【相談内容】
「この1年、婚活で30万円以上遣ってヘトヘトです! 年収500万円以上の男性を狙うこと自体、無茶なんでしょうか?」(32歳・マナさん 不動産会社)
【牛窪恵さんの回答】
年収500万円以上の未婚男性は7.7%
「コトラーを応用! 即結婚できる技術」(http://president.jp/articles/-/11845)には大きな反響をいただき、ありがとうございます。
今回は、5年ほど前から話題の「ブルーオーシャン戦略」を婚活に応用してお話ししようと思いますが……。
その前にマナさんに厳しいことを言うと、年収500万円以上の男性を狙うのは、確かに現実には“狭き門”です。
以前も少しふれたとおり、いまや20~49歳までのバツなし未婚男性のうち、年収500万円以上は7.7%のみ(09年 野村総合研究所調べ)。
これだけ「年収300万円が当たり前の時代」と言われて久しいのに、いまだに未婚女性の約6割は、結婚相手の年収に“600万円以上”を求めます。
マナさんが狙う年収500万円台の男性にも当然、数多くの女性が群がるわけです。
ただ、婚活疲れに陥ったマナさんを取材してみると、まさに努力の人でした。
この1年間で、7件の婚活パーティと、5回のお見合いを経験。有料の婚活サイトにも登録し、親戚一同にも「いい人がいたら」と声をかけ、パーティ前には、女性の品格セミナーやメイク講座に通い、ときには新作のワンピースも購入し……。
なんとか彼女のような女性に、幸せになって欲しい。そこで今回は「ブルーオーシャン戦略」の応用を提案しましょう。
ブルーオーシャン戦略は、05年2月、フランスの欧州経営大学院(INSEAD)教授のW・チャン・キムとレネ・モボルニュが発表した同名著書により、提唱されました。
ブルーオーシャンとは読んで字のごとく、まだ荒らされていない、蒼々とした海のような新たな市場。競争相手が少なく無限の可能性を秘めた、魅力的なマーケットです。
これに対し、競合であふれ、激しい“血みどろ”の争いを繰り広げる既存の市場が、「レッドオーシャン」。
一般には、すでに成熟&飽和状態にある市場です。ここで戦うためには、各社とも値引き合戦を繰り広げたり、既存商品のミリ単位の改良を繰り返したり、と高付加価値を低コストで提供することが求められる。
現場にとっては、かなりしんどい市場だと言えるでしょう。
公務員、医者は2大レッドオーシャン
私はサプライヤー企業各社とマーケティングのお仕事をご一緒することも多いのですが、商品・サービス開発や営業、販売の現場で、皆さんがキラキラ表情を輝かせているのは、圧倒的にレッドオーシャンより「ブルーオーシャン」市場。
スタッフや社員が新規のアイディアを出し合ったり、新素材や思いもよらぬおもてなしでお客様をビックリさせたりと、現場が活気にあふれています。まだ競合が数少ない分、相手を意識せずに自由な発想で商売できるからでしょう。
実は婚活でも、これと同じことが言えます。
表をご覧ください。これはある結婚相談所が昨年、25~39歳の未婚女性に行なった「未婚女性に人気の男性の職業」調査(13年 パートナーエージェント調べ)。
これによると、同率(27.3%)で1位に輝いたのは、「公務員」と「医療関係」の男性。
つまり職業別でいうと、この2つは明らかに、競争が激しい「レッドオーシャン」市場であろうことが分かります。
先のマナさんが一昨年、初めて参加した婚活パーティも、医師の男性限定のエグゼクティブな婚活パーティだった。
「会場に入った途端、『これじゃムリ!』って思った。失礼だけど、ライバルの女性たちの動きが、獲物を追う“トラ”みたいに素早くて……、私はあそこまで集中して闘えない、お金もかけられない、って気づいたんです」(マナさん)
私も以前、何度か「医師&弁護士限定」「年収800万円以上の男性限定」などと銘打った、エグゼクティブな婚活パーティを取材したことがあります。
参加女性のお金のかけ方がスゴイ
エグゼな婚活に参加する女性は、まず見た目からして違う。
美人とか背が高いという生来の見た目とは別に、洋服やバッグ、靴からネイルに至るまで、お金のかけ方が明らかにスゴイのです。
当然でしょう。競争が激しい市場で勝ち抜こうというとき、第一印象で見劣りしては意味がない。たぶん参加女性のほとんどがそう考えるので、1対1でお見合いするとき以上に、「周りに負けまい!」と見た目に磨きがかかる。
さすがに「公務員限定」の婚活は、そこまで派手ではない。
一方で震災後、「高収入より安定を」と考える女性が目に見えて増え、公務員人気がうなぎ昇りなのも確かです。
マナさんのように、どちらかというとおとなしい女性は、露骨に女同士が火花を散らす会場に飛び込んだだけで、気後れしてしまう。
自分の本当の良さをアピールできずに時間切れ、となるケースも少なくないのです。
ではマナさんは、婚活を諦めたほうがいいのか? そうは思いません。理由は2つ。
1つは、彼女は「自分が、自分が」と目立とうとはしないものの、趣味や話題が豊富で、30分ほど話していると、次第に魅力が感じられるタイプだから。
こういう性格の女性は、お見合いよりむしろ、似た価値観の男性が多く集まる婚活パーティで、広く網を張るほうが有利です。
もう1つは(多少の語弊を恐れずに言うと)、マナさんが「売る相手」や「売る市場」を変えれば、すぐに売れるだろう商品だから。
3つのブルーオーシャン市場とは
マナさんをTシャツにたとえれば、ディズニーキャラクターではなく、オシャレなドクロマークのシャツ。個性的でちょっと尖んがった、でもそのテイストが好きな人から見れば、非常に魅力的な存在です。
こういうTシャツを六本木の高級ブティックで売ろうと思っても、まず売れない。東京駅・駅ナカの人気ショップで販売しても、通行人が多い割には、その良さに気づく買い手は少ないかもしれません。
でももし、個性的でちょっと尖んがった人が集まる街、たとえば下北沢や吉祥寺の雑貨店で売り出してみたら……。
このTシャツのテイストに共感して、「僕も欲しい」「売ってくれ」となる男性も、予想以上にいるはずですよね。
ここで再度、「ブルーオーシャン戦略」に立ち返りましょう。
私は12年、拙著『「ゆるオタ君」と結婚しよう!』で、婚活における次の3つのブルーオーシャン市場を提案しました。
1. ゆるオタ君(アイドルオタク、鉄道オタクなど、ゆるいオタク男性)
2. 年の差男性(10歳前後年上、あるいは年下の男性。含:バツイチ、バツニ)
3. 外国人男性
婚活女子の誰もが狙いたがる、「公務員」「高年収男性」といったレッドオーシャン市場に対し、個性的な1~3のような男性は、いわゆるブルーオーシャンです。
私の夫も「1(ゆるオタ君)」寄りの理系男子ですが、このタイプの男性は相対的に見ると、まだ魅力に気づく競合が少ない。
マナさんが既存市場で“血で血を洗う”争いを繰り広げたくなければ、比較的競争がゆるい、1~3のようなマーケットを狙うほうが有利です。
安く、近く、時短の婚活
その場合、たとえば「ゆるオタ君」狙いなら、いまは「オタ婚活」と呼ばれるような、オタク男女が集まる婚活がある。Facebookやmixiのコミュニティでも、“趣味”を軸に異性同士つながるチャンスは広がります。
そしてもう1つ。ブルーオーシャンの特徴が、「アクション・マトリクス」という考え方。
対象となる市場に合わせて、要らないものを取り除いたり、逆に必要とされるものを付け加えたり、と4つのアクションを起こし、自分の魅力を再構築して“新たな価値”を見出すこと。
これに当てはめると、「ゆるオタ君」や「オタ婚活」市場において、マナさんが打ち出すべき価値が、ぼんやり見えてくるはずです。
俯瞰すると、マナさんはいまのように、婚活に年30万円以上かけずに済むことが分かる。高価なワンピースやネイルなどに、むやみにお金をかけなくても良くなります。
同時に、「みんながいいって言うから」「なんとなく」、人気の高いレッドオーシャンな婚活にも行かなくていい。その分、新たな価値を武器に、自分と趣味趣向の合う男性を穏やかに探すことができるはずです。
ブルーオーシャンに学ぶ、婚活戦略。それはすなわち、無駄なお金と労力をかけず、自分に近い相手を、短時間で探し出す、「安・近・短 婚活」への近道でもあるのです。
1968年、東京都生まれ。大手出版社勤務ののち、フリーライターとして独立。 2001年、マーケティング会社インフィニティを設立。定量的なリサーチとインタビュー取材を徹底的に行い、数々の流行キーワードを世に広める。『アラフォー独女あるある!図鑑』(扶桑社)など著書を多数執筆する一方で、雑誌やテレビでも活躍。10月末『大人が知らない「さとり世代」の消費とホンネ』 (PHP研究所)が発売。12月5日『「バブル女」という日本の資産』(世界文化社)が発売に。財務省財政制度等審議会専門委員。