健康のために、毎日1万歩を目指す必要はあるのか。94歳で電車通勤を続ける日本栄養大学副学長の香川靖雄さんは「ウォーキングなら1万歩も歩く必要はなく、年齢ごとに推奨されている歩数がある。運動量だけでなく、運動後に何を食べるかも大切だ」という。今も元気に働き続ける栄養学者が、日々実践する運動と食事の習慣を紹介する――。
ことし94歳の栄養学者、香川靖雄さん
撮影=池口祥司
ことし94歳の栄養学者、香川靖雄さん

94歳でも往復4時間通勤、基本はウォーキング

FIFAワールドカップ2026、そして毎年恒例の全国高等学校野球選手権大会、愛知・名古屋アジア大会など、スポーツの大会を熱心にご覧になった人も多いでしょう。また、観戦するだけでなく、最近は街のあちこちに気軽に通えるジムも増え、仕事帰りに通ったり、休日にはフットサル、テニス、野球、あるいはランニング、ウォーキングをして汗を流す人もたくさんいらっしゃいます。

私自身、スポーツの種類は問わず、日本代表の試合があるときには、人一倍熱を入れて観戦しています。学生時代にはバスケットボール部に入っていましたので、試合があればとくに注目しています。

運動習慣という点では、94歳になった今も積極的に身体を動かすようにしています。とはいえ、特別なことをしているわけではありません。現在も一年を通して、週に2日、3日は、片道2時間の電車を乗り継いで大学に通っていますので、基本はウォーキングです。元気なときはできるだけ階段を使って、筋力の維持に努めています。自宅では、エアロバイク、ダンベルといった運動器具を使って、筋力トレーニングをするのが日課です。また、すでに運転免許証は返納していますから、買い物にいくときは、自転車を漕いで近くのスーパーやコンビニに出かけます。

日本人は運動不足、運動習慣は健康寿命に影響

「運動習慣」は健康を維持するために欠かせません。

しかし、残念ながら日本人は全般的に運動不足です。厚生労働省のデータ(令和6年国民健康・栄養調査報告)によると、「運動習慣のある者」(1回30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している者)の割合は、「男性で38.5%、女性で31.5%」となっています。

香川靖雄『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』(女子栄養大学出版部)
香川靖雄『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』(日本栄養大学出版部(旧・女子栄養大学出版部))

ただ、歩数については、光明も見られます。歩数の平均値は男性で7763歩、女性で6495歩となっており、厚生労働省が策定した「健康日本21」(第三次)における1日の歩数目標である「7100歩」に近い値となっています。

運動習慣は「健康寿命」にも影響を与えます。

健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことです。平均寿命は世界トップクラスの日本ですが、平均寿命と健康寿命の差を、2022年のデータで計算すると、男性で8.48年、女性で11.64年もあります。長生きしたとしても、亡くなる直前まで元気でいられるわけではないということです。

【平均寿命】
男性:81.05歳 女性:87.09歳

【健康寿命】
男性:72.57歳 女性:75.45歳

【平均寿命と健康寿命の差】
男性:81.05歳-72.57歳=8.48年
女性:87.09歳-75.45歳=11.64年

(参照:厚生労働省「健康寿命の令和4年値について-健康寿命※の推移と健康日本21(第三次)の目標」

年齢を重ねても「身体を動かし続ける」

ちなみに、健康寿命には別の指標もあります。要介護度を基に算出する「平均自立期間」では、長野県が男性で4年連続、女性で9年連続の全国1位となっています。

長野県は、ウォーキング、健康診断、食生活の改善等を推進しているそうです。具体的な要因として「高齢者の高い就業率」「野菜摂取量」等が挙げられており、高齢になっても働きながら身体を動かすことが健康寿命によい影響を与えているのでしょう。

実際、男性の平均寿命と比べて、10年以上長生きしている私自身、運動習慣を維持しながら働き続けていることが、健康寿命の延伸に役立っていることを身をもって体感しています。

ここまでの話で「健康長寿のためには運動が欠かせない」ことをご理解いただけたかと思います。ただし、「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」という言葉があるように、何事もやり過ぎはよくありません。

運動は身体によいからといって、急に運動量を増やしたり、負荷の高い運動を過剰に行うと、筋肉を痛めたり、心臓に負担がかかったりと、かえって健康を害するリスクを高めることになるからです。

厚生労働省が策定した「健康日本21」では、20~64歳の1日の歩数目標は「8000歩」、65歳以上は「6000歩」となっている。
写真=iStock.com/Maksym Belchenko
厚生労働省が策定した「健康日本21」では、20~64歳の1日の歩数目標は「8000歩」、65歳以上は「6000歩」となっている。※写真はイメージです

運動しすぎは逆効果、65歳以上は6000歩で十分

運動をすると、ストレスや疲労、老化、免疫力の低下の原因となる「活性酸素」が発生します。ウォーキング程度であれば体内で分解できる範囲ですが、息が上がるような運動をし過ぎると、処理しきれないほど過剰に発生してしまいます。

よかれと思って取り入れた運動が、マイナスの効果を生むというのは、私のような高齢者にとってはなおのことです。たとえば、高齢者が急に激しい運動をすると、血管に負荷がかかることで心筋梗塞のリスクが上昇したり、突然死を招いてしまうこともあります。筋肉が弱っている人が無理な運動をすると転倒して骨を折ってしまうことだってあるでしょう。

私自身も無理な運動はしないようにしています。日常的に意識しているのは、「歩数制限」です。

さきほど、1日の歩数の目標値をご紹介しましたが、「7100歩」というのは年齢を考慮したものではありません。厚生労働省が策定した「健康日本21」(第三次)では年齢別の目標値も設定しており、20~64歳の1日の歩数目標は「8000歩」で、65歳以上は「6000歩」となっています。

そのため、私も1日の歩数が6000歩を超えないように努めています。具体的には、スマートフォンの歩数計をチェックしながら、歩き過ぎないようにしています。とはいえ、用事が多い日は1万歩以上歩くこともよくあります。そうしたときは、翌日歩く歩数を減らすなど、1週間程度のスパンで調整しています。

運動後にはたんぱく質、肉より魚がおすすめ

とはいえ、過度な運動を避けるがあまり、運動習慣を失ってしまっては元も子もありません。ですので、適度な運動をしつつ、運動後には水分はもちろん、適切な栄養素を摂取することで、筋肉量を高める習慣も身につけたいところです。

運動後の「高たんぱく糖質食」は高齢者に有効です。身体というのはよくできていて、体内のたんぱく質や糖質が不足すると、「筋肉」を分解してでも補おうとします。せっかく運動して筋力を増やそうとしているのに、逆に減ってしまっては意味がありません。とくに高齢者は、心身の活力が低下する「フレイル」を予防するためにも筋力を維持する必要がありますので、運動後には「高たんぱく糖質食」を意識的に摂取するようにしてください。

たんぱく質を多く含んだ食材としては、日本人に不足しがちなDHAやEPAも補える「魚」がおすすめです。たんぱく質を摂取するという点では「肉」も選択肢の1つになりますが、飽和脂肪酸を多く含んでいるため、気になる人は魚を積極的にとるとよいでしょう。私も大学の食堂では必ず魚定食を食べるようにしています。ただし、魚を食べる際は、塩分のとりすぎには注意してください。長野県も塩分を減らすプロジェクトを推進しているそうです。

「栄養素」は三食で均等に摂って

あわせて、活性酸素を抑えるためには「ビタミン」の摂取が有効です。中でも、「抗酸化ビタミン」と呼ばれているビタミンA、ビタミンC、ビタミンEが豊富に含まれている野菜や果物を選ぶとよいでしょう。私がとくにおすすめするのは、日本人に不足しがちな葉酸もとれる「ほうれん草」や「小松菜」といった緑色の野菜です。あとは、たんぱく質もビタミンも含まれている「大豆」もおすすめですね。

歳を重ねることで栄養素の吸収、利用スピードは落ちていきますので、運動後だからといって大量の栄養素を一度に摂取することはおすすめできません(図表1)。日本人は一般的に、朝食、昼食が軽めで、夕食をしっかりととる食習慣をもっていることが多いのですが、高齢になるにつれ、夕食の比重を下げ、朝食、昼食、夕食を同じ量に近づけていくことが肝要になります。

【図表】食事中のタンパク質分布は健康な成人の24時間筋タンパク質合成に好影響を与える
出典=Mamerow Madonna M. et al. Dietary Protein Distribution Positively Influences 24-h Muscle Protein Synthesis in Healthy Adults, The Journal of Nutrition Volume 144, Issue 6, June 2014, Pages 876-880 筆者作成

フレイル予防、サルコペニア(筋肉量の減少や筋力の低下)予防のためには、洋食よりも日本食のほうがよいでしょう(図表2)。

【図表】日本食スコアの順守度とサルコペニアの相対的発症頻度
筆者作成

長寿食としての「日本食」については、拙書『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』(日本栄養大学出版部(旧・女子栄養大学出版部))でも解説していますが、日本食のデメリットである塩分のとり過ぎには気をつけつつ、図表3にあるような日本食を中心とした食習慣を続けたことが、私自身、94歳になる今も元気に働けている理由の1つだと考えています。

【図表】日本食ピラミッドの提案
出典=『92歳、栄養学者。ただの長生きではありません!』(日本栄養大学出版部・旧女子栄養大学出版部)より。出所=香川靖雄『栄養と料理』2022年8月号、94~97頁

運動量と食事量のよいバランスを目指して

運動と食事の知識は、糖尿病を含む生活習慣病の予防にとっても欠かせないものです。しかし運動や食事に対する指導は40代以降に行われることが多く、若いうちから気をつけるのは簡単ではありません。たとえば、40代ですでに耐糖能異常(インスリンの働きが弱まり、血糖値が上がっており、糖尿病予備群となっている状態)の人は、40代以降に運動、栄養に気をつけて生活しても糖尿病になってしまうことが少なくありません(図表4)。

私自身、体重を毎日記録することを60年近く続けています。運動量と食事量のバランスをとりながら、BMIが23.5から24の間になるようにするのです。94歳になったいまも、それは変わりません。

【図表】特定検診保健指導導入後にも糖尿病が増加
筆者作成

もし、若い方が本記事をお読みになっているのであれば、ぜひ、今のうちから適切な運動と食事の習慣を身につけていただければと思います。

参考文献)
・Powers SK et al.:Exercise-induced oxidative stress: Friend or foe? J Sport Health Sci. 2020 May 4;9(5):415–425.
・Powers SK et al.: Exercise-induced oxidative stress in humans: cause and consequences. Free Radic Biol Med. 2011 Sep 1;51(5):942-50.
・Mamerow MM et al. Dietary Protein Distribution Positively Influences 24-h Muscle Protein Synthesis in Healthy Adults. J Nutrition 2014; 144 (6) : 876-880
・Suthuvoravut U et al. Association between Traditional Japanese Diet Washoku and Sarcopenia in Community-Dwelling Older Adults: Findings from the Kashiwa Study The Journal of Nutrition , health and aging 2020 Volume 24, Issue 3, March 2020, Pages 282-289
・厚生労働省 令和6年国民健康・栄養調査