不妊治療後の選択肢
児童養護施設を舞台とした日本テレビのドラマ「明日、ママがいない」は放映開始から、「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」を運営する慈恵病院(熊本市)や全国児童養護施設協議会により「関係者への人権侵害」と抗議を受けています。スポンサーがCMを中止しACの広告に差し替えられるという異例の事態の中、放映が続いています。
話題になることで更にドラマに注目が集まるという皮肉な結果となっていますが、不妊治療中で「いつかは養子という選択肢もあるかもしれない」と思っている人、また「独身でも養子という形で子どもを持てる可能性はないだろうか?」と思っている人には見過ごせないものではないでしょうか?
「不妊治療がダメだったら養子縁組という選択肢も考えているの」
そんな声は必ずあります。同時に「養子は何年も待たないといけない」「赤ちゃんを養子にするのは難しい」という話もよく聞きます。なぜ、望む人は多いのに、このような事態が起きるのでしょうか?
ドラマでは児童養護施設で暮らす子どもたちが養子縁組を待ち望むシーンが出てきますが、なぜ赤ちゃんを望む人たちが多い一方で、施設で年齢を重ねる子どもがいるのか?
それは今施設にいる子どもたちの多くは、天涯孤独などではなく、ちゃんと親がいるからです。
「児童養護施設は、日本全国に約580施設あり、1歳から18歳までの約3万人の子どもたちが暮らしています。そのうち、実の両親がいるのは全体の23%、実の母親のみは35%、実父のみは16%となっています」(Living in Peace,inc HPより)
親と暮らせない理由の多くは虐待です。しかし、虐待を繰り返す親でも子どもを手放す決意はできない。子どもも実の親が迎えに来てくれるのを待っている。虐待で保護され、親とは別な場所で育っても、子どもたち全員が養子に出られるわけではないのです。
虐待の背景には、その家庭の陥っている経済的な苦境という問題も見え隠れします。
しかし、施設は職員がいくら心を砕いて世話をしてくれても、一般家庭とは違います。その点で注目されるのが、里親家庭に委託されて育つという環境です。欧米では、「子どもの育成には家庭的な環境を」と、すでに里親家庭に受け入れられて育つ子どものほうが多いのですが、日本では施設3万人に対して、里親家庭などでの受け入れは3000人程度だそうです。
養子と里子の違い
ここで養子、里親の区別を簡単に説明します。
養子には2種類あり、「普通養子縁組」は年齢制限はありません。対する特別養子は「原則6歳未満」が対象です。この場合は養親からの離縁はできず、実の親は親権を放棄します。戸籍にも実子と記載されます。この記事は養子で子育てをしたい人のために書いているので、以降はこの「特別養子縁組」を養子と思って下さい。
さらに「里親制度」があります。養子縁組との違いは、戸籍上の親子関係、親権が生じるかどうかです。里親は親戚などに委託される私的里親と、国と地方自治体から児童を養育するのに充分な養育費と里親手当てを受給して、児童相談所から委託された要保護児童を養育する「養育里親」「専門里親」などがあります。また地域によっては「週末里親」などの制度もあります。
「私たちは赤ちゃんを抱っこしたいんです。なぜ大きな年齢の子どもの話や里親が関係あるのですか?」
という方、ちょっとお待ちください。実はこの話は重要なのです。まず赤ちゃんを養子にするのは、なかなか競争率も激しく、厳しい条件があること、そして養子がほしいと思った方はまず行政の「里親登録」をすることが望ましいからです。
この問題に詳しい特別養子縁組の情報支援をする“ハッピーゆりかごプロジェクト”メンバーの大葉ナナコさんは、「養子がほしいと思った親がまずすることは?」という問いにこう答えてくれました。
「まず、特別養子縁組あっせん団体が、養親候補の方から相談を受けると、行政の里親登録をしているかを聞きます。年収や前科がないかなど、子どもを託してよい夫婦かを確認されるのです」
養子はどこからもらうのかというと、私的な関係から、または民間のあっせん団体、児童相談所などがありますが、民間のあっせん団体でも「里親登録」をしているかどうか確認します。確認しない団体もありますが、むしろ「里親登録を求める団体は良心的」ということです。行政のおすみつきで「子どもを託しても大丈夫」という意味があるからです。まずは里親の会などに通って体験者の話などを聞き、意志があれば面接を受けます。里親にふさわしいと判断されれば、家庭訪問、研修等を経て、週末里親として子どもを委託される役割を求められることもあります。養子目的の人が多いのですが、里親としての役割が果たせるかどうかも、登録への判断材料になるようです。
養子縁組は子どもの福祉という観点ですから、子どもを託すにふさわしい環境かどうかは厳格に審査されます。
養子縁組に有利な条件
それでは養子縁組にふさわしい条件とは何でしょう?
以前野田聖子さんが講演で「養子縁組」という可能性を考えたが「年齢とわたしが仕事を持っていることで無理だった」という発言をされていました。
これは民法の規定に載っているわけではありません。極端にいえば、独身者が養子をとってはいけないという法律もありません。しかし、養子がほしい、特に小さな子どもがほしいという人たちが待機をし、競争率の高い現状では「高年齢、共働き」は不利になります。独身ももちろん同じです。
養子あっせん団体のHPなどを見ますと、だいたい「子どもとの年齢差は40歳」となっています。つまり「不妊治療をあきらめてから……」と思って40代、50代になると、どんどんチャンスが減ってしまうのです。決意をするなら早いほうがいいということでしょう。
共働きも「子どもの福祉という観点から「ずっと保育園に預けっぱなしというのは困る」ということになります。婚姻届をしている夫婦であること、子どもとの年齢差が40歳未満であること、一定期間夫婦のどちらかが育児に専念できること……だいたい、このような条件が有利になります。
しかし欧米では共働きの夫婦も普通に養子をとっています。日本の状況は時代遅れではと思うのですが、あくまで選ぶのは先方なので異を唱えても始まりません。大葉さんによれば「児童福祉の制度なので、ハードワーカーの共働き夫婦は、児童福祉の文脈だと戦力外となります。でも、育児休暇をとったり、祖母が同居であったり、子どもが幼稚園や保育園で遊ぶのが好ましい年齢の子どもの特別養子縁組なら、仕事を持つ親でも、子連れで働く日があるスタイルでも可能だと思います。0歳児でもパパがフリーランスで縁組が成立した方々もいるかもしれません」ということです。これもご縁なので、40歳を1歳過ぎても0歳時の養子はダメとか、それほど厳密なものではありません。
また里親として預かった子どもが、15歳以上になってから子どもの意志で養子縁組(普通養子縁組)をするという場合もあります。
しかし実際に児童相談所のあっせんによる2歳未満の養子縁組はほとんどすすんでいない状況です。まず親が親権を放棄しないこと、また養子縁組のマッチングは時間と人員が必要で、虐待問題で手いっぱいの相談所が、なかなかその業務に時間を割けないこと。また障害などの有無が判明する2歳時未満のあっせんには「積極的でない」ことなどが理由となります。(障害がわかって子どもを返したいという親御さんもいるからです)
なぜ、ドラマの芦田愛菜ちゃんのような乳児からいる子どもが(愛菜ちゃんの役は赤ちゃんポストに託された子どもという設定です)、養子にならず、施設にいるのか、ドラマの背景がおわかりいただけたかと思います。
少子化ジャーナリスト、作家、昭和女子大女性文化研究所特別研究員、大学講師
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。講演、テレビ出演多数。経産省「女性が輝く社会のあり方研究会」委員。著書に『女子と就活』(中公新書ラクレ)、共著に『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』(講談社+α新書)など。最新刊『格付けしあう女たち 「女子カースト」の実態』(ポプラ新書)。