※本稿は、歌島大輔『肩のけんばん断裂 自力でできるリセット法』(アスコム)の一部を再編集したものです。
60代からの肩の痛みは「けんばん断裂」かも
若い頃から肩こりに悩まされ、40代になると四十肩、さらに五十肩に悩まされてきた方もいらっしゃるでしょう。もちろん、60代になっても、肩こりや五十肩に悩まされる方はいます。
60代からの肩の痛みは、肩こり、五十肩とは限らないですが、特に還暦を過ぎた方であれば、もしかすると今の肩の痛みは、これまでとは違う原因があるのかもしれません。
次のような症状があるでしょうか?
・肩を動かそうとすると、違和感や痛みがある
・腕に力が入らない
・腕を少しでもひねる動きをすると、痛む
・痛くて、夜、眠れない
いかがですか? もしも当てはまる項目があれば、それは肩こりでも五十肩でもなく、けんばん断裂かもしれません。
あるいは、以前にとてもつらい肩の痛みを経験したことがあり、今はおさまっているものの、「また痛みが再発したらどうしよう……」と不安に思われている方もいるかもしれません。
以前のその痛みも、けんばん断裂だった可能性は高いと思います。そうだとすれば、痛みが再発する恐れは十分にあります。それにしても、けんばん断裂なんて、ちょっと怖そうな響きですよね。
“肩が痛い”65歳以上の45%が、けんばん断裂
もしかすると、マッサージに行った整体院で「けんばん断裂かもしれませんね」などと言われ、「え? 何、それ」とドキリとした経験をお持ちかもしれません。馴染みのない単語に、「断裂」という穏やかではない言葉。
マイナスイメージが頭の奥底に残って、ひそかに気になっていたかもしれませんね。
けんばん断裂は、簡単に言えば、肩の中の「腱板(けんばん)」というところが切れる疾患です。65歳以上であれば、その肩の痛みはけんばん断裂である可能性が高いということは知っておくほうがいいでしょう。
オランダでの研究ですが、肩の痛みを訴える240人の中から「けんばん断裂が見つかる頻度」を調べたところ、次の結果が得られました(*1)。
65歳未満 16.7%
65歳以上 45.8%
65歳が大きな節目になっていることがわかりますね。同じようなデータは複数あり、研究によって数値は違いますが、皆さんの想像をはるかに超える頻度でけんばん断裂は起こっていることに変わりはありません。
五十肩との見分けは難しい
肩の痛みは、多くの方が経験することです。
20代後半から、肩こりに悩む方が増えていきます。40代で多いのは四十肩、50代で多いのは五十肩です。といっても、四十肩と五十肩に実質的な違いはありません。ですから、この本ではまとめて「五十肩」と呼ぶことにします。
そして65歳を過ぎると、五十肩に代わって、けんばん断裂の方の割合が急激に増えます。60代や70代で五十肩になる方もいますが、その割合は逆転します。
そして、80代になると……。驚かれるかもしれませんが、80歳以上になると、痛みと関係なく30~50%の方にけんばん断裂があることがわかっています(*2)。
こういうデータは、実際に患者さんを診ている私の肌感覚とも一致します。
肩の痛みの多くは、「肩こり」「五十肩」「けんばん断裂」です。この中で肩こりだけは、五十肩、けんばん断裂と簡単に識別できます。それは痛む位置が違うからです。「肩こり」では腕よりも首や背骨に近いところが痛み、「五十肩」と「けんばん断裂」では腕に近いところが痛みます。
ですが、「五十肩なのか、けんばん断裂なのか」の識別はとても難しいのです。実は整形外科医でも診断を誤ることがあります。なぜ、診断が難しいのでしょうか。理由のひとつは、五十肩の症状とけんばん断裂の症状に共通点が多いことです。
「痛みの強さ」では判断できない
たとえば、このような症状は、五十肩でもけんばん断裂でも起こり得ます。
・腕を横に出して上げたり下げたりすると痛い
・痛いところを揉むと、痛みが増す
・夜、眠れないほど痛む
・頭を前後左右に動かしても、痛くない
次のような識別法も紹介されていますが、例外も多いので、痛みだけでは区別しづらいのが本当のところです(*3)。
・肘ひじを直角にして脇を締め、両手のひらで押し合って、痛くなければ五十肩、痛ければけんばん断裂
・痛いほうの手を反対側の手でつかんで引っ張り合い、痛くなければ五十肩、痛ければけんばん断裂
実際、五十肩では大きな痛みがありますが、けんばん断裂では大きな痛みがあることもあれば、ほとんど痛みがないこともあります。どちらの痛みのほうが強い、ということも言えません。
五十肩のほうが軽いような気がするかもしれませんが、けんばん断裂よりも痛い五十肩はよくあります。
“自力で上がらない”なら、けんばん断裂を疑って
それほど識別が難しいところはあるのですが、五十肩なのか、けんばん断裂なのか、ある程度なら自分で判断できる目安はあります(あくまでも目安であって、すべてが当てはまるわけではありません)。
まず、肩の痛みがある人で、40代~50代なら五十肩、60代以降なら、けんばん断裂の可能性が高いでしょう。
特に、「痛いほうの腕を、反対側の手で(または他の人の手で)上まで持ち上げようとしても、硬くて動かない」のであれば、五十肩の可能性が高いでしょう(*4)。五十肩になると、いろいろな方向の動きが悪くなります。特に図にあるような「外旋」と呼ばれる動きが硬くなります(*5)。
逆に、「反対側の手(または他の人の手を)を使えば痛いほうの腕を上まで持ち上げられるのに、自力では上がらない。動かそうとしても、力が抜ける」のであれば、けんばん断裂の可能性が高いでしょう。これは、肩が動くときに、筋肉が使われていない状態です。
なお、肩の少し内側の出っ張り周辺を押すと痛かったり、左右の痛みに差があったり、時々激しく痛むようなことがあれば、五十肩の可能性が高いでしょう。ドアのノブを回すように腕をひねったときに痛むのであれば、けんばん断裂の可能性が疑われます。
放置すると最悪の場合、人工関節に
ただし、これのセルフチェックが絶対というわけではありません。例外もあるからです。最終的には整形外科での徒手検査(理学検査)と、レントゲン検査、エコー検査やMRI検査などで、総合的に診断してもらうことが必要です(*6)。
きちんとした診断を受けずに、けんばん断裂であるにもかかわらず、五十肩だと勘違いしている方が少なくありません。「痛くてつらいけど、五十肩は1年ぐらいしたら自然に治るって聞いたから」とほうっておく方が多いのです。
ですが、それがけんばん断裂であれば、自然に治ることはほぼあり得ません。ほうっておけば悪化する一方であるケースがほとんどなのが、けんばん断裂なのです。五十肩とは違うのです。
けんばん断裂は、ほうっておくと断裂が広がってしまうのです。その断裂が最悪のレベルにまで達したら、もう手術でも修復できず、人工関節に入れ替えるしかなくなることもあります。
人工関節なんて大きな手術は、できればしたくないですよね? そのお気持ちはわかります。ですから、そうならないように、自分自身の肩の腱板で天寿をまっとうできるように、今のうちに手を打っていただきたいのです。
どんな方であれ、多かれ少なかれ肩に負荷をかけて生きてきたはずです。その負荷は、毎日少しずつ蓄積しています。だからこそ、どんな方でもけんばん断裂になる可能性があるのです。
(参考文献)
*1 Ottenheijm RPG, van’t Klooster IGM, Starmans LMM, et al. 2014. Ultrasound-diagnosed disorders in shoulder patients in daily general practice: a retrospective observational study. BMC Fam Pract 15: 115.
*2 Tempelhof S, Rupp S, Seil R. 1999. Age-related prevalence of rotator cuff tears in asymptomatic shoulders. J Shoulder Elbow Surg 8: 296-299.
*3 Hermans J. et al. Does this patient with shoulder pain have rotator cuff disease? JAMA. 2013; 310(8): 837-847.
*4 Hegedus EJ, Goode AP, Campbell S, et al. Physical examination tests of the shoulder: a systematic review with meta-analysis. Br J Sports Med. 2008; 42(2): 80-92.
*5 Kelley M.J. et al. Shoulder pain and mobility deficits: adhesive capsulitis. J Orthop Sports Phys Ther. 43, A1-31 2013.
*6 Jain N.B. et al. The Diagnostic Accuracy of Special Tests for Rotator Cuff Tear 2017.
