※本稿は、和田秀樹『ラーメンと健康 「炭水化物=悪」ではない』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
“終戦直後より低栄養”な20代女性
日本のカロリー不足を語るうえで、最も深刻なのが若い女性の低栄養です。厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査」によれば、20代女性の1日の平均摂取カロリーはわずか1680kcal。これは「食糧難で十分に食べることすらできなかった終戦直後の日本人」を下回る数値で、現代の先進国とは思えない状態です。
必要量から見ても大きく不足し、なんと5人に1人がBMI18.5未満の痩せすぎに該当します。たんぱく質も脂質も、そして細胞の材料となるコレステロールも不足し、体を動かすエネルギーは枯渇寸前。見た目には気づきにくいですが、これは医師の立場から見れば「静かな飢餓」と呼ぶほかありません。では、この低栄養はどれほど若い女性の体をむしばんでいるのか。詳しく見ていきましょう。
体がエネルギー不足に陥ると、生命維持に必要性の低い部分から栄養がカットされます。
最初に犠牲になるのが美しさです。肌はカサつき、くすみやシワが目立つようになります。髪はツヤを失って細くなり、抜け毛も増えていきます。さらに、爪も栄養が行き届かなくなるため、弱く割れやすくなり、若さの象徴である部分が次々と老化していくのです。
痩せる努力が、太りやすい体を作る
さらに重大なのは、こうした見た目の変化だけでなく、体の内側で代謝機能が落ちてしまうことです。体はエネルギー不足になると、筋肉を分解してエネルギーに変え始めます。
筋肉が減れば基礎代謝は下がり、1日の消費エネルギーも低下。その結果、少し食べただけでも脂肪を溜め込みやすい体質へと変わっていくのです。つまり、痩せるための食事制限が、逆に太りやすく痩せにくい体を作りだしているというわけです。この残酷なメカニズムに、今まさに多くの若い女性が巻き込まれているのです。
低栄養が引き起こす影響は、肌荒れや髪の老化に留まりません。冷え性、月経不順、慢性疲労、集中力の低下、さらには抑うつ傾向まで出てきます。これはもはや美容の話ではなく、れっきとした健康問題と言えるでしょう。
このような「痩せすぎ信仰」は、もはや社会問題です。ヨーロッパでは、痩せすぎのモデルを広告やショーに起用することに法的規制を設ける国がいくつもあるほど、この問題は深刻視されています。にもかかわらず、日本では依然として健康とは到底言えない細さが理想として提示され続け、若い女性が危険なダイエットに追い込まれています。私はこの歪んだ社会構造を、医師として強い危機感と怒りをもって見ています。
「痩せすぎ」は不健康の象徴である
だからこそ、若い女性には、きちんと食べる勇気を持ってほしいのです。深刻なエネルギー不足を避け、良質な脂質やたんぱく質を十分に摂ることで、ホルモン産生や細胞の機能が正常に維持されやすくなります。こうした栄養状態の全体的な改善こそが、実は最も確実に美しさを保ち、健康を守り、将来の人生を支える方法なのです。
未来の自分のためにできる最大のセルフケアは、何かを我慢することではありません。まず「しっかり食べる」ことから始まるのです。
カロリー不足の影響は筋肉や皮膚といった外見の問題に留まりません。脳のパフォーマンスにも深刻なダメージを与え、エネルギーが枯渇した状態を放置すれば、心の不調さえ引き起こしかねないのです。
にもかかわらず、こうした危険性がほとんど顧みられず、メタボ対策という言葉だけが独り歩きしてしまっているのが、いまの日本の現状です。本来の目的を忘れ、「痩せている=健康」という短絡的な価値観だけが社会に定着してしまった。この点こそ、私は強い危機感を覚えるところです。
なぜなら、長寿研究や脳科学の視点から見れば、痩せすぎはむしろ不健康の象徴であり、脳の老化を早める最も危険な状態のひとつだからです。実際、日本人の死亡率を長期間かけて調べた大規模研究でも、痩せていることが健康的であるという根拠はどこにも示されていません。
「ふっくら」が長生きという研究結果
国立がん研究センターが、日本人男女約35万人を対象に行った大規模な調査(図表1)によれば、中高年の日本人において死亡リスクが最も低くなるBMIは「21~26.9」という広めの範囲であることが示されました。より詳しくデータを見ると、男性ではBMI25~26.9(いわゆる小太り)、女性では23~24.9の範囲で死亡率が最低となっており、現在の一般的な標準体重の目安(BMI22)よりも、やや「ふっくら」とした体型の方が長生きであるという驚くべき実態が浮き彫りになったのです。
一方で、BMI 18.5未満の「痩せ」に該当する層では、死亡率が男女ともに顕著に上昇するという事実を重く受け止めるべきです。
つまり、無理な食事制限をしてまで「モデルのような細さ」を追い求めることは、寿命の観点からも、脳と体のパフォーマンスの面からも逆効果になりかねないということです。
少しふっくらしているぐらいの方が、むしろ脳にとっても体にとっても生きる力を蓄えられる健康的な状態です。だからこそ、過度なダイエットは禁物なのです。
本書で述べた「血管のしなやかさ」「意欲の源となるホルモン」「栄養の通信簿アルブミン」の重要性を、何よりも力強く証明しているのが、柴田博先生らによる「百寿者(センテナリアン)」の調査です。
長寿な高齢者ほど肉・魚・卵を食べている
柴田先生らが1972~73年にかけて行った、100歳以上の高齢者100名を対象とした訪問調査を振り返ると、驚くべき事実が見えてきます。当時、彼らの総エネルギー摂取量は約1000kcal と、日本人の平均と比較して半分程度でした。体格が小さくなり活動量が減ることを考えれば自然なことですが、問題は「何を食べていたか」です。
調査によると、当時の日本人平均と比較して、脂肪の摂取割合はほぼ同じ水準(図表2)でしたが、特筆すべきは、動物性たんぱく質の摂取割合が、一般の日本人より明らかに高かったという点です(図表3・4)。要するに、100歳を超えてなお元気な方々は、世間でイメージされがちな「野菜中心のあっさりした粗食」ではなく、肉や魚、卵といった動物性たんぱく質を日常的にしっかりと食べていたのです。
心身を支える材料が、元気な百寿者たちの食卓には溢れていました。彼らの生き生きとした姿は、まさに栄養状態の良さが長寿の基盤であることを体現しています。むろん、これらのデータは長寿者集団の実態を示したものであり、すべての年代に一律に当てはまるわけではありません。ただ、少なくとも老いを健やかに乗り越える段階においては、世間の「粗食信仰」に流されることなく、筋肉やホルモンの材料をしっかり摂ることが生存率と生活の質を守るための正解であることを、彼らのデータは雄弁に物語っています。
「ラーメン」は優れた栄養補完食
「塩分を控え、コレステロールを避け、痩せていることこそが正しい」という従来の健康観は、時に私たちの体を守るための材料を奪い、活力を削ぎ落としてしまうリスクをはらんでいます。
実のところ現代の日本人は、世代を問わず、「栄養バランスの偏り」という深刻な課題に直面しています。メタボリックシンドロームの影に隠れがちですが、実際には若い女性や高齢者を中心に、エネルギー摂取そのものが終戦直後と同程度の低い水準にまで落ち込んでいる層が確実に存在します。
ここで重要なのは、単なるカロリーの数字だけではありません。たとえ総エネルギー量は足りているように見えても、実は筋肉や血管、ホルモンの材料となる動物性たんぱく質や良質な脂質、そして代謝を助けるビタミン・ミネラルが決定的に不足している――こうしたエネルギーの質のミスマッチが、日本人の活力を奪っているのです。
こうした栄養の欠乏が起きている日本において、実は極めて優れた栄養補完食になり得るのが、ラーメンという一杯です。ラーメンはしばしば「高カロリーで不健康な食事」の代表格とされますが、一食としてのエネルギー量を見ると、醤油ラーメンでおよそ480kcal、味噌や豚骨でも550~600kcal前後。これは、1日の活動を支える食事としては決して過剰ではなく、むしろ質の高いエネルギーを効率よく補給するにはちょうどよい量なのです。
「たんぱく質ファースト」の鉄則
あらためて、その中身を分解してみましょう。スープには肉や魚介、野菜から溶け出したミネラルや脂溶性成分が含まれ、体が必要とする微量栄養素を無理なく補ってくれます。麺の小麦は脳のガソリンとなる糖質を供給し、チャーシューや味玉は、筋肉や細胞膜、そして意欲を支えるホルモンの材料となるたんぱく質とコレステロールをバランスよく提供してくれます。これほど多様な栄養素を、一度に、かつ美味しくまとめて摂れる食事は、実はそう多くありません。
それなのに、「ラーメンは体に悪い」と罪悪感を抱いてしまうのは、医学的に正しい情報というよりも、根拠のない制限思考が作り出した呪縛にすぎません。必要以上に脂質やカロリーを控え、結果として心身の調子を崩している人が少なくない現状を考えれば、イメージだけでラーメンを悪者にする風潮は、まさに本末転倒と言えるでしょう。
ただし、一つだけ注意していただきたいのが「食べるタイミングと作法」です。
たとえば、多忙な現役世代に多い「朝食を抜き、空腹時間が極端に長くなった状態で昼食を迎える」というパターン。この状態でいきなり麺(糖質)をかき込んでしまうと、血糖値が急上昇し、脂肪を溜め込みやすい代謝モードを招いてしまいます。
もし、十分な栄養を摂れなかったあとの食事としてラーメンを選ぶなら、「たんぱく質ファースト」がより大きな意味を持ちます。たんぱく質や脂質には血糖値の上昇を抑える働きがあるためです。
まずはスープをひと口味わい、次にチャーシューや味玉、トッピングの野菜から箸をつける。この簡単な順番を徹底するだけで、ラーメンは体と脳への的確なエネルギー補給となり、明日への活力をチャージする頼もしい健康の味方へと姿を変えるのです。
(参考文献)
・柴田博『中高年健康常識を疑う』(講談社)
・「国立がん研究センターがん対策研究所」肥満指数(BMI)と死亡リスクSasazuki S, et al. Journal of Epidemiology 2011;21(6):417- 430.
・Shibata H. et al. Nutr healt 1992;8:165-175.
