に結婚できる「スピード婚」の目安、とされるペース。決して特殊ではありません。

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1年以内に成婚した人たちの平均お見合い件数

結婚相談所の運営などで知られるIBJが、「1年以内に成婚した方たちの平均お見合い件数」を調査したところ、1年以内に成婚(スピード婚)に至るお見合いのペースは、30代後半の女性で、実に“15.6回/年”。

つまり半年間で7~8回となり、アユミさんと同様、“月1回以上”のペースでお見合いしていることが分かりました。

ちなみに、このお見合い頻度は、概ね年齢が上がるに連れて上昇します。

20代後半の女性では10.7回ですが、30代前半で13.9回、同後半で15.6回。

40代になるとお見合いのオファーが減るのか、14.4回と多少ダウンしますが、それでも月1回以上。

他方、男性は40代になっても増え続け、なんと“年間20.7回”にも達するほどです。

「守ってあげたい」と思われるには

先の調査対象は、結婚相談システムを利用した男女(約4万5000人)限定ですが、それでもスピード婚を目指すならある程度、必死の婚活は避けられない様相です。

半面、必死の婚活でも“適度な甘え”は必要。

アユミさんも、それはある程度分かっている。でもやっぱり、こう言います。

「だからって、ピンクのワンピースを着てクルンと巻き毛にしてみたり、首を斜め45度にかしげて『お菓子作りが趣味で~』なんて、露骨な女子力アピールはしたくない。そんな女に騙される男性とは、結婚したくないんです」

ふむふむ、私も似たタイプなので、気持ちはよく分かります。

ただ、以前もご紹介したとおり、男性にも女性の母性に似た“父性”がある。

とくに30代に入ると、父性を刺激するプロラクチンやオキシトシンが増える傾向にあります。多くは、女性を「助けてあげたい」「守ってあげたい」との気持ちが、ムクムクと強くなってくるのです。

これを婚活に、利用しない手はありません。

そこで、露骨に女子力をアピールすることなく、自然な形で“甘え”を活かす手法について、マーケティングの法則に絡めながらご紹介しましょう。

皆さんは、【フット・イン・ザ・ドア】と呼ばれるテクニックをご存じですか?

営業マンの方は、「ああ」と気づくかもしれません。本命の要求を通すために、まず簡単なお願いからスタートし、段階的に要求レベルを上げていく方法。

営業現場で、よく使われるテクニックです。

たとえば新聞の営業マンが、皆さんの家のベルをピンポーンと押した場合。

最初から、「すみません、うちの新聞を1年分、とってもらえますか?」と言われたら、たいていの人は「1年間なんて、とんでもない!」と、カギを開けることさえしないでしょう。

でも、「お話だけ聞いて頂けますか?」とか、「おトクな情報をお持ちしたので」などといわれれば、「それぐらいなら」と気が緩め、ドアを開ける。

そこでようやく、「半年でいいので」「3カ月のうち1カ月分は無料にしますので」と少しだけハードルを上げた“お願い”をして、契約に結びつける。

これが【フット・イン・ザ・ドア】、すなわち、ちょっとしたドアのすき間に足を入れ、そこから少しずつドアをこじ開けていく(契約に至らせる)手法です。

このテクニックにはもう一つ、別の効果があります。

それは、マーケティングで言う【一貫性の原理】

人は自分の行動や発言、態度、信念、価値観などに対し、つねに「一貫したものだ(ブレていない)」と考えたくなる。

この心理が予想以上に強いことを、近年、米国アリゾナ州立大学の名誉教授(心理マーケティング)、Robert B. Cialdini(ロバート・B・チャルディーニ)氏らが明らかにしました。

たとえば、誰か(仮にAさん)に“小さなお願い”をされて、「いいですよ」とやってあげる。その直後、「ありがとうございます!」と、Aさんに笑顔を見せられたとき。

やってあげたほうは、「いいことをしたな」と感じる。よほど嫌いな相手でなければ、「甘えられて嬉しい」「次はもう少し、大きなお願いを聞いてあげてもいいかな」と思うでしょう(【フット・イン・ザ・ドア】)。

また、人は自分の行ないが、のちのち失敗やマズイことだったとは思いたくない。

だから「私がやったことは、間違っていなかった」「Aさんがいい人だからこそ、私がやってあげたんだ」と、自分の行為やAさんのことを、ムリにでも美化、正当化しようとします(【一貫性の原理】)。

この手法で、「あの人はいい人だ」と思わせ、まんまと人を騙す詐欺師もいる。

でも実はこれが、恋愛・婚活の世界でも「異性に少しずつ“甘えられる”と、その人のことを好きになりやすい」と言われる所以です。

誰でもできる! 甘えのテクニック

たとえば、身近に意中の男性・Bさんがいるとき。

もしあなたがスーパーウーマンで、どんな缶ジュースでもラクに開けられる握力を持っていても、あえてBさんに「ごめんなさい、なんだか硬くて」と甘え、開けてもらう。

すると彼のほうは、「いいことしたな」「これぐらいで喜んでくれるなら、次はもっと大きなお願いを聞いてあげようかな」と、無意識のうちに考えやすい。

そして1週間後、もう少し大きなお願い、たとえば重たい荷物を「いいですか?」と持ってもらう。

こうした“お願い”を何度か続けると、Bさんの脳内では【一貫性の原理】が働き、「僕は彼女が好きだから、いろんなお願いごとを聞いてあげた」と感じやすくなります。

その際、必ずBさんに「ありがとう」「さすがですね」と、感謝の言葉や満面の笑みを向けるのを忘れずに。

「ありがとう」と言葉で言う代わりに、ちょっとしたプレゼントや手作りのお弁当、可愛いメッセージカードなど、なにか“カタチ”を贈るのも有効です。

実はこのお礼が、さらに好意を生みやすい。

たとえば、マーケティングでよく例に挙がるのが、試食。

休日、デパ地下のスイーツ売場を歩いていて、「いかがですか?」とチョコレートの試食を呼びかけられたとしましょう。

あなたは「じゃあ」とチョコを1つ手に取って口にした段階では、まだ「買おうかな、どうしようかな」と迷うかもしれない。

でも、「どうですか?」と聞かれ、「美味しいですね」と答えてしまったあと、もし「ありがとうございます。実はこちらの、ちょっとお高いチョコもありまして」と、さらに希少性の高級チョコを、奥から試食に出して来られたら……

あなたはきっと、「さっきのチョコも美味しかったし、次もきっと」と手を伸ばす(【一貫性の原理】)。

しかも、「私のために高級チョコまで出してもらって、悪いなぁ」と、試食スタッフになにか“お返し”をしなきゃ、とつい負い目を感じてしまう。

後者が、マーケティング上で【返報性の法則】と呼ばれる原理。

誰かに過度な尽力やお礼をされると、つい「自分もなにか、好意を返すべきだ」と感じてしまう。

試食でいえば、それが「買う」に、恋愛や婚活では「お付き合いする」という行動に発展しやすいわけです。

素直に甘えられない女性が73%

……以上を整理すると、こうなります。

◆フット・イン・ザ・ドア・テクニック
まずは、「缶ジュース、開けてもらえますか?」→「荷物を持ってもらえますか?」など、徐々に“お願い(甘え)”のハードルを上げよ
◆一貫性の原理
小さなお願いをちょっとずつ積み重ね、それを叶えてもらうことで、相手に「僕は彼女を好きに違いない」と思わせよ
◆返報性の法則
お願いを叶えてもらったら、必ず「ありがとう」「さすがですね」など、お礼や褒め言葉、ちょっとしたプレゼントを贈れ。すると相手の男性は「お返しに、次もなにかしてあげなきゃ」と感じやすい

アユミさん同様、「甘えるのがヘタで」と自覚する女性は多いもの。

20~30代の働く女性に聞いたある調査でも、素直に甘えられない経験が「頻繁に(たまに)ある」女性が73.5%と、7割以上。とくに年代が上がるほど、甘えベタな女性が増える傾向が分かりました(12年 アイシェア調べ)。

ただ、既述のマーケティングの法則に照らすと、“お願い(甘え)”がいかに大事か、わかりますよね。

逆に、甘えのポイントさえわかれば、きっといろんなことがうまくいく。

アユミさんが嫌うピンクのワンピースをムリに着なくても、クルンと巻き毛にしなくても、意中の男性にちょっとだけ何かお願いごとを積み重ねるだけで、「あの子を守ってあげたい」と感じてもらえる確率は、グンと上がるんです。

そう。婚活って、いくつかの法則を身につければ、意外にスッと道が拓けるもの。

でも私は思います。逆に、「そこまでして、結婚したくない」と思うあなたは、いまムリに婚活する必要はない。

大丈夫、「そのとき」が来れば、自然と気持ちも高まる。「何がなんでも結婚したい!」と思ったらもう一度、私・牛窪がご提案した様々な「婚活の法則」に、立ち戻ってみてくださいね!

牛窪 恵
1968年、東京都生まれ。大手出版社勤務ののち、フリーライターとして独立。 2001年、マーケティング会社インフィニティを設立。定量的なリサーチとインタビュー取材を徹底的に行い、数々の流行キーワードを世に広める。『アラフォー独女あるある!図鑑』(扶桑社)など著書を多数執筆する一方で、雑誌やテレビでも活躍。10月末『大人が知らない「さとり世代」の消費とホンネ』 (PHP研究所)が発売。12月5日『「バブル女」という日本の資産』(世界文化社)が発売に。財務省財政制度等審議会専門委員。