■編集部より指令

企業の人事担当者はよく、「採用の際に実力だけで選んでいると、女性ばかりになってしまう」なんて言います。それくらい、優秀な女子大学生は多い。

ところが、ポジションに差がつき始める10年後、男性の昇進のほうが明らかに早いという結果になっています。

組織内での教育のしくみ、本人のモチベーションなど理由はいろいろあると思いますが、女性が入社後も成長し続けるためのコツを教えてください。

■佐藤留美さんの回答

女の野心、出世欲、権力欲 -出世競争・女の言い分
http://president.jp/articles/-/11867

■大宮冬洋さんの回答

男性は仕事にその全存在をかけている

語弊を恐れずに言いますと、女性は男性と比べると仕事に対する覚悟というか必死さが足りないと思います。「そんなことはない。隣の席で鼻毛を抜いているぼんやり君よりも私のほうがはるかに真面目に働いている!」と、反論の声が聞こえてきそうです。

ちょっと待ってください。僕が言っている「必死さ」とは、勤勉さや優秀さのことではありません。

家事労働以外の仕事について、男性はその全存在を賭けています。仕事ができないオレ=男性としての価値が低いオレ、と感じてしまうのです。

あなたの周りにいる男性で、自他ともに認める「仕事のできない男」なのに自信に満ち溢れて魅力的な人はいるでしょうか? 少なくとも僕の周りにいません。自分を含めた男性を定点観測していると、仕事が順調なときは元気になって社交性も向上し、不調になると魚の腐ったような目になって卑屈な発言を繰り返します。それほど仕事は男性のアイデンティティに直結しているのです。

バカですね。でも、気がついたら体に染みついてしまっている価値観なのです。余裕のなさ、視野の狭さ、人生観の稚拙さ、などと言い換えることもできます。

女性には見えてしまう組織の「バカバカしさ」

それに比べると、女性は「仕事は大事だけど人生のすべてじゃない」と割り切っている人が多いと感じます。正しい認識ですね。でも、それでは出世競争に負けてしまいます。

総合商社に勤めていたAさんから聞いた話です。Aさんは同期で数人しかいない女性総合職で、男性社会である商社の雰囲気にもよく馴染み、新人ながら優秀だと上司から評価されていました。あるとき社内留学制度に手を上げたところ見事に合格。エリート街道が半ば約束されていました。

しかし、同じタイミングで留学しようと試みて不合格になった同期のBさん(男性)が激しく嫉妬。「Aは外資系金融に転職しようと思っていて、留学はそのステップだ」という噂を上層部に吹き込んだそうです。その噂を真に受けた上司の一人からAさんは「尋問」を受け、あまりのバカバカしさに本当に転職をしてしまったのでした。

出世には、政治力が必須

こんなアホ会社で出世をしても「成長」とは言えないのかもしれません。でも、権力闘争がとりわけ盛んな総合商社ほどではないとしても、いろんな人間が集まって仕事が遂行される場では、小学生レベルの嫉妬や讒言、媚び、派閥、えこひいき、いじめが表出することが少なくありません。ポジションの上昇を成長と考えるならば、このようなくだらなさにも本気で向き合って戦い抜く政治力が必須なのです。

くだらない状況に直面したとき、仕事に必死な男性はなりふり構わず勝ち抜こうとするでしょう。自らの品位を貶めるような行為を厭わない人もいます。一方で、優秀な女性ほど客観性や分析力を備えているので、あまりの子どもっぽさに気持ちが冷めてしまいます。そんなことまでするぐらいなら、転職したり独立しても生きていけると考えるのです。まあ、実際に生きていけるんですけどね。

個人的には、男性と同じように女性も仕事に必死になって出世すべきだとはあまり思いません。そんな社会はギスギスして疲れるからです。アホな出世競争は僕たち男性に任せて、女性は人生の豊かさを思う存分に享受して、ときどき僕たちに教えてほしいと思います。「仕事がすべてじゃないのよ」と。

大宮冬洋
1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリング(ユニクロ)に就職。退職後、編集プロダクションを経て、2002年よりフリーライターに。ビジネス誌や料理誌などで幅広く活躍。著書に『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ぱる出版)、共著に『30代未婚男』(生活人新書)などがある。
実験くんの食生活ブログ http://syokulife.exblog.jp/