男性社会に本能的に同質化していった

野村ホールディングス 執行役員 経営企画担当 鳥海(真保)智絵さん

仕事のうえで「男性だから」「女性だから」と意識することはほとんどありません。「男性社会」についてどう思うか、と問われることもありますが、いわゆる「男性社会の論理」と呼ばれるものは、性別に起因するものではなく、単に「多数派の論理」と考えています。

もし敢えて男性社会の特徴を挙げるなら、インフォーマルな人のつながりが形成されやすいことでしょうか。例えばその象徴が「タバコ部屋」です。実際はどうかわかりませんが、タバコを吸う人たちの間で情報がやりとりされ、「多数派」の価値観が形作られているのではないかと部外者は想像する。そういう非公式なネットワークは、一般に女性社会では少ないように思います。現状においては、そうした「少数派」のインフォーマルなネットワークを意識的に作っていくことも必要なのかもしれません。

仕事に男女の意識を持ち込まないせいか、これまで特に「女性だから不利」などと思ったことはありませんでした。むしろ、私のほうから男性社員に同質化していったと説明するほうが正確かもしれません。理屈でそう判断したのでなく、それが正しいとも思っていませんが、今思えばおそらく本能的な対応だったのでしょう。

女性の後輩から見れば、「あんな髪を振り乱してまで頑張りたくはない」と思われる場面もたぶんあったでしょう。自分では無理していないつもりでも、「働く女性として目指したい姿」ではないかも……と数年前にふと気づきました。彼女たちが肩肘張らなくても活躍できる職場環境を整えることも、私たちの役割なのだと今は思っています。

部下が辞めていった

他人から見れば、常に前向き、パワフルに見えるかもしれませんが、私もヘコむときはヘコみます。しょっちゅうヘコんでる。

課長時代に、部下が何人か辞めていったことがありました。ほとんどは給与の高い会社に転職していったのですが、上司の自分が目標や将来の絵姿をうまく示せていないせいかも、と落ち込みました。会社のビジョンが見えなければ、自分自身の将来も思い描けない。「この会社にいれば、将来、これだけのことができますよ」とビジョンを掲げて、仕事のオポチュニティ(機会)を十分に与えてあげられていれば……。いま振り返ると、そういう対話が足りなかったのです。

しかし、ときにはヘコんで自分を見つめ直す時間も大切でしょう。ずっと上をめざして突き進んでいれば、壁にぶつかったときにボッキリ折れる。だから、少しぐらいタワミがあったほうがいい。力を抜くことも大切です。これは、私が働くすべての女性たちに伝えたいことです。

毎日が同じでも、いつかわかる日がくる

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鳥海さんのキャリア年表

入社から24年になりますが、「あ、自分の視野が広がった」と気づく瞬間が過去何回かありました。最初に思ったのは入社3年目くらい、いまの自分から見ればごく小さな範囲ですが、「世の中のことが少しわかった」と思えるような瞬間がありました。2度目は、留学から戻った入社10年目の頃。そして3度目が、05年に当時の古賀信行社長の政策秘書を務めていた頃です。このときは、初めて甲板に出て水平線を眺めたと思えたほど、ものの見方や考え方が一変しました。

それは何かの特別な出来事が起きて、それがきっかけで変わったわけではありません。ふとした瞬間に「あ、そういうことだったんだ」とわかるのです。これまで蓄積してきた小さな経験が、ある日突然、頭のなかでつながって見えるのです。これは、小さなステップを積み重ねるしかありません。

だから若い人たちにも、「毎日同じことの繰り返しでつまらないかもしれないけど、急に視野が開ける瞬間があるよ。必ずいつかわかる日がくるから」とアドバイスしています。

もちろん、そのような成長実感を得るためには、日々の仕事の意味をしっかり考えている必要があります。「この仕事の先にあるものは何だろう」と好奇心を持ち、前向きに取り組むからこそ、あるとき多くのことが見えるようになるのだと思います。