■編集部より指令

企業の人事担当者はよく、「採用の際に実力だけで選んでいると、女性ばかりになってしまう」なんて言います。それくらい、優秀な女子大学生は多い。

ところが、ポジションに差がつき始める10年後、男性の昇進のほうが明らかに早いという結果になっています。

組織内での教育のしくみ、本人のモチベーションなど理由はいろいろあると思いますが、女性が入社後も成長し続けるためのコツを教えてください。

■大宮冬洋さんの回答

優秀な女性が出世競争に負ける理由 -出世競争・男の言い分
http://president.jp/articles/-/11866

■佐藤留美さんの回答

日本の会社が悪い

なぜ、女性は伸び悩むのか――。

それは、単刀直入に言って、日本の会社が、女性を伸び悩ませているのが原因だと思います。

人事の専門家の間では、日本の正社員に置かれた状況は「三無」だといいます。

仕事が選べない、勤務地が選べない、労働時間も選べない――。

その証拠に、日本の会社は、本人の希望は無視して、営業から広報、広報から人事なんて職種をまたいだ異動は常識です。

遠くアフリカに飛ばされるのでさえ、内示が出るのは1カ月前なんて会社もザラにあります。

このような会社の無茶がまかり通ってきたのは、ひとえに、ここ日本では、長いこと夫が会社で働き、妻は家庭を支えるという「夫婦分業モデル」があったからこそ。言い換えるなら、日本の男性サラリーマンが、モーレツ社員をやってこられたのは、彼らの背後に育児も家事も全部やってくれた妻がいたからにほかなりません。

一方、女性総合職は、一般的に、結婚し出産すると家事育児など家庭責任から逃れることはできません(“主夫”がいる人は別ですが、それはまだまだ特殊ケースです)。

つまり、女性社員は、男性社員と比べ、最初から負けが込んだ戦に挑んできた――だからこそ、女性は出産や転勤を機に泣く泣く退社する女性、出産を機に仕事をペースダウンせざるを得ない女性が多いのです。

日本の会社に、女性が働きやすい風土ができていれば(明確な職務範囲の規定や、アウトプット評価、会社に出たり入ったりできる制度など)もっと女性は活躍できるはずです。

クオータ制は問題あり

ただ、最近よく聞くクオータ制(女性管理職を30%にするなどの数値目標)に代表されるような、女性の評価や出世に下駄をはかせる動きは、いかがなものでしょうか。

今、ある組織が政府にこんな提言をしています。

まずぶち上げたのが、女性社員は入社5年以内にリーダーに登用せよというプランです。

女性が、妊娠・出産などを経験する前に、3つの部署をジョブローテーションさせて、経験の幅を広げ、実績を作らせろ。仕事の面白さを味わい、リーダーシップを獲得する訓練をせよ。

そして女性社員は30代になると出産を経験し育休や短時間勤務制度を取得してキャリアが停滞する人が多いから、管理職登用の選抜から落とさぬよう、約2年分の仕事を1モジュールとして区切りとし、5モジュール経験した女性社員は基本、全員、管理職に登用せよ、というのです。

つまり、女だったら全員、入社5年で主任か係長にあげろ、合計して10年働いた者は課長以上にしろ、と言っているのです。

仮に、こんな究極の“不正出世”がまかり通ってしまっては、「頑張るものは報われる」という評価の前提が崩れ、会社のモラルはみるみるうちに瓦解してしまうでしょう。

また、えこひいきされた女性陣は、不遇をかこつ男性社員から、どんな復讐をされるかもわかりません。

女にだって、野心も出世欲もある

私は、男性の専売特許のように思われている野心も出世欲も権力欲も、女性にだってちゃんとあると思っています。

そして、女性も、自分の頑張り次第で、野心も出世欲も権力欲も満たせる会社であり世の中になって欲しい。

しかし、出世や権力は、実力で勝ち取るべきものです。

地位や仕事を手に入れることとは、自分の能力との戦い、醜い足の引っ張り合いなど、壮絶なサバイバルゲームに参加することです。

男性は、何十年も、このゲームに悩まされ、疲れ果ててきました。

女性も、男並みに活躍したかったら、目標を達成することの快感やエラくなることで得られる自由を手に入れると同時に、男性が長らく味わってきたサバイバルの厳しさ、悲しさをも味わうべきです。

また、望みの地位や仕事を手に入れた後の、責任と孤独をも引き受けるべきだと思います。

それは、女性たちにとって不幸なことだとは思いません。

「組織で成長していく」ということの、当然のなりゆきだと思います。

佐藤留美
1973年東京生まれ。青山学院大学文学部教育学科卒。出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年、企画編集事務所「ブックシェルフ」を設立。20代、30代女性のライフスタイルに詳しく、また、同世代のサラリーマンの生活実感も取材テーマとする。著書に『婚活難民』(小学館101新書)、『なぜ、勉強しても出世できないのか? いま求められる「脱スキル」の仕事術』(ソフトバンク新書)がある。東洋経済オンラインにて「ワーキングマザー・サバイバル」連載中。