0歳児対象の「愛知方式」とは?

「不妊治療」から「養子縁組」を考える方のほとんどが、「赤ちゃんを」と望みます。また子どもにとっても、最初から「家庭」という場で育てられるのが望ましいわけです。

そこで愛知県が30年前から取り組んでいる愛知方式という0歳児を対象とした養子縁組制度が注目されています。

私も日本財団で開かれたシンポジウム「すべての赤ちゃんに愛情と家庭を」で初めて愛知方式を詳しく知りました。

乳児院にいる赤ちゃんは約3000人。その半数が親元に戻る見込みはありません。しかし、養子縁組がすすまないまま、児童養護施設に預けられ長期間過ごすことも珍しくありません。

愛知県の児童相談所が30年以上実施している「愛知モデル」と呼ばれる赤ちゃん縁組や民間団体による特別養子縁組があります。テレビなどでも取り上げられていますが、愛知方式はこのような仕組みです。

1)妊娠をして、自分は育てられない女性がいるという連絡が児童相談所などに入る。妊娠中からの相談を受ける。
2)すでに里親登録をし、特別養子縁組を希望している夫婦に連絡
3)妊娠中の実親と病院で対面することもある。生後5,6日で退院する時点では里親が決まっている。
4)乳児院を経ず直接家庭へ。

これは新生児を「特別養子縁組前提で里親委託する」という方式なので「新生児里親委託」と呼ばれる取り組みです。この方式で愛知県は31年間で160組の縁組を成立させています。

赤ちゃんの性別は選べませんし、障害があってもきちんと育てること、また民法上の手続き(戸籍上の養子縁組)が済む前に産んだ母親が意志を変えれば、その時点で赤ちゃんを返すことなど、いろいろな確認があって成立するものです。

また望んで登録しても、すぐに赤ちゃんが来る場合もあれば、何年も待つこともあるそうです。即養子縁組ではなく、家庭裁判所に認められ、正式な親子になるまで時間もかかります。

全国で毎年養子縁組される子どもは300組、でも妊娠時からの相談は珍しい。この方式が全国でも類を見ないスピーディなマッチングで、親にとっても子どもにとっても養親にとっても、さまざまな幸福を生み出していることは間違いないでしょう。

養親候補になるための要件

日本財団ハッピーゆりかごプロジェクトでは相談会も開かれていました。非常にわかりやすいので、下記にこの方式に応募する方に何が求められるのかをHPより転載しておきます。
http://www.nippon-foundation.or.jp/news/articles/2013/32.html

説明会応募要件

●婚姻届をしており特別養子縁組を希望する夫妻であること
●夫妻とも原則として45歳までであること

尚、養親候補となる要件は、児童相談所と民間団体で違いがありますが、一般的な条件として下記の例が挙げられます。

●健康で安定した収入があること
●共働きの場合、一定期間夫妻のどちらかが育児に専念できること
●子供の性別は問わないこと。
●病気、障害の有無を問わないこと。
●子供への真実告知を必ずすること。

「不妊治療」で子どもが望めないからといって簡単に「養子縁組」という選択ができるわけではない。人ひとりの命と未来を預かるわけですから、相応の環境や覚悟が求められます。不妊治療から養子縁組までをブログなどに綴る人がたくさんいますが、「不妊治療よりも大変で低い確率かもしれない」と嘆く声もあります。それだけ苦労した分子どもが来たときは、「ありがとう」という感謝と喜びの気持ちでいっぱいになるそうです。

こんな子育てのかたちもある

不妊治療をあきらめた女性が以前言っていました。

「子どもの虐待死などのニュースを観る度に、なぜ私のところに産まれてきてくれなかったの? と情けない、やるせない気持ちがおさえられないんです」

しかし、産まれてこなかった運命だったとしても遅くはない。世の中には「育てられない人」がいて、「育てたい」と思う人たちがいるのです。双方ニーズがあるのに、マッチングのシステムが人出不足、資金不足で機能しないのはあまりにも悲劇です。愛知方式が全国に広まることを願わずにはおられません。

ドラマ「明日、ママがいない」を見て、また不妊治療をしながら関心を持ったら、ぜひ「児童養護施設にいる」子どもたちにも目を向けてほしいと思います。

彼らのためにできることはたくさんあります。直接知っている人がやっている試みを紹介しておきます。

18歳になると子どもたちは施設から出て自立しなくてはいけません。その旅立ちを支援する団体「カナエール」 http://www.canayell.com/lp/

児童養護施設の子どもたちを応援するクラウドファンディングの仕組みを作った「Living in Peace」 http://www.living-in-peace.org/chancemaker/result/

ファザーリングジャパンをつくった安藤哲也さんが取り組む「タイガーマスク基金」 http://www.tigermask-fund.jp/

などです。いずれも継続的な寄付でさまざまな支援をすることができます。私も子どもがいない未来を悲観することはありますが、このような試みを応援することも「自分なりの子育て」なのかもしれないと思っています。

白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、昭和女子大女性文化研究所特別研究員、大学講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)