自分の能力は努力次第で伸ばせるのか。脳科学や行動経済学に詳しい明治大学教授の堀田秀吾氏は「人にはそれぞれ才能や能力があるが、『1万時間かければプロになれる』という言説に一石を投じる研究結果が出た。それによると、努力よりも人の能力に影響しやすい要素がある」という――。

※本稿は、堀田秀吾『5日で自分の才能が見つかる本』(祥伝社)の一部を再編集したものです。

オフィスの窓から腕を組んで外を見ている男性
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勘違いしがちな「才能の正体」

才能と聞くと、つい1人でがんばる姿を思い浮かべます。1人でコツコツ何かを極めた人や、1人で表現を磨き続けた人。そんな絵が頭に浮かびます。でも、性格的強みの研究を見ていくと、才能をうまく使えるかどうかは、人とのつながりの良し悪しと深く結びついていることが分かってきます。

アリエル大学のボイマン=メシタとリットマン=オヴァディアは、177組の夫婦に協力してもらい、性格的強み(VIA測定で診断される24の特性)と夫婦仲の良さとの関係をアクター・パートナー相互依存モデルという統計手法で調べました。

これは、夫の強みが夫自身の満足度にどう効くか(アクター効果)と、夫の強みが妻の満足度にどう効くか(パートナー効果)を同時に見られる便利な道具です。関係性を調べる研究で力を発揮します。

先行研究の因子分析によって、24ある性格的強みのうちの17を次の3つの大きなまとまりに整理することができます。

1つ目は「ケアリング(caring)」。親切心や愛情、感謝、チームワーク、社会的知性、リーダーシップといった、人と人を温める性質の集まりです。

2つ目は「セルフコントロール(self-control)」。誠実さや慎重さ、自己統制、忍耐力、そして謙虚さといった、自分をしっかり手綱で握る性質の集まりです。

3つ目は「探究心(inquisitiveness)」。好奇心や創造性、熱意、勇敢さ、希望や学ぶ楽しさといった、世界を探っていく性質の集まりです。

強みが発揮できるかは「人との関係性」次第

分析からは、面白い形が見えてきました。3つの強みのまとまりは、どれも本人の夫婦満足を高めるアクター効果が確かめられました。しかもパートナー効果も働いていて、相手の夫婦満足度の高さとも結びついていたのです。

ただ、その広がり方は男女できれいに対称ではありませんでした。たとえば男性の好奇心や自己統制は、女性の夫婦満足度の高さとしっかり結びついていました。一方で、男性の温かさ(ケアリング)が女性の満足に及ぼす効果は、思ったほどはっきりしませんでした。強みがどう伝わるかは、相手と場面の組み合わせ次第なのです。

ここで、才能の見方を少しずらしてみます。最初にお話しした「1人でがんばる才能像」は、じつは本当の姿とぴったり重なるわけではありません。本人の持ち味は、本人の中だけで終わらず、まわりの人の状態まで変えていく波になって広がります。

たとえば「学ぶ楽しさ」を強みに持つ人は、家庭の話題に新しい本や面白い動画を持ち込みます。すると配偶者もその刺激を受けて、自分の興味の世界が少し広がるというのが、パートナー効果の正体です。

逆の見方もできます。

職場でも「誰と組むか」が重要

自分の持ち味を活かせる相手や場面にまだ出会えていない人は、強みがまだ「波」になりきれていない、と言いかえられます。

同じ「好奇心」という強みでも、それを一緒に楽しめる相手の前では、アクター効果とパートナー効果の両方が働き、関係そのものの質を引き上げます。反対に、好奇心をうっとうしがる相手の前では、せっかくの強みも活きません。才能は、誰と組むか、どんな関係の中で使うかで、その効き目が大きく変わるのです。

これは夫婦の話に限りません。職場の上司と部下、サークルの先輩と後輩、SNS上の発信者とフォロワー。この研究が調べたのは夫婦だけですが、同じ仕組みが他の関係でも働いていると考えてもそれほど無理はないでしょう。

自分の強みが空回りしているように感じるとき、それは強みそのものがダメなのではなく、強みが広がっていく相手や場面がまだ見つかっていないだけということがよくあります。

自分の持ち味を磨くことと、その持ち味を活かせる関係を選ぶことは、別々の作業ではなく、ひとつながりの作業なのです。

握手しているビジネスマン
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1万時間かければ本当に一流になれるのか

では、才能は生まれつき決まっているのでしょうか。それとも、努力であとから身につくものなのでしょうか。

とても古い問いですが、いまだに答えが出ずに論争が続いています。1万時間練習すれば誰でも一流になれるという人もいます。いやいや、生まれ持った素質ですべてが決まるのだという人もいます。この対立に一石を投じてくれた双子の研究を紹介します。

カロリンスカ研究所のモシングらは、スウェーデンの双子レジストリに登録された約1万500名の双子を調べました。1人ひとりについて、音楽の練習時間と音楽の力のつながりを分析したのです。

双子の研究は、生まれつきの影響と育った環境の影響を分けて見るのにぴったりの方法です。遺伝子をほぼ100%共有する一卵性双生児と、約半分を共有する二卵性双生児をくらべます。2組の似ぐあいの差を見ると、その性質がどれくらい遺伝で決まっているかを見積もれるのです。

モシングらは、「もし練習が音楽の力をぐんぐん伸ばすのなら、同じ家庭で育った一卵性双生児のうち、たくさん練習したほうが力も高くなるはずだが、本当にそうなっているのか」という問いを立てました。

この分析から、世間で広く信じられている「練習がすべて」というお話を大きく揺さぶる結果が出てきます。

練習量自体を左右する「要素」

まず1つ目。練習量それ自体が、遺伝で40〜70%説明されることが分かりました。音楽を何時間練習するかという行動そのものに、強い遺伝の土台があるのです。つまり「練習を続けられるかどうか」さえも、生まれ持った素質の影響を受けているということです。なんとも考えさせられる発見ですね。

2つ目は、もっと決め手になりました。一卵性双生児どうしのくらべ方です。同じ遺伝子を持ち、同じ家庭で育った一卵性双生児のペアの中に、練習量が大きくちがう組がありました。生涯の練習時間の差が最大で2万時間を超える組さえあったのです(一流の音楽家が生涯に積む練習量を上回る差です)。

もし練習が力を伸ばすのなら、同じペアの中で力に差が出るはずです。ところが一卵性双生児どうしでは、練習量の差の大きさは、リズム・メロディー・ピッチを聞き分ける力の差を説明する理由にはなりませんでした。たくさん練習したほうの子が、よく聞き分けられるようになっていたわけではなかったのです。

3つ目。練習量と音楽の力は、ぱっと見には、一方が増えると、もう一方も増えるという結びつきがありました。ところが遺伝の影響を計算で取りのぞいてみると、このつながりはほとんど消えてしまったのです。

ここから見えてくる才能の考え方は、「遺伝か、経験か」のどちらかではありません。「遺伝が、経験の質まで形づくっている」という見方です。素質のある人は練習を続けやすく、続けやすい人はさらに上達しやすい。素質と練習は、ぐるぐると回りながら切り離せないつながりになっているのです。

DNAの二重らせん
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「向いているな」と感じる場所を探しておく

とはいえ、がっかりすることはありませんよ。モシングらの研究が教えてくれるのは「練習に意味がない」ということではありません。「練習だけで素質を上回るのは難しい」「自分の素質が活きる場所を選んで、そこで練習を積むのがいちばんむだがない」という、地に足のついた手がかりです。

もう少し分かりやすく言いますね。音楽の例で見るかぎり、練習という行いそのものは、素質をひっくり返す魔法ではありません。素質を表に出すための道具として働いているのです。

堀田秀吾『5日で自分の才能が見つかる本』(祥伝社)
堀田秀吾『5日で自分の才能が見つかる本』(祥伝社)

素質と練習は、トランプの絵札と数字札のようなものです。それぞれ違う役割を持ちながら、同じ手の中にあって、組み合わさってはじめて意味のある手になります。素質だけでは札が伸びず、練習だけでは札が薄い。自分の素質に合った場所で練習を積むことが、いちばん強い手になるのです。

別の言い方をすると、自分が「向いているな」と感じる場所をざっくり探しておくと、そのあとの練習の効きめが何倍にも変わるということでもあります。

素質と関係のない場所で1万時間練習しても、その時間は、素質に合った別の場所での1000時間に届かないかもしれません。だからまず、自分の素質と相性のいい場面を探す。この順番こそが、いちばん理にかなっているのです。