■編集部より指令

「婚活におけるバカ問題」について取り上げた「『許せるバカ』と『許せないバカ』の分岐点」(http://president.jp/articles/-/12012)は多くの方にお読みいただきました。

婚活から仕事に目を移してみると、ここにも「許せるバカ」と「許せないバカ」が存在するように思います。「許せるバカ」のほうは、その立ち位置を利用して仕事がうまくいくこともあるかもしれません。

この違いを詳しく解説してもらいます。

■佐藤留美さんの回答

部課長の席を外国人に独占される日 -職場にいるバカ・女の言い分
http://president.jp/articles/-/12089

■大宮冬洋さんの回答

「頭がいい」「モテる」は褒め言葉ではない

「あいつ、バカだよな~。ソツがない人ってよくいるけれど、あいつはソツだらけ。昨日の会議でも部長に真正面から反論しちゃって……」

「本当にバカだよ。オレたちがフォローしてやらないとそのうち左遷されるだろうね」

居酒屋のカウンター席に静かに飲んでいる男性客2人がこんな会話をしていたとしましょう。なぜか表情は明るく、悪口で盛り上がっている後ろ暗さはありません。なぜなら、彼らは「バカ」な同僚を誉めているからです。本音を通訳すると次のような会話になります。

「あいつ、優秀なのに真っ直ぐだよな。オレはずる賢い男は大嫌いだ。ズルさのないあいつを信用している。昨日の会議でも、威張り散らす部長にガツンと反論していた。すごいよ、オレには真似できない……」

「本当にカッコいい奴だよ。左遷も恐れていないんだから。でも、あいつを左遷するなんてオレたちが断じて許さない!」

ほとんど絶賛ですね。男性同士のこのような文脈の会話では、「バカ」とは「我が身を省みずに情熱的に働く爽やかな男」を意味するのです。一方で、「頭がいい」「ソツがない」「生き方上手」「世渡りがうまい」「部長に好かれている」「女にモテる」「人気者」といった言葉は、嫉妬混じりのネガティブな意味で使われることがあるので注意しましょう。

なぜバカな男を応援したくなるのか

働く男性たちはなぜ「バカ」を手放しで誉めて愛情を隠さないのでしょうか。2つの理由があります。前向きな理由は、真っ直ぐな力強い生き方に憧れるからです。お金も名誉もかかっている職場において、大小の権力に正論で立ち向かうのはリスクを伴います。疎まれたり余計な仕事が増えてしまう危険性大です。でも、戦いを巧妙に避けている自分と比べてどちらが男らしいのか。その答えは明らかです。

後ろ向きな理由もあります。その「バカ」は確かに愛すべき存在であり、同僚からは密かな人気を集めています。しかし、あまりに不器用なので出世はしないでしょう。労働組合活動などで空気を読まずにガンガンやり過ぎて、経営陣や人事部からにらまれてしまうタイプです。出世意欲のある男性たちにとってライバルにはなりません。だからこそ、安心して愛せるのです。

真っ直ぐに生きることは素晴らしいことですが、人間社会にはいろんな人がいますからね。正論だけではやっていけないのも事実です。正論だけのリーダー(世襲組織の跡継ぎなどに多いですね)がいる場合は、誰にでも頭を下げてくれる番頭や女房役みたいな苦労人たちが傍らから支えているはず。それに気づかない人は本物のバカでしょう。

「本物のバカ」が生み出す職場の悲劇

以上が「許せるバカ」について。では、職場において「許せないバカ」とはどんな存在でしょうか。これはハッキリ言って「無能」と同義です。性格の良し悪しは関係ありません。業務に不適格なので同僚にも顧客にも迷惑をかけてしまいます。

俗に、「働きアリの法則」などと言って、「優秀でよく働くのは全体の2割で、6割は普通で、2割は怠けている。人間組織も同じだ」なんて指摘されますよね。僕が言っている「許せないバカ」はそんな相対評価の話ではありません。比較的怠けているように見えて生産性が低いのではなく、絶対的に不適格で生産性はゼロに等しい人のことです。もちろん、その人はどんな場でも無能なのではなく、違う場所に移れば能力を発揮することもあるでしょう。

だからこそ、一刻も早く配置転換や離職を促すのが本人も含めた関係者全員のためなのです。どうしても無理ならば、周囲に悪影響を与えないために「隔離されたデスクで新聞を読んでいるだけの仕事」を何十年もやってもらうしかありません。そんなことに耐えられる企業や個人はごく一部だと思います。

現実の職場では、明らかな採用ミスで紛れ込んだ「許せないバカ」が職場で管理者になっていることがあります。きっと彼の上司も「許せないバカ」だったのでしょう。会社が賞味期限を過ぎた兆候かもしれません。終身雇用や年功序列の慣行は必ずしも間違っているとは思いませんが、たまにこのような悲劇を生み出します。

大宮冬洋
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)などがある。
実験くんの食生活ブログ http://syokulife.exblog.jp/